林業NOW
# 2
かなり気になる、
林業従事者数と労働条件
2020.2.21

森林・林業分野のファーストステップである「森林・林業白書」を紐解いてゆく「林業NOW」。初回の「森ってどのくらいあるの?」に続いて、2回目は「森ってどのくらいの人がどんな条件で働いているの?」について読み解いてみました。森で働く人々……霧に包まれている私たちの知らない林業の世界が、少しずつリアルに見えてきました。

文:高岸 昌平

林業従事者って、どんな人?
苗木の育成から木材生産まで

森林・林業白書の中で、第1章の第3節(平成30年度版)を開くと「林業従事者の動向」という項目があります。ここには森で働く人たちに関するデータが凝縮されています。
●第3節の内容はこちらから閲覧できます
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/30hakusyo/attach/pdf/zenbun-9.pdf

「林業従事者」 と言っても日常生活の中で会うことはほとんどないですよね。それもそのはず、林業従事者は日本の全労働者の内わずか0.9%しかいないのです。そんな林業従事者たちは具体的にどのような仕事をしているのでしょうか。まず林業の作業サイクルに沿って考えると、育林(造林)と素材生産の大きく2つに分けられます。それぞれの仕事内容を以下にまとめてみました。

苗木を横一列に等間隔で植える。背中に背負った袋の中にはたくさんの苗木が。

●育林
「地ごしらえ」
苗木が育ちやすい環境をつくるために雑草などを取り除く。

「植栽(しょくさい)」
苗木を山まで運び1本ずつ植えてゆく。次世代の人工林をつくる重要な作業。

「下草刈り」
苗木に十分な日光を当てるため、障害物となる草を刈り取る。夏に行われることが多くもっとも過酷な作業と言われる。

「枝打ち」
木材に加工したときに節が出ないように、若木のうちに不要な枝を落とす。

「間伐」
将来形質の良い建築材になりそうな木を見極めて、より健全に真っ直ぐ育てるために間伐をして木を間引く。生育木に日光がよく当たり、成長も良くなる。

自動で長さを計測して造材できる高性能林業機械「プロセッサ」

●素材生産
「主伐」
収穫作業。収穫された丸太は木材市場などへ運ばれ売買されていく。対象となる林内すべての木を伐採する“皆伐(かいばつ)”と、1本ずつ選びながら伐採する“択伐(たくばつ)”、大きく2つの伐採方法がある。

「造材」
納品先の規格に合わせて丸太の長さを切り分ける。

「集材・運材」
トラックや林業機械(タワーヤーダ、フォワーダー)などで、木材を土場まで集める作業。

育林作業のうち、下草刈りは植えてから5~7年くらいまで毎年夏頃に行います。他の草木との生存競争に負けないようにするためです。枝打ちは事業体によって大きく異なりますが、絞り丸太で有名な北山杉は植えてから6~7年後に枝打ちした後、3~4年ごとに繰り返し枝打ちすると言います。

間伐も事業体によりさまざまですが、植えてから15年前後に初回の間伐を実施し、その後何年かおきに間伐を繰り返し、目標とする状態まで育てたら主伐などの素材生産をする流れになります。

例えば一般的な柱材などに加工する場合は、植えてから40~50年ほどが収穫時期だと言われています。農業をはるかに超える長期的な生産計画が林業では必要になるのです。

この30年で林業従事者は約1/3に
高齢化率も高水準が続く

日本の森林を管理する林業従事者数の推移を高齢化率とともに見ていきましょう。下記のグラフはデータがある1985年からの変化です。

「森林・林業統計要覧2019」より作成

・林業従事者の総数は一貫して減少傾向
・2005年からは4~5万人の間で推移。総数は近年4万人台で下げ止まりの傾向
・総数は1985年時点から64%の減少(2015年との比較)=ピークの1/3に
(ちなみに全職業における労働者数の変動は1%の微増)
・林業従事者の高齢化率は20〜30%台を推移
・すべての職業の高齢化率と比較すると林業は12%高い(2015年時点)

この20~30年の間に林業では機械化や省力化が進み、現在進行系で形を変えています。そのため、一概に減少が悪いということではありませんが、林業を糧として生きる人が30年間で約8万人も減ってしまったことは事実のようです。

またグラフからもわかるように、高齢化率は2000年の30%をピークに、近年は20%台で収まっています。これには、高齢層の林業従事者の減少と若年層の林業への参入が関係しています。

若者の動きと女子就業のメリット
若返りの兆しを見せる林業

「森林・林業統計要覧2019」より作成

グラフのとおり、林業における若年者率は近年上昇傾向です。1990年の6%から、2015年は17%まで上昇しました。平均年齢も2000年の56.0歳から2015年には52.4歳となっています。ちなみに、林業白書では若年者率を35歳未満の従事者の割合と定義しています。林野庁の主導で2003年から始まった「緑の雇用」事業により、林業の知識や技能に関する実地研修などのキャリアアップ支援の効果もあり、若年者の林業参入が増加したとも言われています。

平成30年度版森林・林業白書より作成

続いて、女性の林業従事者数について上のグラフを見ると、一貫して減少していることがわかります。(約85%の減少)今ではすっかり珍しくなってしまった林業女子ですが、近年、全国各地に林業女子会というグループが立ち上がっており、林業に関心があったり実際に現場で働いていたりする女性たちのネットワークが形成されています。現在25の団体が林業女子会として活動中です(2020年1月現在)

また、白書には女性を採用した林業事業体の代表者の話が掲載されています。女性の採用には、3つの利点があるそうです。

1 細かな機械操作に長けていること
2 丁寧なメンテナンス作業ができること
3 職場環境の改善が進み、男性の就業促進に役立っていること

他の産業に比べて林業は身体的負担の大きい作業が多いですが、高性能林業機械の導入が進んだことにより、女性も活躍しやすい環境が少しずつ整ってきました。これまでは比較的体力のいらない育林の部分に携わる女性が大半でしたが、伐採などの素材生産部分に関わる女性も増えてくるかもしれません。男性・女性それぞれの得意なこと・できることを上手く組み合わせることで、生産体制や雇用環境が改善していく可能性も大いにあります。

林業従事者の給与体系の実態
年間の平均給与は?

そして気になるのは給料面ですよね。林業従事者の給与体系は、月給制と日給制の主に2パターンあります。

平成30年度版森林・林業白書より作成

実際のところ、林業では日給の割合がまだまだ多いです。雨のときは休みになる事業体もあるため、日給制の従事者にとって梅雨の時期などは生活が厳しくなってしまうこともあります。さらに、林業従事者の年間平均給与は全産業平均よりも100万円ほど低い約340万円です。(「一目で分かる林業労働(データ編)」より)給与面はまだまだ厳しい現状です。

他産業の10倍の労災発生率
日本一、身体を張っている林業

昔から“3K”(きつい、汚い、危険)といわれてきた林業ですが、現在の労働災害の発生状況はどうでしょうか。

厚生労働省「死亡災害報告」「労働者死傷病報告」より作成
厚生労働省「死亡災害報告」「労働者死傷病報告」より作成

死亡・死傷災害ともに減少傾向にあることがわかります。林業従事者全体の減少率よりも大きく減少しているため、労働災害は減少傾向にあると言えます。それでも林業の労働災害発生率は1000人当たり22.4人と、全産業(2.3人)の約10倍です。

近年の林業は機械化や安全グッズの導入が少しずつ進み、危険性も低下しています。また、各事業体でも労災を減らす対策がさまざまに工夫されていて、VR(バーチャルリアリティ)空間で伐木事故のシミュレーションができるという新たな教育方法なども開発されています。

今後さらなる安全策を講じていくとともに、林業という産業が“新3K”(カッコイイ、きれい、稼げる)な職業としてイメージを刷新できるよう、現状を改善していく必要があります。

今回は林業の世界で働く人々はどのくらいいて、どんな条件で働いているのか? について紐解いてきました。人は減っていて、高齢化もしている。給与は不安定で、労災も多い。しかし、若者の参入も見られる、ということでした。

林業の外の世界を見れば、日本全体では人口減少、世界はIT化と5Gが進んでゆくでしょう。その中で林業の在り方も自ずと変化せざるを得なくなります。

ただ、いつになっても日本の森林(人工林)が管理されていることは当たり前ではなく、危険と隣り合わせで木材を生産する人たちがいることがわかりました。「お米の一粒は農家の汗の一滴だ」とよく言われたものですが、林業に関しても「木材の一片は林業従事者の汗の一滴」なのかもしれませんね。

写真:西山 勲

日本の森林は資源が豊富な一方で林業従事者が減少傾向にあり、労働条件も良いとは言い難いことがわかってきました。どうすれば作業時の危険性を下げたり、収入を増やしたりすることができるのでしょうか。そもそもこれらの課題が発生する要因は何でしょうか。他の視点からも見ることで、何か気づくことがあるかもしれません。今後もデータからヒントを探り、“林業の今”に近づいていきます。

高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。