にっぽん 民藝 journey
# 20
お風呂でちゃぷちゃぷ
遊びながらあたたまりたい
2022.3.3

日本の木を中心とする自然素材でつくられた民藝や日用品、そのつくり手を取り上げます。今回は高知県安芸市である夫婦がはじめた木工所〈山のくじら舎〉。たった2人で立ち上げた工房ですが、今では女性を中心とした約20名のスタッフを抱えるほどにまで成長しました。そんな木工所の昔と今について、3名のつくり手さんから話を伺いました。

写真:山のくじら舎、編集部/文:堀部沙也加

友だちとの会話から
生まれた看板商品

「おふろでちゃぷちゃぷ」7,480円(税込)
《山のくじら舎・おふろでちゃぷちゃぷのここがいい!》
・親しみやすく、かわいらしい、海の生きもののデザイン
・魚屋さんごっこや積み木としても楽しめる遊びの幅広さ
・高知県産ヒノキの爽やかな香りと心地よい手触り
お風呂じゃなくても、バケツに水を張るだけで遊び場になる。

土佐湾に生息する生きものたちをかわいらしくかたどった「おふろでちゃぷちゃぷ」は、その名の通り、お風呂で遊べる木のおもちゃです。香りの強い“土佐ヒノキ”は白い木目が美しく、柔らかい触り心地は子どもだけでなく大人にも人気です。おふろでちゃぷちゃぷの開発者である萩野陽子さんが、このおもちゃの誕生エピソードを教えてくれました。

「自分の子どもをお風呂に入れるときに、『木でできたお風呂のおもちゃってあまりないな』と思ったことがきっかけでつくりました。身の回りのものを自然素材で集めていたこともあって、お風呂で遊べる自然素材のものがほしくなったんです」

お風呂で遊ぶことを第一に考えているため、無塗装でつくられているのがポイントです。ちょっとしたひと工夫につくり手の温かみを感じます。実際につくってみたところ、周囲のママ友にも評判で、そこから少しずつ注文が増えていったと言います。当初はこの商品一本でやっていこうと思っていたほど反響があり、今も山のくじら舎の看板商品として多くの方に愛されています。

木工機械一台から
はじまった工房

山のくじら舎がある高知県は森林面積が84%で全国1位と、山のイメージが強いですが、安芸市は広大な太平洋に面しているため海の自然も豊かです。この自然に魅力を感じた萩野さんは、山のくじら舎の代表であり夫である和徳さんと四万十川で出会い、結婚を機に高知県安芸市へ移住しました。

「瀬戸内海を見て育ったので、最初に高知へ来たときは大きな広い海を見てびっくりしましたね。こう、地平線が広がっていて、その向こうに何もないじゃないですか。スケールが大きいなと思いましたね」

最初に夫婦で住みはじめた家に糸ノコ(板を曲線にカットすることができる木工機械)一台を置き、山のくじら舎がスタートしました。今ではスタッフみんなが集まる工房となり、日々、木のおもちゃを丁寧につくり続けています。

工房で使う材料は、和徳さんが高知の木材市場へ丸太の買い付けに行き、希望のサイズに製材所で加工してもらっています。ほとんどは高知県産ヒノキを使用していますが、建築端材などから小さなおもちゃを制作することもあるようです。

紅の豚のワンシーン?
女性職人が大活躍!

山のくじら舎では、20代以降の幅広い年齢層の職人が現在20名働いています。なんと男性は1名。多くの女性がガシガシ働く様子に、「紅の豚のワンシーンのようだ」と言われたことがあるそうです。萩野さんは一人ひとりが働きやすいように「違いを知ること」を大切にしていると言います。

「『楽しく働きたいな』というのは心がけています。日々勉強なのですけど、みんなどこに重きを置いて働いているかが違う。全員がものづくりが好きなわけではないですからね。お互いの違いを知り合うところからはじまるのかなって思います。知ることと、知ってもらうことと。面倒くさいようで、そこが一番大事ですね」

そんな優しさにあふれる萩野さんのもとには、子育て中の方や、ものづくりが好きな女性が全国から集まります。今回取材に応えてくれた上松さんは、子育てしやすい職場を求めてやってきた女性の一人です。

左画面中の左から湊さん、萩野さん、上松さん。

「次男が8ヵ月のころに、無理せず育児を優先して働ける場所を探していて、SNSで山のくじら舎の求人を見つけたのがきっかけで働きはじめました。子育てをしていると孤独を感じることがあると思うんですけど、職場内に同じ立場の人が多いので気持ちを共有できるし、木のおもちゃをつくりながら自分に向き合う時間があることで、心に余裕ができて良かったですね」

スタッフの中には移住組もいます。東京から高知へ移住してきた湊さんは、お互いに支え合える関係性に救われていると話してくれました。

「主婦の方が多いから、みんなで助け合って『お互い様だね』っていう気持ちで働いています。誰かができない時には、代わりにできる人が自然とサポートしてくれる環境です」

山のくじら舎の皆さん。親子で働くスタッフもいるそう。

「働くお母さんを応援する」をテーマに、20名近くの女性を雇用している〈山のくじら舎〉。今後も山と海をつなぐ、クジラのように深く大きな優しさで、互いに助け合いながら木のおもちゃが生まれてくるのでしょう。響hibi-ki STOREの実店舗にお越しいただければ、山のくじら舎の商品を手に取って香りや質感、つくり手の温もりを確かめることができます。高知までなかなか足を運べない!という方も、アイテムに直接触れることで感じ取れる何かがあるはずです。

▼山のくじら舎さんとのオンライントーク
https://www.instagram.com/tv/CRfoTUqAokA/
●「おふろでちゃぷちゃぷ」販売ページ
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=161334317
●「十二支パズル」販売ページ
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=154136520
堀部 沙也加 (ほりべ・さやか)
「響 hibi-ki STORE」店長。休みはもっぱらスキー、キャンプ、飲み水は池田山の湧き水という家庭で育ち、大学時代はどっぷり農業に浸かる。自然に関わる仕事を探して響の仕事にたどり着く。車購入後、水を得た魚のように遠出好きに/めざせ土壌医アドバイザー/隙間時間はひたすら漫画