おいしい森
# 21
菅流クッキング vol.10
白トリュフのビフテキ
2023.3.31

学びの森をカタチづくるライスワーク、趣味のアンティークストーブ収集と修理の傍、春から秋にかけてライフワークの山菜・きのこ採取に精進する日々を送る菅原氏。山で出会ったとある昭和の先達から大正生まれの文豪・檀一雄氏の名著『檀流クッキング』を伝授され、料理に目覚めた。30半にして15年以上の山歴を誇る料理童貞の若き山幸ハンターが令和のときに料る狩猟採取料理とはー。

文・写真:菅原 徹(the campus)/編集:佐藤 啓(射的

ラストゲームのホームラン

22AWの「茸狩」シーズン。ホームマウンテンの南昌山にて上々のスタートダッシュを切った小生ではあったが、シーズン中盤、オールスターゲームを終えた頃には稀に見る不振に喘でいた。

「小生の茸狩人生で最も屈辱的なシーズンだ」

2006年3月、WBC韓国戦直後のイチロー氏ならきっとそう表現したであろう。まったくキノコが採れないのである。ペナントレースとは無縁のシーズン終盤アウェイでのラストゲームで、「23SS菜摘」「23AW茸狩」へ向け光明を見出す出来事があった。

ホンセイヨウショウロa.k.a.白トリュフとの出会いである。

Copyright @MsMizuchi 『土を掘るイノシシ』 

米帝のスヌープ、欧州のコブタ、東洋のイノシシ

11月も迫り、雪もちらつき始めたとある朝、以前から気になっていた山へと足を伸ばした。 他人様の縄張りであろうクリやナラ、マツなどの雑木林の中で、土質や下草などをさりげなく確認していると、キノコ様が好みそうなホットスポットをいくつか発見。下心全開で探索を続けると、ホームとは違う獣の気配を感じた。

いつもの鹿や熊でもないこの感覚、地面をよく見るとそこら中の土が掘り返されている。そこには、ふだん岩手の山ではほとんどお目にかかることのない猪がいたに違いない。

「ティキーン! この感覚は初めてだ…。そうか、これはトリュフか!ララー、僕にも見えるよ!」

ニュータイプとして覚醒した小生は、そう確信した。トリュフとは、これまで此処日の本では見過ごされてきた地下生菌のキノコであるが、ここ数年研究が進み、日本でも自生することが知られている。だがそれはたいていがイボセイヨウショウロa.k.a.黒トリュフであり、小生も採取に成功したことがある。だが、風の中に黒とは少々異なる、やや大蒜にも似た独特な香り。これはさらにレアなホンセイヨウショウロa.k.a.白トリュフに違いない。

猪により掘り返された土と木の根の横にジャガイモのようなものが見え、それはまさに白トリュフであった。米帝では犬が、欧州では豚がニュータイプへと導いてくれるというが、日の本で小生を導いてくれたのは、ララーではなく猪だったとは。

大切に包み込み、心悸鎮まるを待つ

仄かな大蒜香漂うこの茸狩人生における初物をどう調理するか。ここから小生を導いてくれるのは、我がクッキングパパ・檀先生に他ならず、師曰く大蒜と言えば、ビフテキなのである。

ビフテキは何といっても肉で、中年の階段を登り始めた小生は、程よく脂の乗ったロースをチョイス。余りま新しいものは、何となくバサつく感じで慣れぬので、空気に触れぬよう大切に包み込み、冷蔵庫の中で、一、二日様子を見よう。

いよいよ食べ頃と見きわめて、肉片をマナ板の上に載せる。その肉片の上に、まず、大蒜の切り口をあてて、こすりつけ、淡く塩をまぶしつけ、半挽きのコショウを肉片に押し付けるようにすり込んで、ニ、三分。心悸の鎮まるのを待つ…。

バター、レモン&白トリュフ・マジック

争い事を好まない小生は、血のしたたるような「レヤー」は苦手なため、焼き具合は「ミデウム」と定めた。

よく使い慣れたフライパンに、サラダ油とバターを半々ぐらいに入れて、点火する。サラダ油だけではよさそうなものだと思うのだが、師曰く「美しい焦目は、バターを敷かなくてはうまくゆかぬ」のである。

強火である。コショウをしっかりとまぶしつけた側のはじめにフライパンの底にあてて、ジューッ、と焼きはじめる。箸を使って僅かに一、二度動かしてみるのはよいが、余り忙しく動かし過ぎたり、裏返してみたりは、よくない。

スライスしたレモンを一個フライパンに投げこむ。そのレモンを半焼けにし、肉に見事な焦目がついたのを見届けるのと同時に肉片を裏返し、レモンを肉の上に載っけよう。

火加減を中火に変え、「ミデウム」に仕上げて、これで出来上がりだ。

はじめに焦目をつけた側を表にして皿に出し、バターと半焼けのレモンを一緒にして、その焦目の上に載せる。白トリュフの下拵えは特になく、シンプルに香りを楽しむためスライスし、贅沢にふりかけ、パクつくわけである。

うり坊が 導き覚醒 秋のWBC 

Profile
菅原 徹(山菜・きのこ採取&料理&写真)すがわら・とおる●1987年生まれ。地元岩手県矢巾町で18歳の時から祖父、父と山に入り、「キノコや山菜は生活の一部」という環境で育つ。キノコ・山菜歴は16年。岩手菌類研究同好会所属。岩手県・住田町でのきのこ講座、盛岡つどいの森での採取会、県内各地の緑化センターなどで、きのこの見分け方指導や展示などの活動をする。

佐藤 啓 (さとう・けい)
『Tank』『Spectator』などの編集、『ecocolo』などの雑誌の編集長を経て、現在は東京と岩手の二拠点で編集者として活動。ビフィタ職人を目指しながら、雑誌や書籍、広告の制作を生業としている。株式会社 祭り法人 射的 取締役棟梁。https://shateki.jp