にっぽん 民藝 journey
# 10
柿渋で染めた
身体にやさしいマスク
2021.6.1

日本の木を中心とする自然素材でつくられた民藝や日用品、そのつくり手を取り上げる「にっぽん民藝journey」。響 hibi-ki STOREで取り扱うアイテムの中から、とっておきの一品をピックアップします。今回は“柿渋”で染めたマスクや手ぬぐいなどの布製品を製造販売する〈柿BUSHI〉の加藤慶さんから話を伺いました。

写真:取材先/文:堀部 沙也加

伊自良大実柿
絶滅寸前の木だった?!

「柿渋染めマスク」1,700円(税込)
(上から)ピンクベージュ/イエロー/グレー

この1年ほどですっかりマスクの着用が当たり前になりましたね。不織布マスクやウレタンマスクなど好みはそれぞれだと思いますが、毎日マスクをつけていると「肌が荒れやすくなった」「マスクのゴムで耳が痛くなる」などの困りごとも増えてくるのではないでしょうか。

そんな悩みを抱える方に人気なのが、響 hibi-ki STOREで販売している「柿渋染めマスク」です。中でも軽い着け心地が好評を得ています。さらに、生地の染料に使われている“柿渋”には抗ウイルスに加えて、防腐・抗菌・消臭・防水・防虫などさまざまな効果があると言われています。まさに今のご時世にうってつけのマストアイテムです!

STOREではマスク以外に手ぬぐいやふきん、ボトルに入った柿渋も販売中です。これらの柿渋染めシリーズは、岐阜県山県市で柿畑の管理から柿渋の製品づくり、柿渋染め体験を行う〈柿BUSHI〉の加藤慶さんの手により生まれています。徐々に柿渋製品を増やしている同店ですが、染料として使用している渋柿「伊自良大実柿(いじらおおみがき)」は危機的状況にあると加藤さんは言います。

「『伊自良大実柿』は500年くらいの歴史があるんですが、現状では1000本くらいしかない、まさに絶滅危惧種のような柿の木なんです。すごく伝統と文化がある柿なんですが、それが今まさに途絶えようとしているんですね」

柿渋の原料となる青柿の収穫。500mlの柿渋を作るのに約1㎏の青柿が必要です。

柿渋は、7月~9月ごろのまだ青い柿を、潰し、絞り、醗酵させた液体です。“柿タンニン”(柿渋の主要成分)が一番多いと言われる夏の青い渋柿は、冒頭でも紹介したような防腐や抗菌作用などが特に期待できるそうです。昔から木材を腐らせないためや和紙の耐久性を高めるために、塗料として活躍してきました。加藤さんはこの柿渋文化を復活させたいという思いから、柿渋染め商品の製作を始めました。

柿渋で布を染めている様子。柿渋染めは日本人の肌になじむ柔らかい色合いに仕上がる。

柿BUSHIでは、「トップ染め(綿染め)」という特殊な技術を取り入れています。糸ができる前の「綿」を染めることで、繊維にしっかり柿渋が浸透し、柿渋の効果も安定し、色落ちしにくくなります。

伊自良大実柿の産地である岐阜県山県市は、半世紀前までは年間約10トンの柿渋を生産するほど、柿渋産業が盛んな地域でした。しかし、化学塗料などの登場により柿渋の需要は自然と減り、一度は柿渋文化が途絶えてしまいます。ところが、近年になってオーガニック志向の人が増えてきたことから、じわじわと復活しているのだそうです。

「伊自良大実柿を残していきたい、守っていきたい、というのが商品づくりの一番の大元です。ですが、守り続けるには需要も増やしていかなければいけません。柿を生産しても、使う人がいなかったら担い手も育たないですから。柿の需要と供給の流れをつくりたいと思い、マスクや手ぬぐいなどの商品をつくるようになりました」

今後も柿渋文化を継承するため、加藤さんは柿の魅力を追い続けます。

物々交換スタイルで
柿を仕入れる

愛知県出身の加藤さんは大学進学をきっかけに上京し、東京でシステムエンジニアとして働いていました。そんな中で山県市の自然に惹かれ、当時募集されていた地域おこし協力隊に参加し、柿渋文化と出会うことになります。

柿を収穫する加藤さん

「山県市に初めて行ったとき、川がめちゃくちゃ綺麗で、自然がすごい豊かだったんです。そこに興味を持ったのがきっかけですね。山県市について調べていくうちに伊自良大実柿を知りました。でも、富有柿に負けてて全然知られていないんですよ(笑)。でも伝統や文化がすごくあって、めちゃくちゃ“濃い”んです。『柿渋はいろいろと広がりがあるな』と思ったのが取っ掛かりですね」

心の奥に秘めていた「自然豊かなところで暮らしたい」「自分で新たにつくり上げていける仕事がしたい」という2つの条件にマッチした山県市。その魅力は自然だけではなかったそうです。

山県市の自然を眺めながら休憩を取る加藤さん。

「山県市って、お金を介さない物々交換の文化が残っているんですね。柿のことを仕事にしていますけど、僕は移住者なので柿畑を持っていないんですよ。そこで、元々放棄されていた柿畑で草取りなどの管理をする代わりに、柿を収穫させてもらっています。これも一つの物々交換だと思います。僕たちが管理することで、柿の木も切られずに守っていけるし、(人や自然と)共生できているなと感じます」

柿畑の除草をする加藤さん。柿の木を育てるために欠かせない作業。

加藤さんの話を聞いていると「移住、いいなあ」と思えてなりません。山県市の移住定住アドバイザーを務める加藤さん曰く、移住のポイントは「移住者と居住者のパイプ役となる人を見つける」ことだそうです。すっかり山県市に馴染み、柿渋の仕事も板についてきた加藤さんに今後の目標を伺いました。

「今やっている柿渋の仕事が生業として回っていけるようにしたいというのが一つの目標です。それがモデルになれば、僕のようにチャレンジしたい移住者が外から来て、地場産業や特産品を使った事業も増えてくると思うので。そんな存在になりたいですね」

柿渋のように味わい深い山県市を拠点に、この先、柿BUSHIではどのようなものづくりが更新されていくのでしょうか。今後も目が離せません。

●オンライントークのアーカイブ
https://www.instagram.com/tv/CL5cQGIs3Pd/?hl=ja
●「伊自良柿渋500ml」販売ページ
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=157522827
●「柿渋染めマスク」販売ページ
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=157523021
●「柿渋染めふきん」販売ページ
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=157522871
●「柿渋染め手ぬぐい」販売ページ
https://hibi-ki.shop-pro.jp/?pid=157522938
堀部 沙也加 (ほりべ・さやか)
「響 hibi-ki STORE」店長。休みはもっぱらスキー、キャンプ、飲み水は池田山の湧き水という家庭で育ち、大学時代はどっぷり農業に浸かる。自然に関わる仕事を探して響の仕事にたどり着く。車購入後、水を得た魚のように遠出好きに/めざせ土壌医アドバイザー/隙間時間はひたすら漫画