林業NOW
# 5
木材生産量から
林業の変化を読み取る
2020.11.11

森林・林業分野の情報が詰まった「森林・林業白書」を紐解いてゆく「林業NOW」。前回は林業事業体や労働者の現状を調べてみました。今回は、そんな事業体の成果でもある“木材生産量”について読み解いてみます。そこには、時代とともに変化する林業の姿が浮かび上がってきました。

写真:西山 勲/文:高岸 昌平

キノコも林業?
驚きの林業産出額

森林・林業白書の中で、第3章の第1節(令和元年度版)を開くと「林業生産の動向」という項目があります。今回はこの項目の中からピックアップして解説していきます。
●第3章の内容はこちらから閲覧できます。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/30hakusyo/attach/pdf/zenbun-23.pdf

木材生産と一口に言っても、切り口によって見え方はさまざまです。今回は、
①林業産出額
②生産量・樹種構成
③生産地
の3つに絞って見ていきます。

林業産出額は、日本国内における林業生産活動によって生み出された木材、きのこ類、薪炭などの生産額の合計です。以下のグラフを見るとここ30年で大きな変化が起きていることがわかります。

森林・林業白書(令和元年度版)より作成

・昭和55年をピークに減少傾向
・近年は微増であるが、4000億円台で安定(ピークの半分以下)
・栽培キノコ類の生産が林業産出額の半分を占める

林業産出額=木材の産出額、という印象はありませんか?でも実際には、キノコの栽培が半分を占めています。木材生産の影が薄くなってきていることが見て取れます。肝心の木材のみの産出額は、平成22年前後に2000億円を割り込みました。しかし、近年は微増傾向にあります。特に平成29年は2550億円を売り上げ、前年比8%の増加。その主な原因は、木質バイオマス発電や丸太の輸出など新たな需要が生まれたことです。

生産される樹種の構成は
技術と需要で変化する

木材生産量はこの30年で約2/3までに減っています。また、生産される樹種によってシェアも大きく変わっています。

製材されていない丸太状態(素材)の木材生産量を表しています。
森林・林業白書(令和元年度版)より作成
森林・林業白書(令和元年度版)より作成

・スギのシェアは増加傾向
・広葉樹のシェアは大幅減少
・ヒノキは安定したシェア
・カラマツの生産量が増加傾向

昭和60年と平成29年を比較すると、いろいろな樹種を活用する林業から、スギを中心に据えた林業へと変化していることが読み取れます。政策の方向性、需要の変化、技術進歩によって生産される木材も変化しているようです。例えば、これまでカラマツは割れやすかったり曲がったりしやすく、用途が限られていました。しかし、近年の乾燥・製材技術のレベルアップによって用途が拡大、生産量が増えています。今後も技術革新や政府の方針によってまったく異なる変化が出てくるかもしれません。

地域によって異なる
木材生産力

地域によって木材生産量の差は歴然です。気候や立地条件、歴史的な背景など、さまざまな要因が重なって生産力の違いが生まれています。

森林・林業白書(令和元年度版)より作成

上のグラフを見ると、東北と九州で日本の半分の木材を生産していることがわかります。森林資源量の増加や合板としての利用が増えたことが影響したようです。

木材生産に関する近年のデータを見ると、林業産出額・木材生産量ともに底を打ち、ジワリジワリと増加傾向に戻りつつあることがわかりました。使い道のなかった樹種の弱点を克服したり、バイオマスや合板として新たな需要が生まれたり、木材の用途を拡大させてきた結果とも言えるでしょう。

しかし、10年20年という短いスパンで分析して一喜一憂するのではなく、何百年単位の視座を持つ必要もあります。林業は伐採と育林のバランスも忘れてはなりません。森林を持続させながら、産業として成り立たせるために利益を上げる。そこに求められるカギとはなんでしょう?この先も森林・林業白書のデータを探り、見えない林業の本質に光を当てていきます。

高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。