にっぽん 民藝 journey
# 8
子育てしながら続ける
木のラトルづくり
2021.3.29

日本の木を中心とする自然素材でつくられた民藝や日用品、その作り手を取り上げる「にっぽん民藝journey」。響 hibi-ki STOREで取り扱うアイテムの中から、とっておきの一品をピックアップします。今回は飛騨高山の〈ruru made〉のラトルです。

写真:編集部、永堀 知鶴/文:堀部 沙也加

子どもが自ら見つけた
ラトルの遊び方

「ひなちゃんのマラカス」2,700円(税抜)
(上から)サクラ×シラカバ/サクラ×ホオノキ/ホオノキ×ブナ/トチ×サクラ

太陽のような、花のようなかわらしい形が印象的な「ひなちゃんのマラカス」は、全国的にめずらしい小径木の広葉樹でつくられたラトルです。4種類の色から選べることや、永堀さんのかわいい手書き文字の名入れも200円でできるため、実店舗で人気の商品です。

「(ひなちゃんのマラカスは)ママと赤ちゃんに優しいおもちゃとして考えました。口に入れても安心なように、天然素材でできた接着剤を使い無塗装で仕上げています。赤ちゃんは五感を刺激してくれるおもちゃも好きだけど、ママの声や笑顔が一番大好きなので、ママが気に入ってくれるように木の色合いにこだわっています」

実はこのラトル、永堀さんが友人に贈る出産祝いとして、そのお子さんだけの特別なおもちゃを考える中で誕生したものです。「陽菜ちゃん」という名前から太陽をモチーフにした形になりました。

聴覚の発達が特に早いと言われる赤ちゃんの耳を楽しませられるように、ラトルの中には大豆・小豆・米を入れて音がよく響くようにつくられています。子どもの成長に合わせるため、握る部分の幅が場所によって少しずつ異なるなど、シンプルな見た目ですが、細部に工夫が施されています。

ひなちゃんのマラカスはいわゆる“ガラガラ”ですが、見立て遊びをしたり、穴に棒を通して指先の運動をしたり、積み木に使ったり、用途はさまざまです。こうした遊び方は、永堀家の長女・紬(つむぎ)ちゃんが実際に使う中で発見したものでもあります。

「私は何も教えていないんですけど、娘が1歳半くらいのころに、ラトルの穴に小さいボールをはめて『ケーキだよ~』って持ってきたことがあって。子どもって自分で遊び方を考えるんだと思ってびっくりしました」

手押しカンナで木材を加工する産休前の永堀さん。

永堀さんは以前、木のおもちゃをつくる工房に勤めていました。自分の作品をつくるようになった当初は、今とちがって生活雑貨やクラフト商品がメインでした。

「当時は子どもがいなかったから、おもちゃについてわからないことが多くて、木のおもちゃをつくることをメインにはしていませんでした。自分の娘が産まれて、ひなちゃんのマラカスを2か月のときにプレゼントしたんですね。それが初めての娘へのプレゼントだったんです。ただ、『木育』という言葉は知っていたんですけど、子どもに木のおもちゃを与えたらどのような効果が出るのかそれまではよくわからなくて…」

話しかけながらガラガラを振ったり、歌ってあげたりしていた当時のことを話してくれました。最初は反応が薄かったものの、だんだんリアクションが返ってくるようになったと言います。

「『0歳1ヵ月は今しかない、0歳2か月は今しかない』と思ってずっと娘を観察していたんですね。それ以上に娘が反応を返してくれたのがうれしくて。それから、(自分で木のおもちゃを)つくりたいなと思うようになりました」

こうして、ひなちゃんのマラカス以外にも、色んな木のおもちゃをつくるようになっていきます。

地元の製材屋で購入した板材。この板を加工するところから作品づくりがはじまる。

永堀さんの作品で特徴的なのは材料です。一般的にはあまり流通していない広葉樹の小径木を使用しています。

「幅のせまい小径木は小柄な私にも加工しやすいんです。(直径の大きい木より)色が淡くて、パステルカラーチックなおもちゃを木でつくれないかなと思って、それで小径木を買うようになりました。加工しやすい大きさなのと、色のバリエーションが増やせたので良かったです。狙った色はなかなか出ないけど、淡い色はおもちゃに向ているなと思います」

家具メーカーが多い飛騨地域ではこれまで、家具に使えない細くて曲がった材料はほとんどチップに加工されてしまっていました。広葉樹の小径木は山で大きな木を育てる際に伐採されますが、飛騨市で行われている“広葉樹のまちづくり”の取り組みの中で、その小径木の有効活用が考えられるようになったのです。そこから家具づくり以外の木工作家の意見をくみ取るようになり、広葉樹の小径木も出回るようになりました。

木工をきっかけに、自分の暮らしも変わってきたと永堀さんは話します。

「ちっちゃいころは山登りなんかしていなかったんですけど、木工をはじめてから山登りも好きになりました。木のことを知りたいと思って、木の名前を覚えて、樹種の色味を覚えて、生えている木も覚えたいなと思っています。(木工も山登りも)生活の一部になって楽しいですね」

木が大好きな永堀さんは、木のおもちゃの可能性を紬ちゃんを通して観察し続けています。今後も、彼女の成長と歩幅を合わせるように、変わりゆく永堀さんの作品づくりがますます楽しみです。

オンライントークのアーカイブ

「ひなちゃんのマラカス」販売ページ

「にぎにぎつむちゃん」販売ページ

堀部 沙也加 (ほりべ・さやか)
「響 hibi-ki STORE」店長。休みはもっぱらスキー、キャンプ、飲み水は池田山の湧き水という家庭で育ち、大学時代はどっぷり農業に浸かる。自然に関わる仕事を探して響の仕事にたどり着く。車購入後、水を得た魚のように遠出好きに/めざせ土壌医アドバイザー/隙間時間はひたすら漫画