林業について知りたい、学びたい人へのファーストステップとして「森林・林業白書」があります。森林面積、木材自給率、林業の就業人口、木材の輸出入など、森林を取り巻く現状についての知識がぎっしり詰まった林野庁による報告書です。情報は充実しているものの、初心者が読み解くにはちょっと難しいのがネック。そこで、編集部が白書を紐解き、読者の皆さんとこの連載で学んでいきます。
そもそも森林・林業白書
とは何でしょうか?
「森林・林業白書」と言われても、聞きなじみのない人がほとんどでしょう。簡単に言うと、森林・林業の動向や施策について国会に報告する目的で林野庁が毎年発行している報告書のこと。林野庁の公式ホームページ(https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo)には、年度ごとのデータが掲載されていて誰でも読むことができます。
実は書籍としても販売されていて、278ページ(令和元年度版)にもおよぶ情報が詰まっています。林学を専攻する学生の頼もしい資料となっているのです。まずは白書そのものについて、そして、日本にどんな森がどのくらいあるのか見ていきましょう。
本を開いてみるとグラフや表が充実していて情報が盛りだくさん。でも、テキスト量が多いし専門用語ばかりで、どこから手をつければいいのやら……。重い腰を上げつつ、まずは基本的な日本の森林の状況をピックアップします。
森の形は一つではありません
育ち方と所有形態の違いとは?
第2章「森林の整備・保全」にある「我が国の森林の状況」(平成30年度版)を開くと、森林面積など森林の概況が書かれています。「森林面積はほぼ横ばいで推移しており、2017年3月末現在で2505万haであり、 国土面積3780万ha のうち約3分の2が森林となっている」と記載があります。つまり森林率(=森林面積/都道府県面積×100)は約67%ということになります。
各国の森林率は、フィンランド74%、スウェーデン69%、韓国64%、ロシア50%、アメリカ34%、ドイツ33%、中国22%などとなっています(FAO資料より)。世界的にも日本は森林資源が豊かな「森林大国」と言えそうです。
日本の国土のうち約70%を占める森林ですが、さまざまな視点を持つことで見え方が変わります。今回は育ち方と所有形態という2つの視点で見ていきます。
グラフは、人が植えて育てた森林かどうか、つまりは育ち方の視点から見た森林面積の内訳です。人工林と天然林の違いとは?
人工林:
人が苗木を植え収穫するために管理している山林。スギやヒノキなどの単一樹種が一斉に植えられている。人工林が豊富な地域は古くから栄えた林業地や木材生産に適した立地であることが多い。
天然林:
人工林以外の森林のこと。母樹から落ちた種が自然に芽吹いて森林が形成されるため、多様な樹種が共生している。
「人が苗木を植え収穫するために管理している山林」ということは、人工林=林業の事業地ということ。つまり、森林の約40%を管理しているのが林業なのです。そう、全体の約3分の1しか管理できていないのですね。あとの残りは自然のまま。それが日本の森林なのです。それから少し目線を変えて、所有形態の視点から森林面積の割合を見てみます。
国有林:
国が所有する山林。林野庁が管理している。江戸時代の幕府の御用林や皇室所有の御料林だった森林が多い。
民有林:
国有林以外の森林で、民間事業体や個人が所有しているもの。市町村や県の所有する公有林も民有林に区分される。
グラフから、民間の所有が圧倒的に多いことがわかります。「所有」という言葉からもわかるように、森林は不動産です。必ず誰かしら所有者がいます。この事実を知るまで森はみんなのものだと思い込んでいましたが、違います。山に生えている木の実や山菜は「誰かのもの」なのです。
全国の森林率ランキング
36都道府県で森林が50%以上を占有
続いて、都道府県単位の視点から森林率をランキング形式で比較してみます。森林率とは、地域における森林面積の割合を表します。あなたのお住まいの都道府県は森林県でしょうか? 以下のグラフから確認してみてください。
都道府県別の森林率トップは高知県(84%)です。東京都も意外と多くて36%!アメリカ(34%)よりも多いのです。森林率が50%を超えているのは、36都道府県もあります。ということは、日本の森林はまんべんなく各地にあると言えるでしょう。
今回は白書のうち、1ページほどの情報を多様な角度から掘り下げてみました。たった1ページほどでこんなにも多くのことがわかるとは、新鮮な驚きです。
普段私たちが何気なく景色として見ている森林も一歩足を踏み入れてみると、人工的かどうか、所有者は誰か、といった視点の違いで多様な姿が現れます。そして樹種や樹齢別で森を見ることもできそうです。
さらに世界と比べてみることで日本の森林の豊富さが見えてきます。視点ひとつで森林の姿が変化していくのです。次回も多彩な角度から森林・林業白書を読み取って、新しい森林の姿を見に行きましょう。