おいしい森
# 14
「路傍の実力派」
ヨモギを使い尽くす
2022.5.17

野山に新緑が映える季節。山菜シーズンは終盤を迎えつつありますが、足元を見ればまだまだたくさんの食べられる山野草があります。今回は身近な薬草のひとつで、古来よりさまざまな薬効が期待されてきたヨモギに着目。薬草というイメージを覆す「普段使いのおすすめ料理」を2品ご紹介します。体調を崩しやすい季節の変わり目。おいしく食べて、免疫力アップにつなげたいものです。

写真・文/渕上 健太

道端に繁茂
しかし関心はゼロ…

駐車場の脇や河川敷の土手などにも生え、日本人には見慣れた存在のヨモギ。食物繊維や各種ビタミン、カリウム、鉄分などを含み、古より薬草として親しまれてきました。お灸で使われる「艾(もぐさ)」も、ヨモギの葉の裏の白い毛を集めて綿のようにしたものが材料です。

しかし現在、日常の食生活で登場する機会といえば、スーパーで売っている草餅をときどき買って食べる程度のひとがほとんどではないでしょうか。

一方、ヨモギ料理が独自に発達してきたのが沖縄。ヨモギのことを「フーチバー」と呼び、「沖縄そば」のトッピングをはじめとして、さまざまな形で日常の食卓に取り入れてきました。沖縄料理で使われるヨモギは西日本に多い「ニシヨモギ」で、関東地方などに生えている「ヨモギ」よりも苦みが少ないようですが、両方ともキク科のヨモギ属。兄弟同士のような関係といえそうです。

道路脇に生えるヨモギ。生命力を感じさせる。

首都圏で生まれ育った自分自身が、ヨモギの存在を気にしはじめたのは4~5年ほど前。詳しいきっかけは忘れてしまいましたが、八ケ岳山麓に移住して数年が経ち、春先の山菜採りに熱を上げている中で、自然と目を向けるようになった気がします。

「身体に良くて身近にたくさんあるのなら、使わなければもったいない…」。そんな気持ちで採取をはじめましたが、周囲でヨモギを採っているひとは皆無。林業という仕事柄、山仕事の合間にも林道沿いなどで探していましたが、山菜好きの同僚からも珍しがられたものでした。

「潜在的な価値が高くても地味でありふれているものは世間から評価されない…」。そんな世の理を垣間見た気持ちにもなりました。

見た目も鮮やか
朝のパンケーキ

ヨモギ料理歴がまだまだ浅い中で、ヨモギの風味や色合いを手軽に味わうことができ、子どもや若い世代もカジュアルな感覚でヨモギ料理を楽しめると感じているのがパンケーキ。

料理に向いている新芽や小さめの柔らかい葉。

なるべく柔らかい新芽や若葉を摘み採ったら、熱湯で湯がいてから、みじん切りにするように包丁で細かくカット。

ペースト状になったヨモギの葉。

それをすり鉢に入れ、すりこぎでしっかりとつぶしてペースト状にします。ヨモギは繊維が強く、特に茎や葉脈の部分が堅いので、しっかりとすりつぶすのがポイント。この作業が最も手間が掛かる部分で、結構手が疲れます。すり鉢の代わりにフードプロセッサーなどを使うと時間と手間を省略できます。この場合、滑らかなペースト状にするのは難しいですが、パンケーキの材料としては問題ありません。

抹茶を濃くしたような濃い緑色のヨモギペーストができたら通常のパンケーキの生地に混ぜてフライパンで焼けば完成。生地にホットケーキの粉を使うひとも多いようですが、シンプルに国産小麦の薄力粉や「地粉」と呼ばれる地場産小麦の中力粉を使うのがお気に入りのレシピです。

今回は生地1枚につき、ヨモギの葉をひとつかみ、国産小麦の薄力粉約70グラム、豆乳100ミリリットル、卵1つ、ベーキングパウダー小さじ1で焼いてみました。

ひと手間掛けた分、焼き上がりが楽しみになるヨモギのパンケーキ。

滋味深そうな濃い緑色の生地ですが、口に入れると苦みはなく、すっきりとして上品なヨモギの香りが立ち上ります。ハチミツやバターを塗っても美味しいですが、あんこをトッピングすると和菓子風の味を楽しめます。

ヨモギを採ったりペースト状にしたりする部分で少し手間は掛かりますが、新緑の季節の休日の朝にぴったりな見た目もさわやかなメニューです。

栄養バランス抜群!
沖縄料理の炊き込みご飯

2品目は郷土料理として沖縄に伝わるヨモギと豚ばら肉入りの炊き込みご飯「フーチバージューシー」。沖縄ではヨモギのことをフーチバーと呼び、「フーチ(病)」を治す「バー(葉)」の意味を持つそうです。

昔は、季節行事やお祝いの席などでフーチバージューシーが振る舞われたそうですが、日常の家庭料理としても定着。沖縄のスーパーでは「フーチバーじゅーしいーの素」というレトルトの具材も販売されており、沖縄旅行のお土産に買った方もいるのではないでしょうか。

沖縄では苦みが少ない「ニシヨモギ」が自生したり栽培されたりしていて料理に使われていますが、普通のヨモギでも代用できます。

まずはヨモギの下ごしらえから。ヨモギの分量はお米2合でひとつかみ程度が目安ですが、湯がくと小さくなってしまうので、少し多いと感じるくらいの方がヨモギの風味を楽しめます。

湯がいたヨモギを冷水に浸けて色止めする。

パンケーキの調理と同じように、なるべく柔らかい新芽や若葉を摘み採ったら、熱湯で湯がき、冷水を張ったボウルに入れて色止めします。取り替えた水の中に20分ほどさらしてアクを抜いた後、2センチ程度の幅にカット。

具材のニンジンと水で戻した干しシイタケも適当な大きさに切っておきます。薄切りの豚ばら肉も適当な大きさに切り分けます。

たっぷりの具材を入れて作りたい。

炊飯釜にといだお米を入れ、薄口しょうゆ、料理酒、みりん、塩で味付けをしたら、通常の炊飯の水加減になるまで干しシイタケの戻し汁を加えて炊飯。炊き上がったらカットしておいたヨモギを加えてざっくりと混ぜ合わせ、10分程度蒸らしたら完成です。

冷めても美味
お弁当やおにぎりにも◎

豚肉の脂と干しシイタケのだしがしみ込んだご飯はそれだけで食欲を刺激します。そこにキク科のヨモギらしいさわやかな香りとかすかな苦みが加わり、全体の味のバランスを調えてくれます。

フキノトウやタラノメといった山菜ほど味の個性はなく、かといって大葉やミョウガほどの冷涼感はありませんが、春と夏の境目のこの時期の気候や体調にぴったりの滋味を感じさせてくれる味です。

豚肉の脂と干しシイタケのだしが食欲をそそるフーチバージューシー。

若干おこげになっても香ばしくておいしく、また米粒が豚肉の脂でコーティングされているため冷めてもパサつきにくいのが特徴。お弁当やおにぎりにも向きます。

「フーチバーは苦くてあまり好きではないけれど、フーチバージューシーだけは好き」という沖縄県人もいるそうで、世代を問わず人気の献立のようです。栄養バランスが良く、主食とおかずを兼ね備えたようなボリューム感もあり、一品でも十分満足度が高い料理といえるでしょう。

素朴な味を楽しめる「ヨモギ茶」

乾燥させたヨモギの葉をフライパンで炒って煮出す「ヨモギ茶」も簡単に作れておすすめ。ヨモギのパンケーキやフーチバージューシーと組み合わせると、ヨモギづくしの献立を楽しめます。

さまざまな食品の価格が値上がりしている昨今。栄養豊富で美味しく、見た目も鮮やか、そして簡単に採取できるヨモギを日々の食生活に積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか?

渕上 健太 (ふちがみ・けんた)
学生時代を過ごした秋田県で山の魅力に取りつかれる。山スキーから岩登り、山菜・キノコ採り、渓流釣りまでボーダレスに山遊びを楽しむが、海への憧れも強い。目下一番の関心事はシーカヤック。八ヶ岳南麓で林業に従事する。森林インストラクター。