山には、森には、おいしいものがたくさんある。山菜、きのこ、木の実、樹液、木の花の蜜、沢ワサビ。忘れかけているけれど、私たちはそれらを食べて生きのびてきました。この連載では、そんな“おいしい森”の恵みを取り上げていきます。今回は、山に落ちている木や剪定した枝をチップにして、そのチップでベーコンを燻製する実験に挑戦しました。完成はいかに?
枝拾いとスモークチップづくり
突然ですが、私は冬の森を歩くのが好きです。冬の澄んだ冷たい空気が体に浸透し、本当に気持ちがいいからです。正直寒いので家を出るまでは億劫ですが。
そんな森には言うまでもなく枝がたくさん落ちています。拾ってきた枝をスモークチップにするのは、身近な“自然の落としもの”を活用したかったからです。そしてもう一つ、チップから食材まで“地場産”にこだわって、ここだから生まれる“おいしい”に出会いたかったのです。
今回は取材協力していただいたキャンプ場のフィールドで枝を拾いました。キャンプ場ではなくても、公園や散歩先の森で枝を拾うのもいいですね。落ちている枝の中から乾いていそうなものを拾って見上げると、枝の持ち主が佇んでいました。樹皮や葉っぱ、実を観察して、木の名前を当てる「この木なんの木クイズ」を小さな図鑑片手に楽しみます。
続いて拾った枝をチップにします。小さなナイフを使い、鉛筆削りの要領で枝を細かくしていきました。削るときの感触が各々おもしろく、クリの枝は艶っぽくしっとり削れてやみつきになりそうです。クルミは枝も軽く柔らかで、リズムよく刻めます。桜は堅く重く、ぎゅっと詰まっている感覚がありました。そしてヒノキは削るだけでやさしく清涼感のある香りが漂い、肩の力が抜けていきます。
拾った枝をそれぞれ30㎝ほど削り、約1時間半かけてチップ(上記写真)ができあがりました。今回は2通りの燻製方法を試すこともあり、実際はこの4倍ほどの量が必要でした。
燻製をする前に、チップをあぶって香りを比べてみることにしました。クリは焼き栗のような甘さと香ばしさが漂います。クルミは柔らかな印象と甘みを感じました。スモークチップとしてメジャーなサクラは、予想に反してあまり香りがせず、この時点では燻製に使えるのかどうか半信半疑でした。
続いて食材です。燻製に使う食材は、下味をつけておくてよりおいしい仕上がりになります。そして素材も大事!ということで、茨城県茨城町で米を飼料に育てられた「和之家豚(わのかとん)」のバラ肉を使いました。このお肉はしゃぶしゃぶにしてもアクが出ず、脂身まで甘くておいしいと評判です。前日の仕込みの工程では、肉をフォークで刺して、塩を揉みこみます。次にキッチンペーパーとラップで包み冷蔵庫で寝かせました。これで1日目は終了です。翌日、塩を水で流して水気をふき取り、1時間ほど天日干ししました。
さて、次はいよいよ燻製づくりの時間に入ります!
燻製方法1
たき火とスモーカー
まずはたき火とスモーカーを使った方法に挑戦です。最初にたき火台で火を起こして熾火(おきび)をつくります。熾火とは炎が上がらず芯が真っ赤に燃えている状態です。
燻製をはじめてみると煙が出て香ばしさを感じますが、薪の煙かチップの煙かどちらなのかよくわかりません。(熱せられたチップから煙が出て、その煙が食材に染み込むことで燻製の風味が生まれます)また中が見えない分、気になって何度もスモーカーを開けてしまいました。煙が逃げてしまうのでおそらく開けない方がいいでしょう。
チップから煙が立ちはじめたら弱火にするのですが、たき火は火加減の調整が難しく、すぐに弱火にできません。
「燃えてる!燃えてる!」
急に火が上がったかと思うと、チップがあっという間に炭になってしまいました。肉の油が落ちて燃えてしまったようです。そんな失敗も楽しみながらチップを交換し、2時間ほど見守りました。
分厚い肉に火を通す必要があったため、じっくりと時間をかけて燻製し、なんとかベーコン?の完成です。たき火での燻製は難易度が高いと感じましたが、市販の“スモークウッド”などの燻煙材を使うともっと手軽に燻製ができると思います。
燻製方法2
カセットコンロとフライパン
さて次は場所を移し、自宅でチャレンジ!ベランピング風にベランダに道具と食材を用意しました。
フライパンにアルミホイルを敷き、チップを載せます。続いて蒸し皿を置き、食材をその上に並べました。はじめは強火で、煙が出はじめたら弱火にして、フタをしめると…フライパンの密閉性とコンロの火の安定感で、もくもく煙が上がってきます。
ここでハッ!と気がつきました。それまで香りを感じなかったサクラのチップから香ばしく強い木の香りがしてきたのです。春に咲き誇る桜の姿が浮かびます。
まさに今この文章を打ち込んでいるパソコンの先で燻製中なのですが、香りが部屋まで入ってきました。テレワークのお供に燻製づくりなんていかがでしょうか。
1時間ほどスモークして、こんがりと色づいたベーコンができあがりました。たき火の場合と比べると時間は半分ですが、色づきが良く、しっかりと燻製されているようです。樹木の香りがふわりと鼻を刺激し、頬張るともっちりとした弾力。塩気は一層甘みを引き出し脂はとろっとした食感です。ワイングラスを傾けたくなるような芳醇な味わいに、自然と笑みがこぼれました。拾った枝から生まれる煙が食材をコーティングし、“おいしい”に変わった瞬間です。
枝を拾い、削り、肉を仕込み、燻す工程は、五感を呼び覚ます嬉しい体験となりました。これこそ本当の手づくり燻製です。チップづくりから自分でやってみると遊び感覚で楽しめます。ぜひ試してみてくださいね。
●取材・撮影協力
しもはじ埴輪キャンプ場 大和文子、納屋Cafe 平澤美佳、和家養豚場(和之家豚)
●時間をかけずに燻製をつくりたい!という方はこちら
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