にっぽん 民藝 journey
# 11
木育スペシャリストに聞く
木のおもちゃって何がいいの?
2021.6.21

木製品の代表の一つといえば、木のおもちゃです。家族や親戚、友人の出産祝いなどに“いい木のおもちゃ”を贈りたい、幼い我が子に“立派な木製玩具”を使ってほしいと考える方もいるでしょう。感覚的にいいものだとは思うけれど、せっかくならばしっかりとした自信を持ってプレゼントしたい。そこで、“木のおもちゃの良さ”について、「おもちゃコンサルタントマスター」である浅野美香子さんに話を聞きました。

写真:高岸 昌平/文:田中 菜月

どうやって遊べばいいか
分からない積み木?

響 hibi-ki STOREの実店舗が併設されている県の木育施設「ぎふ木遊館」では、岐阜県産の木を中心とした国産材でできたおもちゃがたくさん置いてあります。積み木、けん玉、コマ、楽器など種類はさまざまです。

※「木育」は2004年に北海道で生まれた言葉です。定義は団体によって多少の違いはありますが、例えば岐阜県では、「岐阜が誇る木と共生する文化を将来へつないでいくための取組であり、豊かな自然を背景とした『森と木からの学び』」と定義されています。

そして、この施設に欠かせないのが来館者の木育体験をサポートするスタッフです。遊びの創意工夫のきっかけをさりげなくパスし、子どもたちの創造性を刺激してくれる存在でもあります。木育サポーターたちを取りまとめ、日々子どもたちと触れ合っているのが、NPO法人岐阜県木育推進協議会の理事・浅野美香子さんです。(2021年5月取材時点)

浅野さんが県の子育て相談窓口の相談員を務めていたとき、偶然見つけたおもちゃインストラクター養成講座に参加。そこから木育との関わりがはじまったと言う。

林野庁が木育の取り組みを本格的にはじめた2008年頃から、時を同じくして浅野さんも県内での木育活動をはじめ、岐阜の木のおもちゃの開発や普及に携わったり、木育指導者の養成講座を開いたり、地域内外で木のおもちゃワークショップを行うなど精力的に活動してきました。認定NPO法人芸術と遊び創造協会が認定する「おもちゃコンサルタントマスター」の資格も保有し、地域における木育分野のリーダーとして活躍しています。木育のスペシャリストである浅野さんから見て、木のおもちゃの良さはどのように映っているのでしょうか。

「例えば積み木は、大人からすると“どうやって遊んでいいかわからないものの代表作”なんですね。積んで終わり。でもそれは、知識と経験が邪魔してるからなんです。『こういうふうにつくらなきゃいけない。積み木で家をつくるなら絶対に三角の屋根にしないと』って考えにとらわれちゃう。『そのやり方は違うよ』って大人に言われるから、子どもも積み木で遊びたくなくなるんですよね。でも、積み木ほどおもしろいものはないと思います」

木育施設で子どもたちが遊ぶ姿を観察していると、見たことのない積み木の遊び方が生まれていると言います。商品としてはまったく別物で、形も大きさも異なる2~3種類の積み木をミックスして遊んでいる子もいれば、ブロックを積み重ねてたまたま坂になった部分から、別のブロックが偶然ゴロゴロ転がったことで新しい仕組みを発見した子もいます。

「積み木以外にも、施設内にある色んな木のおもちゃを出してきて、それぞれ組み合わせて自分なりのやり方で一生懸命遊んでるのよね。『そうか、こうきたか!』って思わせられることもあります。それってやっぱり木のおもちゃがシンプルなつくりだからできることなのかも」

素朴なつくりの木のおもちゃは、その材質にも特徴があります。金属やプラスチックにはない、唯一無二の性質。それが“熱伝導率の低さ”、“吸湿性の高さ”、“ほど良い吸音性”を兼ね備えている点です。

「木のおもちゃって、ずっと触っていても不快に思わない。熱伝導率が低いから手の体温を奪わないんですよ。『人の肌に一番近い素材は木だ』って言われてる所以です。ぎふ木遊館に来るお母さんたちも積み木をずっと触っていますよ。気持ちいいんでしょうね。それと嫌味じゃない音も重要。木で音を鳴らしても頭にツーンと来ないですよね。そのやさしい音が赤ちゃんにはちょうどいいんです」

熱伝導率は簡単に言えば”熱を伝えるスピード”のことです。水の熱伝導率を1としたときに、他の物質の熱伝導率を比較すると、空気は0.04、毛布は0.1、プラスチックは0.1~0.3、木材は0.4、ガラスは1.4、コンクリートは2.4、花崗岩は6.6、鉄は106となります。数値が低いほどスピードが遅く、数値が高いほど熱を伝えるスピードが速いということです。数値だけで比較すると木材よりプラスチックの方がいいように思えるのですが、手触りの良さはそれだけで生まれるものではありません。

そこでもう一つ重要になるのが吸湿性です。木材の主な成分であるセルロースやヘミセルロースの中に水分子を引き寄せる部分があるため、吸湿性能に優れます。この性質のおかげで、木のおもちゃをずっと触っていても手汗などの水分を吸収してくれるため、べたつきを感じることもありません。プラスチックの場合はこの吸湿性がないため、べたついて不快に感じてしまいます。

photo by Dick Thomas Johnson

また、ほど良い吸音性については、演奏会などが開かれるコンサートホールを思い浮かべるといいでしょう。内装には木材が使われていることが多いですよね。音楽の心地良い響を楽しむ空間に木材が欠かせないことの何よりの証左です。人にとって耳障りな高周波の音を木材が吸収してくれるため、柔らかな音として聞こえるのだと言われています。

この他にも、心を落ち着かせる香りがあったり、軽いわりに強度があったり、挙げ出すとキリがないほどさまざまな性質を持ち合わせているのが木材であり、木のおもちゃなのです。

子どもはマネの王様

今や木のおもちゃの数は膨大。その中からプレゼントとして一つだけ選び抜くというのは悩ましいものです。どういうポイントで選べばいいのか浅野さんにアドバイスをもらいました。

「『この子は今どういうことをやりたいんだろう』と観察してみると、どういうおもちゃを渡すとその子の身体が喜ぶかわかると思います。おもちゃの適正年齢はあくまで安全面のもの。その子が興味関心のあるものであれば、親御さんがしっかり見守っていれば、どんなおもちゃでもいいし、それが一番子どもの発達を促します」

家族であれば子どもと触れる時間も多く、興味関心を見抜くこともできるかもしれませんが、そうでない場合は難しそうです。そこでさらにポイントになるのが“大人視点”です。

「子どもは大人のマネをして何もかも覚えますから、お子さんが本当に好きなのはスマホと車のカギとお財布なんです。親御さんがいつも持ってますからね。大人が肌身離さずずっと持ってるもの、子どもはそれが触りたくて仕方がないんです。それだからこそ、おもちゃを買うなら自分が気に入ったものを選ぶのがベスト。一緒に遊ぶ大人が好きなおもちゃはお子さんも好きです」

自分が気に入ったもの、もしくは子どもの両親が好きそうなおもちゃを選ぶことが一番重要になるようです。仮に、我が子に自分の気に入ったおもちゃを贈ったとしたら、自分自身が気に入っているからこそ永く大切に使うことができ、それは子どもにとっての宝物にもなっていく、ということなのでしょう。

「木のおもちゃのいいのところは、時間が経つと味が出ていいものになってくるところです。長持ちするので、木のおもちゃを使っていた子が大人になり、自分の子どもが生まれたときに『これは私が赤ちゃんのときにね』って昔の話をして、そのおもちゃで遊ぶのもいいですよね」

世代を超えた家族のストーリーの一つになるであろう木のおもちゃ。そうした未来を想像しながら、じっくりプレゼントを選びたくなります。そこで、さらに!次回は、おもちゃコンサルタントマスターから年齢別のおもちゃをおすすめしてもらいます。

【参考書籍】
木質科学研究所『木材なんでも小事典』講談社(2001)
田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。