山や森には、おいしいものがたくさんある。山菜・きのこ・木の実・樹液・木の花の蜜に沢ワサビ。忘れかけているけれど、私たちはそれらを食べて生きてきました。この連載では、そんな“おいしい森”の恵みを取り上げていきます。今回のテーマはクラフトコーラ。一見すると、山なんて関係なさそうですが、その素材には岐阜・伊吹山の文化が詰まっていました。
コーラで岐阜のイメージは
シュワッと“ハジケル”か?
皆さんの住んでいる地域や地元はどんな街でしょうか。きっと素敵なものや良いところがあると思うのですが、県外の人から見ると「どこにあるの?」「何もないじゃん」という反応が返ってくることもあるのではないでしょうか。実はぎふコーラの始まりも同じでした。
「友人から岐阜ってどこ?何があるの?ってよく言われていて……」
クラフトコーラをつくるのはこうした経験を持つ岐阜の若者たちでした。
今でこそ3人とも岐阜県に住んでいますが、それぞれ20代の時間の多くを県外で過ごしてきました。四井さんは、名古屋へ。泉野さんも大学進学を期に東京、就職で京都、そしてベトナムへ。片山さんは飲食を勉強するために東京へ。そしてその中で、それぞれが改めて岐阜に対する世間のイメージに気がついたといいます。
「岐阜って県外の人から見ると飛騨高山のイメージしかないんですよね。かといって、私が地元の大垣について話せるかというとそうではなくて」(泉野さん)
まず動き出したのが片山さんでした。岐阜の知られていない面白さを、専門分野である食を通じて伝えられないかと考えたのです。
「漠然と何か岐阜のものを使ったお土産をつくれないかなと思っていて。岐阜に帰ってきて開いたお店で、たまたまクラフトコーラを取り扱っていたんです。それで、岐阜でもコーラを作れんじゃないかと思って。それで調べたら薬草が有名だというので、SNSの共通の友人を探して、ともくん(四井さん)にコーラができないか話を聞きに行ったんです」
四井さんは25歳の時に名古屋から地元・揖斐川に帰ってきて、旧春日村(揖斐川町)で薬草生産を手伝っていました。次第に薬草の世界にのめり込んでいき、今では薬草を扱うkitchen marcoの店主としてお店を切り盛りしています。そんな四井さんは、初めて会う片山さんからの「薬草でコーラをつくろう!」という声かけにも乗り気でした。
「コーラって自分でできるんだという衝撃と同時に、面白そうだなと感じました。普段も薬草をお料理に使っていて、自分も薬草生産のサポートをしているので。もっと身近に薬草を取り入れられないかということをずっと探していたんです。だから、コーラ良いね!みたいな感じで」
しばらくは片山さんと四井さんで進めていたコーラの構想ですが、女性の感性やデザインの力を加えたいと考えていました。その時にたまたまイベントで出会ったのが泉野さんです。コーラが嫌いだという泉野さんに、恐る恐る声をかけたという四井さん。ひとまず片山さんのお店で一緒にクラフトコーラを飲む機会をゲットします。
「私はコカ・コーラとか嫌いで。骨を溶かすとか体に悪いとか、親から植えつけられた勝手な潜在意識があったので、飲んじゃいけないっていうイメージを持っていたんです。だけど、クラフトコーラは飲んだ瞬間、コ―ラだけどコーラじゃない!みたいな衝撃を受けましたね」
3人で話をしてみると“岐阜が知られていない”ということへの課題意識や、実は3人とも同級生(1991年生まれ)だったという意外な共通点もあり、意気投合します。これがぎふコーラづくりの本格的なスタートとなります。
コーラより
ずっと身近な薬草
いまでこそコーラといえばコカ・コーラやペプシコーラが世界的に有名ですが、そもそもコーラというのは「ドクターがつくった体に良い飲みものだった」といいます。つくり方は思いのほかシンプルで、主な工程はスパイスや薬草、コーラナッツを煮出すことだけです。
ぎふコーラの特徴は、揖斐川町旧春日村で栽培する薬草を使用していることなのですが、なぜ岐阜で薬草なのでしょうか?そこには岐阜に城を築き、天下統一の拠点とした織田信長が関係していました。四井さんは言います。
「揖斐川町の旧春日村では、古くから薬草を収穫して生活に取り入れる文化があったんです。薬草をお茶にして体調にあわせて飲んだり、お風呂に使ったりという感じで。そのきっかけとなったのは織田信長がポルトガルの宣教師とつくった、といわれる薬草園なんです」
その証拠として、伊吹山にはヨーロッパ原産の薬草が自生しているようです。医療が発達していない戦国時代には、薬草の影響力が非常に大きかったに違いありません。ただ、現代を生きる私たちからすると、“薬草”なんて某ゲームの回復に使うくらいしかイメージがないのが実際のところです。ですが、私たちが日常的に食べる中にも薬草があるということを四井さんは教えてくれました。
「薬草って薬用植物のことを指しているんです。一般的には雑草だよねというものも実は薬草だということは、よくある話ですね。身近なものだと三つ葉だとか、ショウガやニンニクも立派な薬草です」
そう考えると私たちは“薬草”と呼んでいないだけで毎日薬草を食べていたということに気がつきます。コーラよりも薬草を摂取しているとわかると、一気に身近な存在に感じられてきました。
ぎふコーラに使われている薬草はヤブニッケイ、ドクダミ、ヨモギ、カキドオシの4種類。ドクダミやヨモギはよく聞く薬草ですが、伊吹山に生えているものは少し味が違うといいます。
「はじめはヨモギはえぐいから使わない方がいいのでは?と言われていたんですけど、現地で食べたらえぐみが少なくて、衝撃的な風味だったんです。だから、ぜひ使いたい!ということでヨモギが多く入っています」
そうした素材から調香師が味のベースをつくり、3人で味を整えていきました。薬草独特のクセを抑えつつ、ただのコーラにならない味を探して試行錯誤を重ね、今の味にたどり着きます。
飲まぬなら
後悔するかも
ぎふコーラ
味も香りもおいしく飲んでほしいという思いから薬草なのに、苦くなく飲みやすく仕上げたという“ぎふコーラ”。早速、カクテルをつくってみましょう。
飲んでみると、その味はコーラの中にジンジャーエールを感じる新発見の味。すっきりとしたきび砂糖の甘味が後味の良さを演出しています。何気なく裏面のラベルを見てみると、食材の名前しか書いていないことに気がつきます。きび砂糖、レモン、コーラナッツ、オールスパイス…。純粋な素材の組合せが心地よい味をつくっているのだなと、その味に納得できます。また、飲み方や使い方にもバリエーションがあるのも面白いポイント。アルコールと合わせて「コークハイボール」や「ジンコーク」として飲んでもよし、スパイスと薬草を使っているので、チャイとしても楽しめます。
さらにぎふコーラを煮出した、出しガラもおいしく使えるのだといいます。優しい甘さとスパイスの香り・薬草の効能が万能調味料として、肉の煮込みやアイスにマッチするようです。そうした料理は、片山さんが店長を務める〈Natural Base〉にて提供されているのだとか。ぎふコーラの包容力と個性が料理を通じて、感じられそうです。
岐阜を旅して
文化を伝えるコーラ
味わいもパッケージにも岐阜のエッセンスが散りばめられているぎふコーラ。今後の展望も当然、岐阜づくしでした。
「岐阜県の各エリアでコーラをつくりたいなと思っていて、5種類並んだら岐阜県になるようにしたいんです。だから名前も揖斐コーラではなくて、“ぎふコーラ”と名づけているんです。なので5種類はできるように進めていく予定です」
岐阜に広がる5つのエリア(飛騨・美濃・岐阜・東濃・西濃)を旅するようにして、各地の“地もの”を取り入れながら岐阜を表現していく“ぎふコーラ”。西濃エリアの次は岐阜エリアで500年以上の歴史を持つ幻の柿「伊自良大実柿」をコーラに入れようと、企画が進んでいるといいます。
まさに、土地のアイデンティティをコーラで掘り起こしていく「旅するコーラ」といえそうです。お土産として持ち帰れば、きっと岐阜のイメージが少しずつ変わっていくはずです。
※響hibi-ki STOREでもぎふコーラ販売中!
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=168870472
- ・ぎふコーラHP
- https://www.gifucola.com/
- ・Natural Base
- 〒500-8182 岐阜県岐阜市美殿町45
- 定休日:火、水曜日
- ランチ:11:30-13:30
- ディナー:16:00-21:30
- 定休日:火、水曜日
- ランチ:11:30-13:30
- ディナー:16:00-21:30
- ご予約はメッセージから
- https://www.instagram.com/naturalbase.gifu/
- ・kitchen marco|五感で楽しむ伊吹薬草
- 〒501-0603 岐阜県揖斐郡揖斐川町上南方545−91
- mail:kitchen.marco@icloud.com
- https://home.tsuku2.jp/storeDetail.php?scd=0000042047