林業NOW
# 8
hibi-ki的 ぶっちゃけトーク vol.1
かつて森林組合にいた人たち
2021.12.9

森林・林業分野のファーストステップである「森林・林業白書」を紐解いていく“林業NOW”。今回は白書などを読むだけでは知ることのできない当事者たちの声に耳を傾けるべく、オンラインでぶっちゃけ座談会を開催しました。話を聞いたのは、林業従事者が多く所属する“森林組合”でかつて働いていた男女3名です。今は別の道を歩んでいますが、それぞれ何を思い、今に至るのでしょうか。

写真:西山 勲/文:田中 菜月

森林組合に入ったきっかけ

《座談会の参加者》
Aさん:20代男性/東海在住
Bさん:30代女性/関西在住
Cさん:30代男性/関東在住

ーー まずは皆さんが森林組合に入った経緯を教えてください。

A:
大学時代は地方創生に関わることを学んでいたんですけど、当時お世話になった方は山で働いている人が多くて、自分もその道に進もうと思うようになりました。そして、同級生たちと同じように自治体の林業職員を目指そうかどうかと思っていたとき、欧州で活躍する「フォレスター」の存在を知って憧れたんです。

彼らのキャリアステップは林業の現場で経験を積んでから、地域全体の森林管理を担うという流れみたいで。大学の頃、行政が政策を考えてもそれが地域に馴染まないとか、そもそも地域で必要とされている政策なのかといったジレンマを抱える現場を自分も見てきたので、まず林業の現場に入って、技術を習得したいなと思ったんです。

それでいくつかの林業事業体を見て回って、一番良さそうだなと感じた森林組合に入りました。決め手は、働いている職員さんが若くて、組織として勢いがあったことですね。新しいことをやっていこうという風を感じました。組合に入ってからは事務や素材生産(※)の仕事を経験しました。

それでいくつかの林業事業体を見て回って、一番良さそうだなと感じた森林組合に入りました。決め手は、働いている職員さんが若くて、組織として勢いがあったことですね。新しいことをやっていこうという風を感じました。組合に入ってからは事務や素材生産(※)の仕事を経験しました。

※素材生産とは、山に立っている木を伐採して丸太(素材)に加工し、集積場所まで運ぶ作業のこと。

※素材生産とは、山に立っている木を伐採して丸太(素材)に加工し、集積場所まで運ぶ作業のこと。

Bさん:
家族で長野県の上高地へ旅行に行ったとき、山の中で測量している人を目にする機会があって「すごくいいな」と思ったんですね。その姿に憧れて山の中で働きたいと思うようになりました。山で働くというと林業しか思いつかなかったので、高校卒業後は林業系の学校に進学しました。そこで林業の基礎知識や技術を学んだあと、フリーターを経て林業に従事することになります。

就職する際にいろいろな事業体の面接を受けたんですけど、“女性”であることがネックになるといわれて、なかなか採用まで至らなくて。その中でたまたま雇ってくれるところが見つかって就職できました。その森林組合は「森林施業プランナー」(※)を募集していたので女性でも雇ってくれたみたいです。

※森林施業プランナーとは、森林所有者に代わって地域の森林を管理する人のこと。長い目で見て、ある一定のまとまった森林をどうしていくのか具体的に計画を立てる。事業収支なども取りまとめ、森林所有者に対してそれらを提示し、業務を受託する。現場作業員への指示や作業工程の管理なども行う。事務作業が多いため、現場作業員ほどの体力は求められない。詳しくはこちら

最初の3年くらいは緑の雇用(※)を通じて、下草刈りや枝打ち、間伐などの技術研修を受けました。3年目を過ぎたぐらいからプランナーの仕事も任せてもらえるようになりましたね。人手が足りないときは一緒に山に入って、山仕事もしてました。

※緑の雇用は林野庁の補助事業で、林業事業体に新たに就職した人に対して、講習や研修などを行い林業技術や知識の習得を支援する制度。1~3年目は年間で20~30日ほどの集合研修が行われる。認定を受けた事業体には新規就業者の研修等に必要な経費が支援される。詳しくはこちら

Cさん:
大学生のときは文学を研究していました。ただ、影響されすぎてしまうところがあって、文豪の本を読んで「そうか、酒はいっぱい飲んだほうがいいんだな!」みたいに思い込んで大学も行かないようになって、留年してしまってですね。就活とかもやってなかったんですよ。「俺は就活しない!」「マイナビとかリクナビに登録したくない!」みたいなことをずっと言ってました(笑)

大学5年生の冬になって、「本当にこれからどうするの?」ってときに、お酒を飲みすぎて体調を壊し、入院することになってしまいました。そこで初めて「なんかこれじゃ良くないな」と気付いて、「今までの自分と一番逆のこと、想像できないような仕事をやってみよう」って考えたときにパッと思いついたのが林業だったんですよね。

たまたま実家の近くの森林組合が職員を募集していたので応募しました。面接に行ったら「じゃあ明日から来てください」みたいな感じですぐ採用になりましたね。次の日に「チェンソーはいつもらえるんですか?」って組合の人に聞いたら、「君は現場の仕事はしないよ」みたいに言われたことをすごい覚えてます。募集内容には「森林の保全業務全般」と書いてあったので、当然木を伐るもんだと思ってたんですけどね。「森林組合の職員募集」って書いてあっても、職員は“事務方”のことで、作業員は“森林施業担当”みたいな分類だってことは初心者じゃわかんないじゃないですか。本当に何もわからず入ったという感じでした。

たまたま実家の近くの森林組合が職員を募集していたので応募しました。面接に行ったら「じゃあ明日から来てください」みたいな感じですぐ採用になりましたね。次の日に「チェンソーはいつもらえるんですか?」って組合の人に聞いたら、「君は現場の仕事はしないよ」みたいに言われたことをすごい覚えてます。募集内容には「森林の保全業務全般」と書いてあったので、当然木を伐るもんだと思ってたんですけどね。「森林組合の職員募集」って書いてあっても、職員は“事務方”のことで、作業員は“森林施業担当”みたいな分類だってことは初心者じゃわかんないじゃないですか。本当に何もわからず入ったという感じでした。

Aさんのところとは違って、組合の中でも職員と作業員で完全な分業制になっている古いタイプの組合でした。「森林経営計画制度」(※)が本格的にはじまった頃に入社したので、若いからといろいろ研修に行かせてもらって、早い段階でプランナー的な業務を担当させてもらっていました。

※森林経営計画制度とは、森林経営を行う、ある程度まとまった森林を対象に、その森林をどのように整備し、保全し、木材を生産するのかについての計画を5年ごとに立てるもの。「森林法」の一部改正により2012年4月1日から運用がはじまった。詳しくはこちら

面白かったこと
しんどかったこと

ーー 森林組合で実際に働いた中で、どんなところに面白みを感じていましたか?

Aさん:
昼食を自然の中で食べられる経験は良かったです。それと、現場で働いていたときのチームは、和気あいあいとしていて、お互いを信頼し合っていました。命に関わる仕事だからこそ、当時の自分たちはチーム力が結構あって。同世代の男だけだったっていうのもあるんですけど、ときどきプライベートでも一緒に遊ぶくらい親しい関係でした。

Aさん:
昼食を自然の中で食べられる経験は良かったです。それと、現場で働いていたときのチームは、和気あいあいとしていて、お互いを信頼し合っていました。命に関わる仕事だからこそ、当時の自分たちはチーム力が結構あって。同世代の男だけだったっていうのもあるんですけど、ときどきプライベートでも一緒に遊ぶくらい親しい関係でした。

Cさん:

組合に入って最初に“作業道づくり”を任されたんですけど、山の中にどうやって道をつくるかなんて全然わからな
じゃないですか。下請けの詳しい人と一緒に山を歩いて、教えてもらいながら少しずつつくっていきました。はじめは、「ここに道が入るって全然想像できないな~」と思いながら道を入れる箇所を検討していたんですけど、やってるうちに少しずつ地形が見えてくるっていうか、地図や現地を見るだけでどこに道をつくることができるのかわかるようになってくるんです。山の見え方ってこんなに変わるんだっていうのを最初の1年ですごく感じて、面白い経験だったなと思いますね。

組合に入って最初に“作業道づくり”を任されたんですけど、山の中にどうやって道をつくるかなんて全然わからな
じゃないですか。下請けの詳しい人と一緒に山を歩いて、教えてもらいながら少しずつつくっていきました。はじめは、「ここに道が入るって全然想像できないな~」と思いながら道を入れる箇所を検討していたんですけど、やってるうちに少しずつ地形が見えてくるっていうか、地図や現地を見るだけでどこに道をつくることができるのかわかるようになってくるんです。山の見え方ってこんなに変わるんだっていうのを最初の1年ですごく感じて、面白い経験だったなと思いますね。

あとは、僕が入った頃に林業界でも効率化の動きが出てきたんですね。なので、Excelを使って作業日報を作成するとか、いろんなフォーマットをつくってました。ベテランの職員さんは「山を見ればだいたいいくらの利益になるか勘でわかる」みたいなことをいうんですけど、僕がExcelで作った計算式でも、そのベテランの勘にだんだん近付けるようになって。全員同じように対応できた方が便利だし、勘よりExcelの方がいいじゃないですか。そのうち組合の人たちも僕がつくったExcelを積極的に使ってくれるようになって、そこに面白しさを感じてました。一応論文とかも読んだりして、造材(丸太を必要な長さに切りそろえること)の長さによって作業全体の効率がどう影響されるかだったり、樹種と木の太さがどれぐらい作業効率に関わっているかみたいな、数字のことをずっと考えてました。組合にそういう発想の人がいなかったので、面白がってもらえたみたいです。

あとは、僕が入った頃に林業界でも効率化の動きが出てきたんですね。なので、Excelを使って作業日報を作成するとか、いろんなフォーマットをつくってました。ベテランの職員さんは「山を見ればだいたいいくらの利益になるか勘でわかる」みたいなことをいうんですけど、僕がExcelで作った計算式でも、そのベテランの勘にだんだん近付けるようになって。全員同じように対応できた方が便利だし、勘よりExcelの方がいいじゃないですか。そのうち組合の人たちも僕がつくったExcelを積極的に使ってくれるようになって、そこに面白しさを感じてました。一応論文とかも読んだりして、造材(丸太を必要な長さに切りそろえること)の長さによって作業全体の効率がどう影響されるかだったり、樹種と木の太さがどれぐらい作業効率に関わっているかみたいな、数字のことをずっと考えてました。組合にそういう発想の人がいなかったので、面白がってもらえたみたいです。

Bさん:
私は都市部の出身なんですけど、もともと山とか自然がいっぱいあるところがすごく好きなので、山に入れる、田舎で暮らせるっていうだけですごくうれしかったです。規模の小さい森林組合だったこともあって、入って4年目ぐらいには自分で仕事の段取りがすべてできるようになったことが面白かったなと思います。例えば、竹やぶに覆われた山の整備を任されたんですけど、実際に道をつけて、竹を切って、搬出して、竹の幹はパレットをつくっている会社に利用してもらったり、フォワーダーやバックホーなどの重機にも乗って、施主さんともやりとりをして、何から何まで全部やらせてもらえました。今から思い返すと面白かったなと思います。

ーー 逆に、「あれはしんどかったなあ」など印象に残っていることはありますか?

Aさん:
森林組合で4年半働いていたのですが、最初の1年ぐらいは事務職だったんです。そのあとから現場作業の担当になりました。現場をはじめて最初の1年間は本当に、くたくたでしたね。大きなケガや事故は特になかったですけど、体力がつくまではかなりしんどかったです。

Bさん:
私は下草刈りをしていたときに、ハチに唇を刺されたことがあります。金槌で殴られたような痛みでしたね。目の前が真っ暗になって、しばらくしたら治まるんですけど、その日の晩にはパンパンに腫れてきて。喉のあたりまで腫れて呼吸が苦しかったです。

Aさん:それアナフィラキシーショックの1歩手前ですよね?

Aさん:それアナフィラキシーショックの1歩手前ですよね?

Bさん:そうかもしれないです。

ーー ハチ以外にも危険な目に遭ったりましたか?

Bさん:
そうですね。高所作業でクスノキの木の枝を伐採していたときに、その枝が自分のほうに倒れてきたことがありました。安全帯はつけてたんですけど、あばらのあたりに枝が当たって、そのまま後ろに落ちてしまいました。肋骨の骨折とぎっくり腰になってしまって、体へのダメージが大きかったですね。

(一同驚愕)

Cさん:
しんどかったことは、面白かったことのほぼ裏返しですね。今まで数字を見てこなかった人たち、例えば作業員の方に1日どれだけの木を伐り出してきたかを日報に書いてもらうのに手こずりました。嫌がる人もたくさんいますし。それと、僕もいまだに結論は出ないですけど、間伐するときに何を優先するかも悩ましかったです。どうしても見た目の美しさを優先したい人もいますから。「そんな林地残材(※)、気にしなくていいからどんどん間伐進めましょう」って感じで僕は言ってましたけど。でも、「山が汚くなるからそれは嫌だ」というのももちろんわかるんです。作業員だけじゃなくて理事の方ともバチバチ議論してたので、大変と言えば大変でしたね。

※林地残材(りんちざんざい)とは、間伐など木の伐採をした際の枝葉や幹などをその場にそのまま残したもの。処理の仕方はさまざまで、すべてバイオマスボイラー・発電の燃料材として活用したり、山のどこかにきれいにまとめて置いておいたり、手間を省くためまったくノータッチのこともある。

高い離職率?その実感は

ーー 緑の雇用が終わる“3年後の離職率”って、実際どうなのかなと思っていまして。肌感覚でどう感じてらっしゃるのかお聞きしたいです。

Aさん:
たしか、緑の雇用の研修1年目は参加者が34人ぐらいいたんですけど、最後の3年目になると17人ぐらいで半分以上に減っていました。研修生の3年間で結構減ったなあと思いましたけど、毎年恒例という感じですね。

Bさん:
私のところもAさんと同じように3年で半分くらい減りました。途中で研修に行かせてもらえない人もいれば、森林組合を辞めて他の事業体に入ったタイミングで研修に行けなくなった人もいるし、もう完全に林業じゃない世界に行ってしまった人もいますね。

Cさん:
もうあまり覚えていないんですけど、自分に置き換えてみたら続かないだろうと感じますね。あの仕事の大変さとお給料がどれくらいかは知っているので、それを考えると仕事を続けないほうがいいんじゃないかなって普通に思いますね。

ーー そういう状況に対して、組合の管理職の方とかはどう思われてるんでしょうか。

Aさん:やばいとまでは思ってないかもしれないですね。

Cさん:
そもそも職員の回転が速いというか、あちこちから転職してくる方もたくさんいるので、慣れちゃってる側面はあるんじゃないかなと思います。

ーー そうなんですね…。流動性が高すぎても林業にあまりいいイメージを持たれなくなる気がしていて、そこは課題がありそうだなと思いました。

Aさん:
あくまで僕の個人的な考えですけど、やっぱり林業は危険な仕事ではあるけれど、もっと給料が高かったら続ける人が多くなるんじゃないかなと思うんです。自分が辞めた理由はまた別なんですが、周りには家族が増えて今の給料で養えないからって辞めていく人も多かったですね。

ーー ちなみに、いろんな給与形態があると思いますけど、皆さんはどうでしたか?あ、皆さん月給制だったんですね。

ーー ちなみに、いろんな給与形態があると思いますけど、皆さんはどうでしたか?あ、皆さん月給制だったんですね。

Aさん:
でも月給制はマイナー組ですよね。現場の作業員さんはまだ日給制の人も多いと思います。それこそ森林・林業白書に書いてありますよね。

ーー 書いてありましたね。確か月給制が全体の3割ぐらいでしたかね。

▼該当記事はこちら
https://hibi-ki.co.jp/ringyonow002/

何のために、誰のために
林業をやっているのか

ーー お三方は緑の雇用終了後も残ったものの、最終的には組合を辞めるという選択肢を選んだわけですが、そうなった経緯についてそれぞれ教えてください。

Bさん:
辞めた理由はいろいろあるんですけど、中でもメインで担当していた「提案型集約化施業」(※)に対して不信感があったことが大きいです。「自分は本当にその山のためになることをしているのかな?」「大好きな山なのに、逆に自然破壊をしてしまっているのではないか」と思うようになりました。あとは、上の立場の人と折り合いが良くなかったことも理由の一つですね。

※提案型集約化施業とは、所有者がバラバラになっている森林を集約し、森林所有者に対してどのように木材生産を行うのか提案して、一体的に生産を進めていくもの。林業が自立した産業になるには、高性能林業機械を導入して労働生産性を向上させ、さらに効率的な作業ができるよう林内に道を整備するため、森林を面的に取りまとめる必要があるとの考えから取り入れられた。詳しくはこちら

Cさん:
僕もたぶん、Bさんに近いと思うんですけど、誰のために林業をやってるのかがわからなくなったことが大きいと思います。誰のためにっていうのは、山主さんや組合員さん、自然環境とかさまざまあるんですけど。どのバランスを取るかっていうことですよね。山主さんに利益を還元すべきなのか、それよりも環境に配慮するべきなのか、自分でも答えが出ませんでした。

それに今、国が搬出間伐(※)に税金を使っているのって絶対良くないとも思っていて。保育間伐だったら百歩譲ってわかるんですけど、あきらかに「搬出間伐にお金をつけすぎているのでは?」と僕は思うんです。木を伐らなくてもいいような山でも搬出間伐しているところがあると思うので、本来であれば割に合わないような山でも補助金によって割が合うようにしちゃっている。それは良くないんじゃないかな。ただ、それっていち組合員が変えられることじゃないじゃないですか。自分だけの力では変えられない部分に不満を持ってしまったことが辞めるきっかけになったと思います。

※間伐とは、植えた木の適正な密度を保つために行う作業。保育間伐は木の成長のために支障となる木を間引くだけだが、搬出間伐では大きく成長したスギやヒノキであれば、間伐で伐採した木を運び出して市場等に販売し、収益につなげる。

photo by Saori Shikiji

Aさん:
僕もCさんと近いですね。ここにいても自分がやりたい方向、いいなって思える方向には行けないと思ったので組合を辞めました。まさにBさんがおっしゃっていた自然破壊みたいなことを、僕が組合に入ったときぐらいからやっていて。奥山のかなりの急傾斜地で大面積の皆伐(対象地に生えている木々をすべて伐り尽くしてしまうこと)をバンバンやりはじめていて、その面積が年々広がっていきました。急斜面での作業は大変で手間暇(コスト)も通常よりかかりました。それでいて皆伐してもその売り上げでもう一度植林する費用がまかなえない。結局植林も補助金頼みになるわけなんですが、そんな皆伐地の周囲には放置された山が広がっていて。「結局同じことを繰り返すんじゃないか」ともどかしさを感じていました。

昔は植林自体もお金になったみたいですし、木材も高く売れていたからモチベーション高くやれたと思うんだけど、今そんな夢が見られない。なのに、自然破壊のごとく山の木をどんどん伐って出せ出せで。そんなの現場に携わる者としては嫌ですよね。伐った後は、補助金で植林をして、さらに補助金で獣害防止用のネットを張って苗木を守るんですけど、鹿に入られてしまったままメンテナンスもろくにしない。結局、補助金を使ってやった仕事が無駄になってしまって、植えた木が盆栽状態(シカの食害により木が盆栽のように矮小化してしまう)になった場所で下草刈りをすることもあって、「なんでこんなことやってんだ?」と思いながら作業したこともありました。

二宮尊徳の言葉で「道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である」ってあるじゃないですか。まさにそれですよ。何のために林業をやっているのか。今は、補助金がどんどん出ていて、行政からもっと使ってくれと言われるほどです。なんだか補助金を消化するために仕事をしてるみたいで、そこには全然魅力を感じなかったです。補助金で荒廃した森林を整備する事業もあったんですけど、整備したはずなのに風倒木(風で吹き倒された木)がたくさん出て、逆にその風倒木がお金になっていることもあって。道徳がないなと思いましたね。

二宮尊徳の言葉で「道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である」ってあるじゃないですか。まさにそれですよ。何のために林業をやっているのか。今は、補助金がどんどん出ていて、行政からもっと使ってくれと言われるほどです。なんだか補助金を消化するために仕事をしてるみたいで、そこには全然魅力を感じなかったです。補助金で荒廃した森林を整備する事業もあったんですけど、整備したはずなのに風倒木(風で吹き倒された木)がたくさん出て、逆にその風倒木がお金になっていることもあって。道徳がないなと思いましたね。

Cさん:
国は高性能林業機械をどんどん導入しようという方向で動いていますけど、林業機械って買ったらとにかく動かさないといけないんですよ。投資した分が回収できなくなるから。林業機械を使いはじめたら止まれない仕組みになっていて、素材生産量(伐採して出てくる木材の量)を増やしていくしかない。それが良くないなと思いますね。

ーー 高性能林業機械って何千万円もしますもんね。

Aさん:
2025年までに木材自給率を50%にするっていう目標を掲げたから、こんな事態になってるんだと思うんですが、「その目標を達成したら本当に山に関わってる人や国民は幸せになるの?」っていう本質の部分に疑問が残りますね。数字を達成するために超高額な林業機械を導入して、大量生産の循環から抜け出せなくなっちゃう。それでいて植林・育林のコストがまかなえないから、はげ山や放置林も増えているわけで。それって絶対持続可能じゃないなって思います。

Aさん:
2025年までに木材自給率を50%にするっていう目標を掲げたから、こんな事態になってるんだと思うんですが、「その目標を達成したら本当に山に関わってる人や国民は幸せになるの?」っていう本質の部分に疑問が残りますね。数字を達成するために超高額な林業機械を導入して、大量生産の循環から抜け出せなくなっちゃう。それでいて植林・育林のコストがまかなえないから、はげ山や放置林も増えているわけで。それって絶対持続可能じゃないなって思います。

Bさん:
まさにその通りだなと思って聞いてました。うちの組合は年間でこれだけ出すっていう目標数量が毎年、行政から設定するように言われていて。設定分の数量をとにかく達成するために仕事をしている感じでしたね。

みんなが抱える
同じモヤモヤ

ーー 森林組合や業界に対して、「もっとこうなってほしい」という思いは何かありますか?

Cさん:
僕もそうなんだけど、林業のことをわかっていても、製材業や木材加工業、木材流通のことはあまりわかっていない人が意外と多くて。「俺たちが伐った木は合板とかになってるんでしょ」ぐらいで止まってます。その先が想像できないから、木材のサプライチェーンがうまくいっていない面もあると思う。今後に期待する部分かもしれないですね。

Aさん:
両方必要ですよね。川上(木を出す側)は川下(木を使う側)のことをわかってないし、その逆もしかりで。スギの“黒芯材”(※)なんて価値のあるものだと思ってなかったんですけど、無印良品の内装材で結構使われているんですよ。乾燥に時間はかかるけど、色味がいいから好まれてるみたいです。お互いが相手のことを知らないんだなと思います。

Aさん:
両方必要ですよね。川上(木を出す側)は川下(木を使う側)のことをわかってないし、その逆もしかりで。スギの“黒芯材”(※)なんて価値のあるものだと思ってなかったんですけど、無印良品の内装材で結構使われているんですよ。乾燥に時間はかかるけど、色味がいいから好まれてるみたいです。お互いが相手のことを知らないんだなと思います。

通常、スギの中心部分は赤褐色になるが、黒芯材はこのような色味を帯びる。

※黒芯材(くろしんざい)とは、丸太の断面を見たときに中心部分が黒色化した材のこと。通常の木材よりも水分を多く含んでいるため木材として扱いにくく、単価も下がるイメージがあるからか、林業者などには嫌われる傾向にある。

Cさん:
川下のほうが資本があるので、絶対有利になっちゃうんですよ。だからこそ川上は川下のことを知って、少しでも交渉できるようにしていかないと。そうじゃないと言われるがままに木を出すことになってしまいます。

Aさん:
そういう経験したことありますね。「こういう材がほしい」って注文を受けるんですけど、それって要はいい材なんですよ。基本的にはそのとき稼働してる現場の中から探してこないといけないんですけど、あまり手入れされていない山が多いんですね。そんな状態の山から“いい木”を出してくると山がダメになるってことを僕らは知っているんだけど、注文した人は知らない。山がダメになるけど、公共施設を建てるために必要なものだしっていう…すごいジレンマですよね。

Cさん:
本当はそこで、「こういう事業って御社の企業理念に反してるんじゃないですか?」「適正価格まで上げることを検討してほしい」ぐらいのところまでちゃんと話ができる人がいないとダメですよね。

ーー そういった契約の交渉ができる方はいないんですか?

Cさん:
普通に課長とか部長レベルのほうが決済するんじゃないですかね。

ちょっと話が変わるんですけど、森林組合というか、林業全体に対して素材生産をがんばるだけの方向は変えたほうがいいんじゃないのかなと思います。素材生産を進める地域があってもいいんですけど、ちゃんと地域を区切って考えるべきです。「持続可能な森林経営を」とか言われていますけど、それを自然環境の面からもう一度考え直してみるべきではないかなと。そうすると、経営的に成り立たない事業体も当然出てくると思うんですよね。それは認めて受け入れて、「だったら何ができるのか?」ということを考えていくべきなのかなと、ぼんやり思ってますね。

Bさん:
森林経営計画は結局、どこの山も全部同じように国の政策に従って作業するんですけど、本当はその山ごとにやるべきことはきっと違ってくると思うんです。この山は全体の3割を間伐するのがいいけれども、こっちの山は4割ぐらい間伐したほうがいいとか2割のほうがいいとか。日頃から山を見てそう感じていて、全部が全部同じようにする必要はないんじゃないかなって思います。

皆伐をした後の山を何年かかけて見てたんですけど、皆伐した後に全然木が生えてこないんです。植林しようにも、苗木を食べられないようにする獣害対策ネットを張る必要があります。ただ、植林と獣害対策の両方の補助金をもらったとしてもコストがかかりすぎて逆に赤字になってしまうので、結果的に皆伐したら木を植えずに放置してしまうところが多いみたいです。それってどうなのかなって。何とかならないのかなと思います。

Aさん:
森林組合一つじゃ現状は変えられないですよね。国レベルで方針を変えないといけないと思います。それに、補助金ありきじゃないと成り立たないのは業じゃないですよね。あえて補助金を使わないという選択肢もありだと思います。どんどん山から木を出すと供給過多になって価格が安くなってしまうから、逆に育林とか環境のために間伐をして、素材生産は抑える。そうすれば供給より需要が上回って、木材価格を上げられるかもしれないし。

Aさん:
森林組合一つじゃ現状は変えられないですよね。国レベルで方針を変えないといけないと思います。それに、補助金ありきじゃないと成り立たないのは業じゃないですよね。あえて補助金を使わないという選択肢もありだと思います。どんどん山から木を出すと供給過多になって価格が安くなってしまうから、逆に育林とか環境のために間伐をして、素材生産は抑える。そうすれば供給より需要が上回って、木材価格を上げられるかもしれないし。

Cさん:
さっきも言ったように、地域に大型の木材加工センターみたいなものができちゃったりすると、何年も先の需要が決まるサイクルができてしまうので、そこをどうするかですよね。

Aさん:
木材自給率を上げるために合板工場やCLT工場、バイオマス発電所をつくってしまうと、木材の使い道は限られますよね。

ーー 今話していたようなところに不満や無力さを感じて組合を辞めていった人もいらっしゃると思うんですけど、皆さんの周りに違う形で森に関わり続ける人もいるんでしょうか?

ーー 今話していたようなところに不満や無力さを感じて組合を辞めていった人もいらっしゃると思うんですけど、皆さんの周りに違う形で森に関わり続ける人もいるんでしょうか?

Cさん:
そうですね。林業以外で森林の価値創出に取り組んでいる方はいらっしゃいますね。僕の直接の知り合いじゃないですけど、搬出間伐以外にどうやって森から利益を生み出せるかを考えて、山でサバイバルゲームを運営している人がいます。

Aさん:
独立したのかどうかわかんないですけど、特殊伐採をやっている人は知ってます。苗木の生産もはじめたいみたいな話もしてましたね。それこそ、Bさんも個人で山に関わってますよね?

Bさん:
そうですね。知り合いに整備してほしいって頼まれたので、山にも入らせてもらってます。やっぱり山に入るのがすごく好きなんです。

Bさん:
そうですね。知り合いに整備してほしいって頼まれたので、山にも入らせてもらってます。やっぱり山に入るのがすごく好きなんです。

Cさん:
これまでの話を聞いていると、森林組合の方に期待することって“外の世界”を知ることなのかも。それも林業と全然関係ない、一般的なビジネス手法やマーケティングのことをもっと勉強していくのがいい気がします。例えば「ナラティブ」とか「パーパス」の大切さって最近のビジネス書とかでもよく言われてて、「物語を語っていくことをビジネスにどう生かしていくか?」みたいな考え方なんですけど、たぶんそれは林業とすごく相性がいいと思う。他にも、テクノロジー系の業界で「コンヴィヴィアル」っていう人間とテクノロジーが共に生きる社会を目指す概念があるんですけど、そんな感じで林業と相性がいいであろう概念が結構あります。そういった考え方に触れていったら意外と面白い方向に進んでいけるんじゃないかなと思います。

Aさん:
僕もそう思います。人に言われたっていうのもあるし、自分が今、外の世界に出てきたのもあって。以前、ある森林組合へ見学に行って、そこで組織や事業改革を行って業界的に話題になった方から話を聞く機会があったんですけど、その方はもともと別の業界に勤めていたみたいなんです。地元に戻ってきて森林組合に入ったら、「ここは大正時代か?」みたいな感じだったらしくて。そういう外の世界も知ってるような人が管理職やトップに就いたほうがいいと思うんですよね。

ーー 深く深く業の世界を知るだけじゃ足りないってことですね。

Cさん:
少しだけでもいいので、“広く浅く”外の世界を知ることも必要じゃないかなって気がしますね。

3人が森林組合に入った経緯はまったくバラバラでしたが、辞めることになった要因には重なる部分が大きくありました。「自分たちの仕事は山や地域のためになっていたのか?」その疑念は今でも残っているようです。ここで取り上げた声は数ある意見の中のごく一部ですが、実際に働いていたときに感じていたことは事実ですし、もしかすると同じように感じながらまさに今、働いている人もいるかもしれません。

3人が森林組合に入った経緯はまったくバラバラでしたが、辞めることになった要因には重なる部分が大きくありました。「自分たちの仕事は山や地域のためになっていたのか?」その疑念は今でも残っているようです。ここで取り上げた声は数ある意見の中のごく一部ですが、実際に働いていたときに感じていたことは事実ですし、もしかすると同じように感じながらまさに今、働いている人もいるかもしれません。

仮説ではありますが、自然や森に関わりたくて森林組合に入ってくる人は、自然との共生や調和を重んじる人が多いでしょう。だからこそ、働く中でそこに矛盾を感じ取ってしまうと、辞めるという選択肢を選んでしまうのではないでしょうか。その矛盾は個人の力で解決できるようなものではありません。だから、自分の納得のいく森との関わり方を今も探り続けている、そんな気がしました。実際、Aさんは異業種の民間企業で新たな森づくりに挑戦しようとしていますし、Bさんは材木屋で働きならが休日に個人で山仕事を請け負う活動を続け、Cさんはメディアの分野で森や林業にふれ続けています。

実は筆者である私自身も、この3人の座談会を聞きながら近い思いを持っているなと感じていました。6年ほど前に岐阜県立森林文化アカデミーの学生だったとき、そこで教えられた林業の目指す方向性に違和感を覚え、地元の森林組合に就職するか迷った挙句、この道ではないと結論づけて今の会社を選んだからです。(もちろん理由は他にもありますが)

入社した当時の飛騨五木株式会社では、木製品の開発や木質空間の提案、自然エネルギー事業、森林信託など、木材の多角的な活用に加えて、木材を生産せずとも森林そのものの価値を高めていけるような取り組みをはじめようとしている段階でした。そうした取り組みに共鳴し、この道なら納得感を持って働けるのではないかと思い、入社を決めたのでした。

19年末から同社でスタートした響hibi-kiのメディア事業は、林業の担い手を増やすきっかけづくりに一役買えないかと活動がはじまりました。林業に従事しなくても、せめて森のそばで暮らし、日常的に何かしらの形で森にふれる人を増やしたい、できれば異業種・異分野からの人が多く来てくれれば、座談会でも話にあったような外の世界を知っている人が増えることで、閉塞感のある林業界にも革命が起きる可能性は十分あるのではないか、という思いを抱きながら取材活動を進めています。

そうは言っても結局、今後の林業はどうあるべきなのかは正直わかりません。たぶん誰もわかっていないのではないでしょうか。でも、わからないなりに、より良い方向には進んでいきたいものです。だから、私たちは響hibi-kiというメディアを通じていろいろな人の声に耳を傾け、アイデアを共有しながら、自分たちなりに納得できる道を探り続けるしかないと思っています。

今回の座談会に続き、今後も業界内外の色々な立場の人にこれからの林業のことについて話を聞いてみるつもりです。読者の皆さまもお付き合いいただけるとうれしいです。物申したい!という方もウェルカムです。ぜひ編集部までご連絡ください。

今回の座談会に続き、今後も業界内外の色々な立場の人にこれからの林業のことについて話を聞いてみるつもりです。読者の皆さまもお付き合いいただけるとうれしいです。物申したい!という方もウェルカムです。ぜひ編集部までご連絡ください。

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。