にっぽん 民藝 journey
# 25
ヒビキストア店長とゆく職人探訪①
元銀行マンの曲物職人
2025.2.19

国産木材でつくられた選りすぐりのおもちゃや雑貨を販売している〈響hibi-ki STORE〉。ただものを売るだけではなく、店長自ら地元の木工房を訪ね、職人さんたちと交流を深めています。そこでこのシリーズでは、店長の普段のフィールドワークに密着。今回は岐阜県各務原市で2021年9月に創業した〈曲物工房清水〉を訪ねました。

聞き手:葛西 希美(響hibi-ki STORE店長)/写真・文:田中 菜月

今の暮らしに
寄り添うセイロ

中華セイロ。写真提供:曲物工房清水

曲物工房清水では、セイロや弁当箱、おひつなどのいわゆる“曲げわっぱ”と呼ばれる曲物をつくっています。響hibi-ki STOREでも、中華セイロと和セイロ、お弁当箱を期間限定(1/28~4/27)で実店舗とオンラインストアにて販売中です。

写真の中華セイロは奈良県産のヒノキと国産の竹を組み合わせてつくられています。木目の細かい丈夫な材を使用しているため、お手入れしながら使い続けることで長く愛用することができる逸品です。

曲物工房清水の代表である清水貴康さんに質問をぶつける葛西店長。

セイロづくりの様子を見学させてもらっていて、ふと葛西店長が気になったのは職人の方たちも普段の暮らしでセイロを使っているのか、ということでした。

「僕らは日常的に使ってますよ。電子レンジの代わりにもなりますし。冷凍のごはんをセイロで蒸すのがおすすめです。セイロは水分を与えてあげる作業だからごはんがふっくら仕上がるんですよ。あとベーグルを蒸してもおいしいですね。蒸しパンみたいにもっちもちに仕上がります」

清水さんや他の職人さんたちの話を聞いていると、思っていたよりもセイロは現在の暮らしに合った料理道具であることがわかってきました。「プラスで野菜も入れられるのがいいですよね。下に野菜を敷いて、上に冷凍の焼売を乗せるだけでいい」「セイロで一気に3品つくることもあります。蒸したまま別の作業ができるのもいいですね」などなど、色んなセイロの使いこなし方を教えてもらいました。

「SNSとかでおしゃれにセイロを使ってる人を見ると、自分にはできないなって思ってましたけど、そうでもないんですね」と葛西店長。確かに、セイロはなんだか手間がかかりそうというのは思い込みだったようです。

セイロで野菜を蒸すと甘くなるため、お子さんでも野菜を食べやすくなり、離乳食づくりでセイロを活用している方もいるのだそうです。取材後、さらにネットでセイロの使い方やレシピを調べてみると、情報量が豊富かつ分かりやすくまとめられているサイトや投稿が充実していて、セイロ生活を楽しんでいる方がたくさんいることを実感しました。

一度曲がった木(曲輪)を真っ直ぐにして形を整えている職人の木村さん。自身のお子さんもセイロで蒸した野菜を好んで食べてくれるそう。

セイロ料理に初挑戦する場合は、まず安価なセイロで試してみるのもいいかもしれませんし、長く使い続けたいという方は曲物工房清水さんがつくられているような国産のセイロを手に取っていただくのがおすすめです。

この取材を通じてセイロ熱が高まってきた葛西店長と筆者は、これを機にセイロのある暮らしを始めようと意気込んでいます。響hibi-ki STOREにはセイロ愛用者もいますので、具体的な使い方や調理方法など相談したいという方は、ぜひ実店舗へお越しください。

木工の世界はまだまだ
可能性に満ちている!

岐阜県各務原市出身の清水貴康さんは、大学を卒業後、信用金庫に10年勤めていました。その後、職を辞して岐阜県立森林文化アカデミーへ進学し、木工を学び始めます。銀行員の仕事をする中で、金融の知識を組み合わせれば、後継者不足とされる木工業界をもっと盛り上げていくことができるのではないかと感じる機会があり、自身が職人となる道を選んだのだそうです。

木工業界といってもジャンルはさまざまです。清水さんの場合は、曲物づくりを教えてくれる方とアカデミーで出会ったことが転機の一つとなりました。「曲物はつくっていて楽しいですし、使ってもらえると嬉しいですね」と話す清水さんは、つくるほどに曲物の魅力に憑りつかれていると言います。

写真右は鈴木さん。清水さんと同じく、彼女も岐阜県立森林文化アカデミーの卒業生。

今回話を伺う中で葛西店長が一番気になっていたことは、工房が各務原市の市街地にあることでした。伝統工芸に携わろうと思うと、山奥の産地が拠点になっているイメージがあります。ですが、各務原市は山奥にあるわけではないですし、曲物の産地というわけでもありません。

「各務原は物流やネットワークがしっかりしてるので、地元でも木工の仕事ができることを実感しています。いろんなハードルはありますけど、地元で仕事ができるっていうのはすごくうれしいです。地元の友だちともお付き合いできますし、それでいて自分の好きな仕事もできるっていうのはすごく幸せなことだなって思いますね」

曲げた板材を桜の樹皮で留める作業を担当するのは清水みほさん。

木工職人を志す人を増やせたらという思いから、清水さんは技術のインフラ整備にも取り組んでいきたいと話します。

「僕はアカデミーの学生時代に課題研究で木工道具の研究をしたんですね。同じものをつくっていても、地域によって微妙に道具の形や使い方が違います。そこで、各地の職人さんを集めて『曲物ミーティング』という名前で技術交流会をしたんですよ。そのおかげで僕も一気に技術力が上がりました。縦だけのつながりだと技術が一方通行になってしまうんですが、横のつながりを増やしてさまざまな技術を選ぶことができるようになれば、経験が浅い人でも技術力を上げやすくなると思います。今後は技術のマニュアル化や作業の様子を動画で記録したりして、インフラを整えていきたいですね」

木工職人として活動する際の拠点や技術の習得方法は、以前よりも着実に変わりつつあります。挑戦しやすい環境になってきていると言えるでしょう。清水さんの話を聞き、工房内で作業をする3人の女性の職人さんたちを見ていると、勝手ながら木工業界に希望を感じる取材となりました。

店長の取材後記

これまでも職人さんにお話を聞かせていただく機会がありましたが、清水さんはその中でもはるかに「ものづくり」というものを外から見ている方だなと思いました。産業としての戦略性がありながら、ものづくりへの深い情熱もある。決してどの経験も無駄にはせず、これからのものづくりの新しい世界をつくってくれるんだろうと、個人的にとても楽しみになりました。そして何より、工房のみなさんが楽しそうだったことが印象的でした。お互い、元銀行員の底力をこの世界に見せてやりましょうね。

●オンラインストア
中華セイロ:https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=184821693
和セイロ:https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=184822957
お弁当箱:https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=184823031

●Information
曲物工房清水
〒504-0856 岐阜県各務原市蘇原島崎町1-8
https://magemonoshimizu.com/

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。