自然を楽しむ達人・瀧川正子(たきかわ・まさこ)さんとの対話を通して、自然の恵みを味わう手しごとを紹介する連載シリーズ。葛粉、タンポポコーヒー、コナギに続いて、今回紹介するのは秋を代表する木の実「ドングリ」。ドングリを味わう食の知恵と、季節を五感で楽しむ暮らしについてお伝えします。
日本のドングリは
20種類以上ある
秋になると、森の中や公園で見かけるドングリ。ドングリと一口にいっても、マテバシイやカシ、クヌギなど、それぞれに特徴があり、形状や色もさまざま。「実は日本には20種類以上のドングリが存在するんだよね」と瀧川さん。こうしたドングリは、秋の訪れを告げる「自然の恵み」。コロコロとした愛らしい姿を眺めていると「なんだかホッとする」という人も多いと思います。
ドングリで遊びながら
自然に触れる
昔から、ドングリは遊び道具としても利用されてきました。たとえば、ドングリに穴を開けて楊枝などを刺した「ドングリゴマ」は、簡単につくることができ子どもたちにも大人気。コマを回す「土俵」をつくって、「誰が長い時間回し続けられるのか」を競うゲームもあります。
ちょっとしたドングリの形状や楊枝の刺し方の違いなどによって、ドングリゴマの回り方が変わるのが面白いところ。
「自然の造形には同じものはひとつもない。それぞれの形がとてもユニークで、みんな違ってみんないい。子どもたちは遊びを通して、自然の造形をよく観察するようになる」(瀧川さん)
瀧川さんは、ドングリを使った工作の講座・ワークショップなどにも、これまで数多く携わってきました。
小学1年生を対象にした「秋みつけ」という授業では、ドングリの形を活用して「ドングリカー」という車をつくりました。「子どもたちが夢中になる様子が印象的だった」と語ります。
ドングリを食べてみよう
実は、ドングリは食材として食べることができます。「ドングリを食べる」と聞くと驚く人もいるかもしれませんが、縄文時代はドングリは貴重な食材でした。現存する遺跡からもドングリが発掘されています。冒頭で触れたとおり、ドングリにはさまざまな種類がありますが、今回拾ったのはアベマキ(写真左)とマテバシイ(写真右)。
アベマキはトゲトゲの帽子がついていて、実が丸い形状をしています。アベマキはクヌギとよく似ていますが、アベマキは落ち葉の裏側が白いのが特徴です。アベマキとクヌギはどちらも、椎茸の原木としてよく利用されています。
マテバシイはウロコのような帽子があり、長細い形状をした常緑樹です。
アベマキは渋味が強いので「アク抜き」の必要がありますが、マテバシイは渋味が少なくそのまま調理することができます。マテバシイ以外でも、スダジイやコジイ、シリブカガシなどもアク抜きをしないで食べることができます。
マテバシイは煎るだけで食べられる
まず、下処理不要のマテバシイを食べてみましょう。水できれいに洗った後、厚手のフライパンで乾煎り。殻にヒビが入る位まで、しっかり煎るのがポイントです。
粗熱が取れたら、キッチンバサミなどで割っていただきます。ほのかな甘味があって、とても素朴な味わい。煎ることで、ナッツのような風味も感じられます。
生でも食べられるのですが、煎るほうが食べやすくておいしい!手軽に食べられるのもうれしいポイントで、ナッツ好きな人にはぜひおすすめしたいです。冷めると固くなってしまうので、温かいうちに召し上がってくださいね。
アベマキは「ドングリクッキー」に
マテバシイとは違って、アベマキはひと手間かける必要があります。まずは水に浸して、浮かぶものがあれば取り除きます。穴が空いたものやヒビ割れしているものは、虫が入っている可能性が高いので取り分けておきましょう。
その後、ペンチやキッチンバサミなどを使って殻を割っていきます。大きいものは殻が固いです。ケガなどには十分注意して作業してください。
30分以上茹でて柔らかくなったら「アク抜き」。アベマキの実に水を加えてしばらく置き、上に溜まった茶色の液体を捨てます。これを何度か繰り返して、一口食べて渋味が抜けていればできあがりです。
続いて、フードプロセッサーやフォークなどで潰します。今回は木の実らしい粒々感を楽しみたかったので、包丁でザクザクと切って粗いみじん切りに。
だんだん食材らしくなってきました。今回はクッキーをつくるので、砕いたアベマキの実(30g)に、米粉(100g)やてんさい糖(30g)、植物性のオイル(大さじ1)、溶きほぐした卵(1個)を混ぜていきます。
成形できる固さのぺ―スト状になるように様子を見ながら、豆乳(大さじ2~3)を加えてよく混ぜます。
薄く伸ばして天板に並べたら、いよいよオーブンへ。こんがり焼き色が付くまで10~15分程度焼きます。
いい感じに焼き上がりました!ドングリ特有の風味が活きていて、とても素朴な味わい。米粉を使っているのでモチモチとした食感で、小さな子どもも食べやすい味です。
手間はかかりますが、想像以上においしい!秋ならではの楽しみとして、子どもと一緒につくるのもいいかもしれません。
ドングリを食べて
秋を五感で味わってみよう
子どもの頃、秋の森や公園でドングリを拾って楽しんだ経験がある人も多いと思います。ドングリに触れていると、そんな子どもの頃の懐かしい記憶がよみがえってきます。栗のような明快なおいしさとは違った、ドングリの持つ素朴で滋養のありそうな味わい。マテバシイのような渋味が少ないものを選べば、気軽に味わうことができます。
瀧川さんは取材中に「農と食が離れてしまっている」「里山の暮らしやを子どもたちにも体験してもらいたい」と何度も繰り返していました。
「自然に触れていると、不思議と心が穏やかになる。たとえば、秋の訪れが感覚的にわかるようになるし、秋の旬の味覚を存分に楽しむこともできる。こうした自然の恵みを取り入れていると、身体の内側から元気が湧いてくる気がする」(瀧川さん)
「ドングリを食べる」という経験は、秋の自然の恵みを体感する一歩になりそうです。ドングリを眺めるだけでなく、今年はぜひ味わって、身体の内側から秋を楽しんでみてはいかがでしょうか。