おいしい森
# 31
薬草入り五平餅を焼き続けて27年
小さな工房が守り続けてきたもの
2026.3.2

愛知県の歴史スポット「松平郷」のほど近くに、長年地元で愛されている五平餅(ごへいもち)のお店があります。その工房の名前は<滝川ふれあい工房>。

切り盛りしているのは、80代の女性ふたり。小さな工房ですが、週末には遠方から足を運ぶ人もいるほどの人気店です。この店の五平餅の特徴は、味噌だれに薬草が使われていること。でも、何度も通いたくなる理由はそれだけではなさそうです。

今回は、工房の店長の柴田カギ子(しばた・かぎこ)さんと、スタッフの磯谷政江(いそがや・まさえ)さんに、薬草入りの五平餅への想い、ここまでの歩み、そして「これから」についてお話を伺いました。

写真・文:松橋 かなこ

山あいの工房で生まれた
ここだけの五平餅

滝川ふれあい工房は、山々に囲まれた自然豊かな場所。徳川家のルーツともいわれる松平氏発祥の地・松平郷にも近く、古くからの歴史が静かに息づいています。

高速道路の出口から車で約5分。この場所で、愛知・岐阜・長野の山間部の郷土料理「五平餅」を、27年前から作り続けています。

滝川ふれあい工房の外観
工房の外観。

五平餅というのは、炊いたごはんを潰して串につけて、甘辛い味噌などを塗って焼いたもの。地域によって形や味付けが異なり、山間部の暮らしの中で受け継がれてきました。

一般的な味噌だれには、くるみや落花生、ごまなどが入ります。一方で、この工房ではそこに薬草「アマドコロ」 の根を加えています。それが、この店ならではの味わいを生む“決め手”になっているのです。

アマドコロ入りの五平餅の味噌だれ
アマドコロ入りの味噌だれ。

薬草・アマドコロを
使うようになったきっかけ

滝川ふれあい工房の始まりは、今から約35年前。当時は、野菜などの農産物を販売するお店としてスタートしました。

ところが、冬場になると販売するものが少なくなり、「何か通年で販売できるものを」と考えた末に浮かんだのが五平餅でした。

「この土地の料理だからこそ、私たちの手で作りたかったんです。でも、どこにでもある味にはしたくなかった」

そう話す柴田さんは、オープン当時から一緒に活動していた平松トヨ子さんとともに、各地の五平餅を食べ歩き、理想の味を探りました。

写真右が平松さん、左が柴田さん。
写真右が平松さん、左が柴田さん。

その頃、柴田さんは婦人部の薬草部会に所属していて、「薬草を使えないだろうか」というアイデアをふと思いつきました。

最初に試作したのはヨモギ。ヨモギは山野に広く自生していて、古くから親しまれてきた薬草のひとつです。

「これはいいかもしれない」と思って試作を進めてみたものの、加熱すると色が悪くなり、風味も思うような仕上がりにはなりませんでした。

そんな時に、当時お世話になっていた「普及員」と呼ばれる人から、教えてもらったのが「アマドコロ」という薬草でした。

花を咲かせたアマドコロ
花を咲かせたアマドコロ。

アマドコロは、滋養強壮や疲労回復などで知られる薬草で、根の部分は、加熱すると特有の甘味やトロミが出ます。

「これだ、と思いました。味がまろやかで、奥深い風味が出たんです」

こうして、アマドコロ入りの五平餅づくりが始まりました。

アマドコロの根。
アマドコロの根。

「元気でね」と
五平餅がつなぐ人と人

アマドコロ入りの五平餅を作り続けて、約27年。世代を超えて、長年通ってくれる常連さんも多いといいます。

「おばさん元気でね」
「気をつけりんや」
「また来るでね」

店先では、そんな会話がよく交わされています。

五平餅を焼く柴田さん
五平餅を焼く柴田さん。

食欲がないときでも「ここの五平餅なら食べられる」と話す常連さんもいるそう。柴田さんはこう語ります。

「ごはんだで、誰でも食べられる。それがいいんだと思う」

五平餅はただの郷土料理や観光グルメではなく、人と人をそっとつなぐ存在でもあるのかもしれません。

偶然がつないだ
もうひとりの相棒

写真右が磯谷さん、左が柴田さん
写真右が磯谷さん、左が柴田さん。

長年続いてきた工房に転機が訪れたのは、2024年の春。工房を支えてくれていたスタッフが家庭の事情などで相次いで辞めてしまい、柴田さんひとりになってしまったのです。

そんなとき、病院でたまたま再会したのが磯谷さん。ふたりは以前からの知り合いで、忙しい時に手伝ったこともある間柄でした。事情を聞いた磯谷さんは、その場でこう答えたといいます。

「やるよ。手伝う」

突然の決断でしたが、そこから新しい二人三脚が始まりました。「料理も手仕事も大好きなんです。五平餅づくりは楽しいですよ。偶然は必然。出会いって、そういうものですよね」。磯谷さんは穏やかに、そう微笑みます。

この味を、残していきたい

取材時(2026年2月)、柴田さんは88歳、磯谷さんは84歳。忙しいときは家族や仲間が手伝いに来てくれるそうです。

「ここまで続けてこられたのは、仲間のおかげ」

そう話す柴田さんに、これからのことを尋ねると、少し照れたように笑ってこう言いました。

「この味をね、残していきたいですね」

五平餅に手作りの漬物を添えて
五平餅に手作りの漬物を添えて

派手さはないけれど、長い時間と人のぬくもりがしみ込んだ味。松平郷の山合いで焼かれるこの五平餅には、土地の記憶と人のやさしさがぎゅっと詰まっています。

もし近くを訪れることがあれば、薬草がほのかに香るその味と、ふたりのあたたかな笑顔に、ぜひ会いに行ってみてください。

●Information(取材協力先)
滝川ふれあい工房
愛知県豊田市大内町ヒノキ田12
TEL 0565-58-3771
営業時間:金・土・日・月曜の9時~16時

松橋かなこ (まつはし・かなこ)
神奈川県出身、愛知県在住。都心部の小さな山の麓で子育てをしながら、食や環境、エシカルをテーマに執筆活動をしている。好奇心旺盛だがおっちょこちょい。元バックパッカーで散歩や旅行が大好き。養生ふうど主宰。https://yojofudo.com/