おいしい森
# 22
美しい里山を守るための
「メンマづくり」とは
2023.6.23

人と同じように山も変わっていく—。山の美しさは、適切な手入れをすることで維持できる。手入れ不足により荒廃が進む里山や竹林は増え続け、全国的な課題になっている。そんななか、愛知県豊田市の中山間地域での活動が話題を集めている。里山を美しく保つために、国産メンマづくりを通じた竹林整備を行うというものだ。どんな人たちがどんな想いで行っている活動なのだろうか。〈竹々木々工房(ちくもくこうぼう)〉の大山さんと弘中さんにお話を伺った。

写真・文:松橋 かなこ

メンマづくりから始まる
竹林整備

乾燥した状態の発酵メンマ。写真提供:竹々木々工房

竹々木々工房は、竹や木を有効活用したいと地元の主婦たちが立ち上げた団体だ。2019年に任意団体〈竹々木々(ちくちくもくもく)〉として発足し、2020年に現在の名称になった。豊田市の中心部から離れた旭地区という中山間地域を拠点に活動している。

現在の事業は、メンマなどの商品づくりやイベント出店、講演、親子参加型里山学習プログラム「竹っこくらぶ」など。ボランティア活動としてではなく、持続可能な事業として成立することを目指している。

活動の主軸となっているメンマづくりには、幼竹(ようちく)を使う。幼竹というのは、タケノコとして出荷できない長さ2m前後の竹のこと。幼竹が収穫できるのは4月末から5月頃で、収穫シーズンは休みが取れないほどの忙しさだ。

写真提供:竹々木々工房

発酵メンマづくりの味の決め手は、鮮度のよい幼竹を手早く加工すること。早朝に収穫したらすぐに加工し、塩漬けにして自然発酵。その後、乾燥機で乾燥させて、天日で干す。厳選した素材を使って手間暇かけてつくられるメンマは、格別の一品だ。発酵メンマは、塩抜きしてから料理に使う。スーパーなどで販売されているメンマとは異なり好みの塩加減に調整でき、メンマ独特の香りや味を感じることができる。

竹々木々工房でつくられたメンマは、地元直売所やスーパーマーケット、インターネット通販などで販売されている。メンマの売り上げは、竹林の整備費用として使っている。「持続可能な里山を目指して、試行錯誤を日々重ねています」と代表の大山さんは語る。

気軽に始めたメンマづくりから
現在の活動が始まった

写真左下が大山さん、写真右上が弘中さん。写真提供:竹々木々工房

竹々木々工房でのメンマづくりの根っこは、2017年に募集された企画にさかのぼる。地元のフリーペーパーに掲載されていた「豊田市の食材を使ったラーメンづくり」という企画に、弘中さんが参加したことがその始まりだった。もともとラーメンが好きで食品業界での経験も持っていた。「子どもと一緒に楽しめそう」というのも参加した動機のひとつで、最初は気軽な気持ちだったという。

企画は順調に進み、2018年11月には企画で作ったメンマの販売に至った。「国産メンマのつくり方はいろんな人たちから学びました」と当時を振り返る。

写真提供:竹々木々工房

ちょうどその頃「竹に関わる活動がしたい」と移住してきた大山さんと合流。大山さんも活動に参加することになった。一連の企画が終わった後「この先どうしようか」と考えた末に、竹々木々工房の前身である〈竹々木々〉を設立した。

でも企画を通してメンマの作り方は覚えたものの、設立当初は地域とのつながりはほとんどなかった。メンマの材料となる幼竹をどうやって調達するのかなど、課題は山積みだった。そこからが、本当の意味での「挑戦」だったのかもしれない。

遠回りしたほうがうまくいく

写真提供:竹々木々工房

「竹が伸びすぎて困っている」「竹林の手入れをしてほしい」という地元の人たちの声に、ふたりは柔軟に対応した。地域の困りごとは「他人ごと」ではなく「自分ごと」—厄介者だと思われている竹を「資源」と捉えて何とか活用できないだろうか。そんな想いで一人ひとりの声に向き合ってきたという。

写真提供:竹々木々工房

9月から1月に竹林整備を行い、春になるとその竹林を再訪して幼竹を収穫し、メンマをつくって販売する。これが、メンマづくりの一年の流れだ。竹林整備を依頼した人の「手入れしてもらって助かった」という声や、メンマを食べた人の「おいしかった」という口コミによって、活動の輪はじわじわと広がっていった。

あちこちから声がかかるようになり、幼竹の収穫量は年々増えていった。幼竹の収穫量は2018年は20kgだったのに対して、2021年は500kg。わずか3年間のうちに、なんと25倍にまで拡大した。ここまでの道のりを振り返って「遠回りしたほうがうまくいく」と弘中さんは語る。

里山が循環する
仕組みをどうつくるか

写真提供:竹々木々工房

「これまで困難にぶつかったことはありますか」と尋ねると、「むしろ困難や課題ばかりです(笑)」という答えが返ってきた。現在、大きく2つの課題を感じているという。

まず「慢性的な人手不足」ということ。幼竹は一斉に収穫期を迎えるので、効率よく収穫するにはマンパワーが必要だ。その一方で、竹は成長がとても早く、天候によっても成長の度合いが変わる。そのため「この日にこのくらいの人数が必要」という予定が立てにくい。収穫期にサポートしてくれる人材はいるものの、より多くの人に声がかけづらいのが現状だ。

写真提供:竹々木々工房

もうひとつは「里山が循環する仕組みをどう作っていくか」ということ。ここには、いろんな想いが込められている。

現時点ではメンマづくりが活動の主軸になっているが、竹々木々工房で目指しているのは竹林だけでなく、里山全体が循環する仕組みづくり。「メンマづくりはそのひとつの手段に過ぎない」とふたりは考えている。

「この土地らしい、持続可能な仕組みとはどんなものなのだろうか。メンマづくりのほかにどんな方法があるのだろう。その方法を日々模索しています」

イベント出店時の様子。写真提供:竹々木々工房

実は、竹々木々が発足した当初のメンバーは5人だった。家庭の事情や環境の変化などにより3人は活動を離れて、大山さんと弘中さんのふたりになった。人はみんな年を重ねていく。明日どうなるのかは誰にもわからない。「仮に自分たちがいなくても回せるような仕組みを作っていきたい」と切実な胸のうちを語ってくれた。

里山をきれいに保つ
活動をしていきたい

里山カレー。写真提供:竹々木々工房

メンマからスタートした商品づくりは、お客さまの声や要望に応じてラインアップを増やしてきた。温めるだけで食べられる「里山カレー」は、「たけのこがゴロゴロ入っていておいしい」「手軽に食べられて嬉しい」など地元でも評判だ。

口コミが広がって地元で活動する人たちや環境団体から声が掛かることも多く、講演やイベント参加の予定がひっきりなしに詰まっている。また、活動の拠点として利用している「つくラッセル(※)」の仕事や地域の困りごとなどの相談にも随時対応している。活動をするかどうかを判断する上で「里山をきれいにすることにつながるのか」を常に意識しているという。そこには、それぞれの想いや経験が深く関わっている。

写真提供:竹々木々工房

「20代までは自分探しをしていて、竹と出合ったことで救われました。適切に管理すれば真っすぐに伸びていく。その姿に強く共感し、ときおり自分自身を重ね合わせたりしています。荒廃した竹林を見ると無性に手を入れたくなるんです」(大山さん)

「子どもの時から竹林がそばにあって、たけのこのおいしさや竹の魅力を身近に感じてきました。いまの子どもたちにもそうした体験をしてもらいたいというのが、活動の原点にあります」(弘中さん)

そして「地元の人たちに助けられてここまできた」「だからこそ私たちができることをしていきたい」とふたりは声をそろえる。

※つくラッセルとは……廃校になった小学校をリノベーションし、未来をつくる活動を行う起業家やグループのために提供している。

美しい里山は人々の
努力なしでは保てない

私自身も先日、竹々木々工房さんの主催する「竹飯盒(はんごう)」のイベントに参加した。イベントを通して、竹を利用することは竹林を健全に保つことにもつながることを知った。その日に感じた竹の清々しい香りは、いまも記憶に鮮明に残っている。

子どもや孫の世代にも、こうした体験ができる環境を残していきたい。竹々木々工房さんの想いや活動に共感してファンとなり、今回の取材に至った。

イベントでつくった「竹飯盒」

里山の風景には、その土地の歴史や大切な思い出がたくさん詰まっている。それは「大切なものは目に見えない」という、フランスの小説家・サンテグジュペリの名言にもあるとおりだ。

私たちは美しい風景に出合ったときに、どこまでその背景をイメージすることができるだろうか。美しい里山は人々の努力なしでは保てない—そのことをもっと多くの人に知ってもらいたい、とふたりは熱く語った。

●竹々木々工房HP
https://chiku2moku2.com/

松橋かなこ (まつはし・かなこ)
神奈川県出身、愛知県在住。都心部の小さな山の麓で子育てをしながら、食や環境、エシカルをテーマに執筆活動をしている。好奇心旺盛だがおっちょこちょい。元バックパッカーで散歩や旅行が大好き。養生ふうど主宰。https://yojofudo.com/