にっぽん 民藝 journey
# 30
ヒビキストア店長とゆく職人探訪④
森を近くに感じる「まあるいつみき」
2025.11.23

出産祝いとして響hibi-ki STOREで人気の「まあるいつみきmini」。作り手は、岐阜県郡上市にある株式会社ki na li(以下、kinali)です。一見すると、ただの丸い積み木に見えますが、実はかなりレアなこと、知ってますか?その理由を探ってみましょう。

聞き手:葛西 希美/写真:飛騨五木株式会社/文:田中 菜月

同じに見えるけど
全部バラバラ

kinaliのまあるいつみき
「まあるいつみきmini」。税込12,100円。16個入り。
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=153716035

まあるいつみきシリーズの中で一番人気の「まあるいつみきmini」は、16個それぞれが異なる樹種で、すべて岐阜県産材です。色味や木目、重さなど、樹種の違いを遊びながら味わうことができます。

すべすべとしたなめらかな質感は、ずっと触っていたくなるほどの気持ち良さ。無塗装のため、心地よい木の香りに癒されます。

kinaliのまあるいつみきで遊んでいる様子

積んだり転がしたり並べてみたり、つみき遊びはもちろん樹種当てゲームなど遊び方はさまざま。他の積み木と一緒に組み合わせて遊ぶのもおすすめです。樹種のマークがプリントされた巾着袋付きで、片付けも楽々です。

付属のパンフレットには、遊び方や樹種紹介を掲載。

触れて遊ぶうち、木の違いに気付けるのが、まあるいつみきの特徴の一つです。個性豊かな木々の姿が見えてきます。

ところで、こうしたユニークなつみきは、どのような流れを経て生み出されているのでしょうか。響hibi-ki STOREの店長とともに製作現場を訪ねてみました。

四角い木が
まあるくなるまで

まあるいつみきを作っているkinaliの工房は、岐阜県郡上市の「明宝」と呼ばれる地域にあります。あの「明宝ハム」の明宝です。“郡上おどり”などの観光地として人気の郡上八幡から、車で20分ほど行くとたどり着きます。

工房から見える風景。
kinaliの工房の外観

工房の中を覗かせてもらうと、早速いろんな樹種を発見しました。まだ“カクカクした”状態の材料です。製材屋から購入した板を、細かく加工して、作業しやすいサイズに整えられています。

樹種ごとに仕分けされている材料棚。
樹種ごとに仕分けされている材料棚。

それぞれの樹種が樹木として山に立っていたときは、どんな姿形をしていたのか、その周りはどのような環境だったのか。そんなことに思いを馳せました。きっと同じ樹種でもまったく異なる状況の中で育っていたことでしょう。

まあるいつみきに使われている樹種のほとんどが広葉樹です。広葉樹は丈夫な木が多く、家具などに使われています。一方で、実際の家具づくりなどで使われている材料は、外国産が多くを占めています。日本では木材としてあまり流通していない広葉樹ですが、岐阜県では飛騨エリアを中心に広葉樹材の流通が細々と続いているため、岐阜県産材を使った16樹種のまあるいつみきを作ることができています。

広葉樹を人工的に育て、木材として量産する技術は日本で確立されていないため、自然に生えてきたものを山から伐り出して活用しているのが現状なのです。もしかすると、まあるいつみきの16種類のうち、今後手に入らなくなる樹種が出てくる可能性もあるかもしれません。

工房で材料の話を伺い、素材の希少さを身にしみて感じました。

糸ノコで材料の角を落としていく。
糸ノコで材料の角を落としていく。

続いて、まあるいつみきができるまでの一連の作業を見学させてもらいました。角材の状態から、糸ノコと呼ばれる木工機械で材料の角を落とし、研磨する機械で木材に丸みをつけ、表面を磨き上げる地道な作業を重ねていきます。こうして、あの“まあるい”つみきの形と質感が生み出されているのでした。

つみきの表面にある樹種のイラストは、一つひとつ焼き印されたものです。丸く磨き上げたつみきに焼き印を押して完成します。

まあるいつみきの焼き印の型。
焼き印の型。
まあるいつみきの焼き印を押しているところ

地元の木材に
こだわる理由

製造の効率やコストを考えれば、単一の樹種に絞って製作した方が圧倒的にメリットが多いでしょう。それでも、まあるいつみきのように多種多様な地元の木を活用することを譲らないのには理由があります。

それは、“地域の森林のため”という思いが根っこにあるからです。地域の木材を使うことは、山の手入れを進め、森を元気にすることにつながっていきます。それによって、美味しい水が飲めたり、自然災害から身を守ることができたり、私たちの暮らしにも深く関わっているのです。

左から)磨きのベテラン・千賀、商品開発などを担当する山本さん、木工職人の槇原さん、代表の小森さん、工場長の亀崎さん。
左から)磨きのベテラン・千賀さん、商品開発などを担当する山本さん、木工職人の槇原さん、代表の小森さん、工場長の亀崎さん。

kinaliの代表・小森胤樹さんは、森林管理の専門家である“フォレスター”としても長年活動しています。日頃から森林を見ているからこそ、地元の木材を大切に使っていくことがkinaliのコンセプトの柱となっているのです。

“おもちゃ”という形を通じて、身近な山や自然に興味を持つきっかけにしたい。まあるいつみきに樹種のイラストを刻印しているのも、子どもたちが木に親しみを持ち、自然とのつながりを感じられるようにという思いから生まれました。

「森林とのつながりを感じてもらいたいのはもちろんですが、子どもの記憶に残るようなものづくりを目指しています。安心安全に遊べることを前提に、子どもたちが自ら遊びを創造できるような、“余白のある”おもちゃを作っていきたいです」と話すのは、商品開発を担当している山本美樹さんです。

オーガニックカフェの経営や、児童養護施設での仕事を経て、2022年にkinaliの前身となる株式会社郡上割り箸に入社し、木工の世界に足を踏み入れました。木のことを知り、日々触れる中で、どんどん木の魅力に惹かれていったという山本さん。自身の父親が樹木医であったこと、それもあって“美樹”の名前が付けられたことなどを思い返し、より木への親しみが湧いたと言います。

響hibi-ki STOREの店長と商品開発の相談をする山本さん(写真右)。
響hibi-ki STOREの店長と商品開発の相談をする山本さん(写真右)。

最近は新商品の企画に余念がありません。「赤ちゃんから大人まで、日常の中で木製品を使う文化を広げていきたいです」と、アイデアが止まらない山本さん。響hibi-ki STOREとのコラボで、新アイテムの開発も着々と進んでいます。

直近では、クリスマスシーズンにぴったりな岐阜県産ヒノキと広葉樹のツリーや、響hibi-kiのデザイナーが描いた干支のイラストをあしらった積み木が新登場しました!

「ツリー」4,950円(税込)https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=189267474
「ツリー」4,950円(税込)
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=189267474
「干支つみき」3,300円(税込)。https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=189267501
「干支つみき」3,300円(税込)。
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=189267501

今後もまだ見ぬアイテムが飛び出してきそうな予感がしています。「いずれはオーガニックカフェを併設した木工房をつくってみたいね」と夢を語り合いながら、工房を後にしました。

店長の取材後記

まあるいつみきminiを初めて見たときの衝撃は忘れません。木工のことを全く知らなかった当時の私は、「木って茶色だけじゃないんだ」「木って重さも違うんだ」と驚きの連続だったことを覚えています。

今ご縁があって、こうしてkinaliさんと新しい商品の開発ができることをとても幸せに思うと同時に、岐阜県産材へのこだわり、丁寧に繊細に作られているまあるいつみきへの愛情は当時から変わっていません。

山本さんと話していると私の夢も広がります。これからも、一緒に理想を語り合いましょう!

●Information
株式会社ki na li
岐阜県郡上市明宝大谷1243
TEL 0575-87-2411

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。