林業NOW
# 4
数字から見る
林業の経営者
2020.8.28
Photo by Saori Shikiji

森林・林業分野のファーストステップである「森林・林業白書」をわかりやすく紐解いていく「林業NOW」。今回は、林業の事業主である“林業経営体”について取り上げてみます。林家・森林組合・民間事業体の大きく3つの視点から見ていきましょう。

文:安江 悠真

はやしや?りんか?
「林家」とは

農業における経営体として「農家」は一般的ですが、林業の経営体の一つである「林家」(りんか)って、あまり聞かないですよね?

森林・林業白書(平成30年度版)では、第三章第一節あたりに林家の話が特に出てきます。

※森林・林業白書(平成30年度版)第3章
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/30hakusyo/attach/pdf/zenbun-23.pdf

林家とは、保有している山林面積が1ha以上の世帯のことを言います。2015年の農林業センサスという統計によれば、林家の数は全国に約83万戸(全世帯のうちの約1.5%に相当)あります。 しかし、実際は保有山林面積が1ha未満の世帯も多く、住宅・土地統計調査報告 (2013年)によると、山林を所有する世帯数は約267万戸ということがわかっています。ただ、こうした統計だけでは把握しきれないほど、山林所有者についての全体像を掴むことは難しくなっているようです。

※2015年農林業センサス(林業経営体数データ)
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003168836

※住宅・土地統計調査のデータについて
http://www.jfssa.jp/taikai/2017/table/program_detail/pdf/101-150/10146.pdf

林業経営体数の組織形態別内訳
平成30年森林・林業白書より作成

林家は“山林を保有している人(世帯)”でしたが、林業の経営体とは少し異なります。過去5年間に伐採や育林の実績・計画などがある事業者が「林業経営体」としてカウントされています。この数は、全国に約8万7000あり、そのうちの9割以上(約7万8000)は「家族経営体」が占めています。この家族経営体のほとんどは、所有林を持っている林家でもあります。全国に約83万いる林家に対して家族経営体は約8万ですから、林家の大半は“山林を所有しているだけ”ということが考えられます。

林家に占める家族経営体の割合

農林業センサスによれば、家族経営体は2010年の約12万5000から2015年には約7万8000に減少しています。このうち、過去1年間に何らかの林産物(木材やきのこ、山菜など)を販売した経営体の数は、約1.1万に限られます。

この背景の一つとして、林家の手取り収入となる立木価格(山に立っている状態の木の価格)の下落が挙げられます。つまり、今、木を売っても割に合わないから、生産・販売活動を控えているということが考えられます。

林業の実働部隊
「森林組合」と「民間事業体」

皆さんが住んでいる地域に「◯◯森林組合」はありませんか?聞いたことがない、という方は「(自分の住む)都道府県名 森林組合」でネット検索すると出てくるはずです。

森林組合を一言でいえば、林家の代わりに森林管理をする組織です。先ほどの山を持っているだけの林家は、こうした組合やこのあと出てくる民間事業体に管理を委託していることが多いのです。

森林組合では、苗木を植えたり伐採したりする一連の作業に加えて、製材工場や木工部門を備えるところもあれば、融資などの金融に手を広げる組合まであり、規模もさまざまです。

農林水産省が出している森林組合統計によれば、森林組合の数は、もっとも多かった1954年には5289でしたが、経営基盤を強化する観点から合併が進められ、2016年には624となっています。組合数は大幅に減っていますが、生産効率の改善や組織改革が進んでおり、素材(丸太)生産量は年々増加しています。

 「民間事業体」は「○○林業」と呼ばれているような林業会社をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。自社で所有する山林を作業地とする事業体もいますが、多くは林家などからの委託や立木買い(山に立っている木だけを買う。土地は買わない)によって生産活動を行っています。2015年の農林業センサスによれば、法人化している民間事業体の数は、2456あります。このうち、過去1年間で木材生産や森林整備等の仕事を請け負った事業体、つまり、実働のある民間事業体は1305です。

組織形態別の素材生産量
*その他は個人経営体や非法人の組織経営体など
平成30年森林・林業白書より作成

このグラフを見ると、年間素材生産量の約半分が森林組合と民間事業体から出てきていることがわかります。なお、施業(作業)別では、森林組合は植林・下草刈り・間伐等の森林整備の中心的な担い手となっており、民間事業体は、木材生産である主伐(伐採による収穫作業)の中心的な担い手となっています。

大規模化が進む
林業の現場

最後に保有山林面積の視点から、もう少し見てみましょう。

林家・林業経営体の数と保有山林面積
平成30年森林・林業白書より作成

このグラフを見ると、保有山林面積が10ha未満の林家が全体の約9割を占めています。一方で、保有山林面積が10ha以上の林家は、全林家数の約1割ですが、それらが保有山林面積全体の約6割を占めています。

林業経営体はどうでしょうか。
保有山林面積が10ha未満の林業経営体が約6割を占める一方、保有山林面積が100ha以上の林業経営体は、全体の4%にすぎないものの、保有山林面積全体の約8割を占めています。

小規模な林業経営では、当然ながら、大規模な林業経営と比較して労働生産性が劣ります。生産性が低いことが一概に悪いとは言い切れませんが、林業の現場では生産コストを抑え収益性を高めるため、経営の効率化や作業の集約化、高性能林業機械の導入や林道の開設など、生産性向上のためのさまざまな取り組みが行われています。その結果もあり、全体的に林業経営体の数は減少していますが、素材生産量は向上しているようです。

森林内で空を見上げると
Photo by Isao Nishiyama

従来は山林を持っていても、森林組合や民間事業体に森林管理を委託する形が一般的でした。しかし、最近では、家族経営体のような小規模な林家が自ら林業に取り組み、持続的に収入を得ていく「自伐型林業」と呼ばれる形態が、地域の林業を支える重要な存在として注目されています。自伐型林業や労働生産性の問題、高性能林業機械などについてもいずれ紹介していく予定です。

次回以降は林業における生産量やお金事情について何回かに分けて解説していきます!

安江 悠真 (やすえ・ゆうま)
岐阜県白川町出身。昆虫少年の延長で岩手大学の農学部に進み、林業と野生動物の関係を研究テーマとして、遠野市でクマを追う。現在は岐阜県に戻り、山の仕事をしながら実家と高山市を往復する日々を送る。