山を散策して、山菜を食べて。春の山菜狩りは、冬の寒さで縮こまっていた心身をすっきりと目覚めさせてくれます。自然の恵みをいただいて、冬から春へと心身を整えていきませんか。国際薬膳師でエシカルフードライターの松橋かなこさんが毎年楽しみにしているというワラビ採り、そして保存食「ワラビの塩漬け」の作り方・活用法について教えてもらいました。
おばあちゃんと干しゼンマイ
私の山菜の思い出といえば、真っ先に思い出すのが祖母手作りの「干しゼンマイ」。春に収穫したゼンマイを乾燥させたもので、見た目は茶色っぽくて地味。でも、水で戻して煮物に入れるとなんともいえない滋味深い味わいがします。子どもの頃から「おばあちゃんの干しゼンマイは『地味だけど滋味』だなぁ」と感じていました。
そんな祖母も、あと数年で100歳。以前のように山を散策して山菜を採ることはできなくなりましたが、子どもの頃から食べ続けてきた山菜の記憶は、私の脳裏にしっかりと焼き付いています。春になると、無性に山菜を摘んだり食べたりしたくなるから不思議なものです。
ワラビ採りで
冬の体が目覚める
根っからの山菜好きな私。現在は、自身の暮らす愛知県内で子どもと一緒にワラビ採りをして春の訪れを満喫しています。
愛知県でのワラビ狩りシーズンは、4月から5月。我が家は4月初旬に出かけることが多く、山桜を眺めながらワラビを探すのが春の恒例行事になっています。なぜだか、ワラビ狩りをするのは風が強い日が多く、桜吹雪を浴びながら野山を散策するのはなかなか風情があります。
息子が初めてワラビ狩りに参加したのは2歳のとき。本人の口からふと「いいところにきたね~~」という言葉がポロっと出たのが、なんともおかしくて。春のふんわりとした空気を浴びていると、大人も子どもも気持ちが解放されていくようです。
新鮮なワラビは
「マヨネーズ&しょうゆ」で
採ったばかりの新鮮なワラビは、あく抜きをした後にマヨネーズとしょうゆで和えていただくのが、私のお気に入りです。
マヨネーズとしょうゆの組み合わせは、20代の頃に足しげく通っていた新潟の山菜の先生から教えてもらったもの。少し意外な組み合わせに感じるかもしれませんが、これが山菜のほろ苦さによく合う! どこの家庭にもありそうな調味料なので、気軽に作れるのもいいところです。
我が家ではワラビに限らずコゴミなどの山菜もこの方法で食べることが多く、好みでワサビや摺りゴマを加えてもよく合います。
ワラビのアク抜き方法
「灰」が入手できるとベスト
収穫したワラビは、そのままではアクが強くて食べることができません。アク抜きをする方法はいくつかありますが、個人的には灰を使うのが失敗が少なくておすすめです。私はバーベキューをしたときに残る灰をアク抜き用に取っておくことが多いです。薪ストーブを使っている家庭であれば、最後に残る灰を使ってください。
※アク抜きは、重曹を使って行うこともできます。重曹の量が多いとワラビが溶けてしまうことがあるので、くれぐれも気を付けてください。
●材料
・ワラビ 1束(200g~250g程度)
・灰 ひとつかみ(50g程度)
・熱湯 1リットル
●アク抜きの手順
1.ワラビは根本の固い部分(筋が多い部分)を切り落とす。
2.ボウルやバットにワラビを入れて、上から灰を振りかける。
3.2の上から熱湯をかけてワラビ全体が浸かるようにして、半日~ひと晩おく。ワラビが浮いてくるようなら、上に皿などを置いて重しをする。
4.水が黒く変色するので、古い水を捨ててワラビを洗う。試食して、苦味が抜けていればアク抜きは完了。苦味が残っているようなら、新しい水に浸してアクが抜けるまでしばらくおく。
アク抜きが終わったワラビは、清潔な保存容器に入れて水に浸した状態で保存します。冷蔵庫で保管し、水を毎日取り替えるようにして5日程度を目安に食べ切るようにします。
ワラビの塩漬けの作り方
「ワラビが大量にあって食べきれない」という場合は、塩漬けにするのがおすすめです。ワラビの保存食として乾燥や冷凍などの方法も試してみましたが、私は昔ながらの塩漬けが最もおいしく長期保存できると感じました。
●材料
・生ワラビ ある分だけ
・塩 ワラビの重量の30%
●作り方
1.ワラビは根本の固い部分を切り落とす。
2.清潔な保存容器に塩→ワラビ→塩の順で3回程度重ねて、最後に塩を乗せる。
3.重石を乗せて、水が上がってくるまで待つ。
4.重石を取り外して、冷暗所で保管する。
●ポイント
・大量の塩で漬けることで、ワラビのアク抜きと長期保存ができます(保存の目安は半年~1年程度)
・塩漬けにするとワラビは茶色になりますが、味や食感などに問題はありません。
ワラビの塩漬けの活用法
ワラビの塩漬けは大量の塩で漬けているため、食べる前に塩抜きをする必要があります。
●塩抜きの方法
1.ワラビの塩漬けを食べる分だけ取り出し、さっと水で洗う。
2.鍋にワラビと水を入れて加熱し、沸騰してきたら火を止めて、そのまま冷ます。
3.何度か水を取り替えて、ワラビがふっくらとして塩気が気にならなくなればできあがり。
塩抜きしたワラビは、煮物やスープなどいろいろな料理に活用できます。そのなかでも気に入っているのは「ワラビそば」。シイタケやエノキダケなどのきのこ類や油揚げと一緒に出汁を作り、好みでとろろや卵、刻んだ海苔をトッピングしています。
我が家では、春先に収穫したワラビを一年かけて大切に味わっています。夏は冷たいそば、冬は温かいそばにして、その時期の旬の食材と組み合わせれば飽きることがありません。ワラビそばを食べていると「次の春もワラビをたくさん採りにいきたいなぁ」という気持ちがフツフツと沸いてきます。
春は山菜狩りへ出かけてみよう
2月の立春が過ぎ、あちこちで春の訪れを感じるようになりました。本格的な春はきっとすぐそこです。季節の移ろいにあわせて、私たちの心身も冬から春へと切り替えていきたいですね。
今回紹介したワラビをはじめ、全国各地でさまざまな山菜が成長し始める時期です。身近な山野を散歩して、山菜を探してみてはいかがでしょうか。春の空気を全身に浴びて、心地よい時間が過ごせますように。