にっぽん 民藝 journey
# 15
1枚の木の紙が作る
古くて新しい食の楽しみ方
2021.9.27

日本の木を中心とする自然素材でつくられた民藝や日用品、そのつくり手をフックアップするこの連載。響 hibi-ki STOREで取り扱うアイテムの中から、とっておきの一品をピックアップします。今回は長野県伊那で家具づくりを行ってきた〈株式会社やまとわ〉。今回取り上げるものは、キッチンでも登山でも活躍する「信州経木 Shiki 」です。古くから使われてきた経木から新たな食の楽しみ方が生まれています。

写真:編集部、生産元/文:高岸 昌平

包む、敷く、保存する…
“木の紙”なのにこんなに便利!

「信州経木 Shiki」Short(24×15㎝)/ Long(48×15㎝)
●やまとわ・信州経木 Shikiのココがいい!
・まな板の上に敷けば、生モノを切っても洗う手間いらず
・食材にフィットする落し蓋で、煮崩れを防ぐ
・おにぎりを包めば、登山に持っていくお弁当代わりに
・お料理を飾れば、特別感のあるディナーに!

長野県伊那で育ったアカマツを0.18㎜にスライスしてできた「信州経木 Shiki 」は、先が透けて見えそうなほどの薄さ。実は、経木というものは昔から肉やおにぎりを包むのに使われていました。商店街のお肉屋さんが包んでくれていたあれです。今では発泡スチロールの容器に変わってすっかり見かけなくなりましたが、そんな経木にも、私たちが知らないだけで使い方がたくさんあるのです。

例えば、野菜と生モノでまな板を分けるのは面倒ですよね。生モノを切るたびになんだか生臭さも気になります。そんなとき Shiki をまな板に敷いて使ってみてください。まな板に生臭さや脂汚れがつかず、洗い物も減っていい気分です。

魚の煮つけでは落し蓋はもちろん、魚の下に敷いて焦げつきを防ぐこともできます。そのまま持ち上げて、器に盛り付ければ崩れる心配もありません。

オンライントークの様子。左が株式会社やまとわ代表取締役の中村博さん。

同社代表取締役の中村博さんにおすすめのShikiの使い方を伺ってみたところ、“パンの保存”をイチオシしてくれました。夏の暑い時期は悪くなってしまいがちな食パン。やむを得ず冷凍することもあるでしょう。そんなときはShikiで巻いた食パンをフリーザーバッグに入れて冷凍すれば調湿作用が働きます。もうパサパサの食パンとはおさらばです。

響 hibi-ki STOREでは、”包む”に便利なlongと”敷く、飾る”に使えるshortの2種類を取り扱っています。1袋20枚と50枚入りを展開している「信州経木 Shiki 」。木でできているとはいえ、とても薄く作られている ので、繊維方向(縦)であれば手で切ることができます。はさみで切って必要な分だけカットするのもOK。ラップと違って水分で蒸れたり、脂でべたついたりしない Shiki は使い心地も快適です。

極薄の木にたっぷり詰まった
先人の知恵

昔から使われてきた経木には、木とともに生きてきた先人の知恵が詰まっていると中村さんはいいます。土地ごとに樹種を変えて生産される経木はスギやシナ、エゾマツなどが使われます。中でも一番使われているのが、Shiki に使われるアカマツ。アカマツのヤニには抗菌作用があるといわれています。さらに、経木の厚さにも意味があります。それぞれの食品にあった厚みで魚や納豆、お菓子を保存・保管してきた歴史があります。

中村さんが、「薄っぺらい紙みたいなものに自然と人のつながり・暮らしと木のつながりという知恵が、詰まっているところがすごい!」というのも頷けます。生活や用途に合わせて厚みが変わっていく経木。シンプルなつくりの裏にある先人の知恵の奥深さを感じます。

信州経木 Shiki の素材となる信州アカマツ。アカマツにできる節の間隔がShikiのサイズとピッタリ。

Shiki の製作は同社にとっての地元・伊那に生えるアカマツを伐り出すところから始まります。伐り出したら、木が水分を含んでいるうちに大きい鰹節を削るような機械で削っていきます。

「やまとわでは、かんなを使って木のクセを見て家具を作ってきたので、Shiki の製作は簡単にできると思っていたんですよ。でも濡れた木を削るので、家具づくりとはまるで別の世界。セオリーを覆す作り方をするから悩まされましたけど、それが面白すぎますね」

水分の多い状態で加工する Shiki は、天候や季節ごとに変化する木の水分量を考えて機械の力加減を見定めていきます。きれいに仕上げるため、どの木目で削るかも大事なポイント。中村さんは「機械が削るけれども、職人の技や知恵とか感性は必要」だといいます。そうして、無事に削られた材料は脱水機にかけられて、日陰で2日間干すことで完成を迎えます。

お家で家族と過ごす時間こそ、
特別でありたい

最後に改めて、どんな時に Shiki を使ってほしいか尋ねました。

「僕ね山登りが趣味なので、山に行くときにお弁当箱代わりにShikiを持っていくんですよ。やっぱね山で開けたときのね。ご飯のおいしさが、豊かな感じになるね。『今日は特別だね』ってわくわくして使ってもらえるなと思います」

中村さんの自宅でも Shiki は使われています。
「奥さんが使ってくれるわけですよ。揚げ物の下に経木が敷かれたりしてると、『どうしたの?今日誰かの誕生日?』みたいな特別感がでるよね!」

私たちの暮らしの豊かさが、森の豊かさにつながっていくことを大事にしているやまとわでは、木を使うということをもっと簡単なアクションにしたいといいます。

「意識して『木を使おう!』というのはなかなか難しいところもあるけれども、食卓に上る経木だから空気のような存在で使い続けることができるんですよね。楽しく食べていれば木を使っていける。それがめっちゃ好きなんですよ!」

木を削って、風が乾かしただけのシンプルな Shiki 。それは紛れもなく自然に優しい商品。省資源ローエネルギーで作られる経木を使い続けることが森の持続的な利用に直結します。
そして、当然天然の木から作られたものは自然と土に還り、無理なく循環します。寒くなれば、薪ストーブの焚き付けとしても無駄なく使い切れます。さっそく「信州経木 Shiki 」を買った私は家庭菜園を始めて、肥やしにしてみようかしらと画策中です。

木を削って、風が乾かしただけのシンプルな Shiki 。それは紛れもなく自然に優しい商品。省資源ローエネルギーで作られる経木を使い続けることが森の持続的な利用に直結します。
そして、当然天然の木から作られたものは自然と土に還り、無理なく循環します。寒くなれば、薪ストーブの焚き付けとしても無駄なく使い切れます。さっそく「信州経木 Shiki 」を買った私は家庭菜園を始めて、肥やしにしてみようかしらと画策中です。

私たちが何気なく使うものに”木”を取り入れることで、自分の暮らしも森林も豊かになり、新たなアカマツが芽吹いていく。Shiki を取り入れた新しい日常が楽しみになります。

信州経木 Shiki はこちら

過去取材記事はこちら

●Information
株式会社やまとわ
〒399-4501 長野県伊那市西箕輪6565-20
WEB https://yamatowa.co.jp/
高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。