自然を楽しむ達人・瀧川正子(たきかわ・まさこ)さんとの対話を通して、自然の恵みを味わう手しごとを紹介する連載シリーズ。葛粉、タンポポコーヒーに続いて、今回紹介するのは田んぼに生える草「コナギ」。コナギをおいしく味わう食の知恵と、農が近くにある暮らしの魅力についてお伝えします。
無農薬の米づくりは
雑草との闘い
瀧川さんは長年、無農薬で米づくりをしています。6月初旬に手作業で田植えを行い、草取りなどの管理を経て、秋に収穫・脱穀するという流れです。無農薬というと聞こえはいいですが、管理が大変なのもまた事実。除草剤も利用していないため、田植えの直後から「ミゾソバ」「イボクサ」「コナギ」などさまざまな種類の草が生えてきます。
こうした草は別名「水田雑草」とも呼ばれ、稲の成長の妨げになるため、見つけたらその都度草取りをして対処しています。繁殖力が強くて、成長が早いので放っておくと大変なことになるからです。草取りは梅雨から夏の蒸し暑い時期に行うため、これがなかなかの重労働なのだとか。
田んぼの雑草「コナギ」は
食べられる植物
米づくりの「厄介者」として扱われることも多い水田雑草たち。その一方で「コナギは普段の料理に使って食べることができる」と瀧川さん。
実はコナギは、古くは「水葱(ナギ)」と呼ばれ、田んぼに生える草として大切にされてきた歴史があります。また、東南アジアではコナギは一般的な野菜のひとつで、市場などでもよく売られています。
瀧川さんがコナギを初めて食べたのは、今から30、40年ほど前。当時、東南アジアで仕事をしていた友人から「これ食べられるよ」という話を聞いて、食べてみたのが始まりだったのだとか。それ以来、瀧川さんは田んぼに生えるコナギを食べるようになりました。コナギは、クセが少なくいろいろな料理に使いやすいのが特徴です。
とはいえ、「田んぼの雑草を食べる」と聞くと驚く人もいるかもしれません。このことについて瀧川さんはこう語ります。
「木から落ちた柿を見つけたら、『食べられるかな』と考える人は多い。私にとっては、コナギもそれと同じこと。草取りをした植物が食べられるのであれば『味わってみよう』と思うのは、とても自然なことだと思う」
実際にコナギを食べてみると
今回、筆者が瀧川さんを訪ねたのは6月の終わり。ちょうどコナギが成長し始めている頃でした。
まずは、水田の草取りも兼ねてコナギを収穫。簡単そうに見えて、田んぼの中を歩くのは足元をとられるので意外と大変!転ばないように気をつけながら、瀧川さんと一緒にコナギを採ります。
コナギの根元についた土をきれいに洗ってから、料理に使います。まずは、さっと茹でてからシンプルにおひたしに。
コナギは火の通りが早いので、食感を損ねないようにさっと加熱するのがポイント。シャキシャキした食感の良さが印象的で、上品な味わいに驚きました。続いて、コナギを味噌汁の具材として使ってみると、これも相性抜群!
コナギはかつて「水葱」と呼ばれていただけあって、ネギの風味にもよく似ています。ただ、ネギほど香りが強くないので、独特の匂いが苦手な人にもおすすめできそうです。
最後に試したのは、コナギのにんにく炒め。コナギは東南アジアで日常的に食べられていると聞いて、アジア風の食べ方にトライしてみました。
油で加熱してにんにくの香りを出した後、コナギを加えてさっと炒めて、ナンプラーで味付けをしてみたところ、食感と香りの良い一皿になりました。
今回は3種類の食べ方を試してみましたが、コナギはほかにもさまざまな料理に使って楽しめそうです。同時に、コナギを雑草として処分してしまうのは、あまりにも「モッタイナイ」と感じました。
作る人と食べる人の
顔の見える関係を築きたい
瀧川さんが大切にしているのは「自分たちで食べるものを自分たちで育てる」ということ。実際に手を動かしてみると、思いも寄らない発見があります。また、食への意識や捉え方が大きく変わることもあるかもしれません。
この連載シリーズのテーマは「自然を味わう手しごと」。手しごとは自分や家族の心身を満たすだけでなくて、地域の自然やコミュニティとつながるきっかけになります。瀧川さんは自身の活動のポリシーについてこう語ります。
「安いか高いかという基準だけで食材を選ぶのではなくて、作る人と食べる人の顔がお互いに見えるような関係が理想的だと感じている。たとえば『作る人の苦労がわかる』というのも大切なことだと思う」
コナギを食べてみることについては、「無農薬で米づくりをしている人たちを応援したいという想いがある」。最後に「身近な植物が食べられるってとても面白いよね。食材が近くにある暮らしはとても豊かだと思う」と瀧川さんは笑みを浮かべました。