ヒビキツアーズ
# 46
『スパイスdoo?』ってなんだ?
スタッフ座談会 
2025.10.26

ちょっぴりスパイシーな面白い人々と交わる中で、新たな学びや気づきを呼び起こすプログラム「スパイスdoo?」。vol.1となるヒツジ回を終え、運営メンバーを集めて振り返りの座談会を行いました。あのヒツジのスパイスはなんだったのか?

写真:編集部/文:田中 菜月

スパイスカレーを
つくり続けて

スパイスdoo?の運営チームは全部で4人です。響hibi-ki編集部兼出張授業の担当をしている狩野和也さん、自社で運営する遊び場施設「KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE」(KPB)等で運営やコンテンツ開発を担当してきた鈴木可奈さん、遊び場施設の運営兼デザイナーの浅野帆乃香さん、元教員で遊び場施設のコンテンツ開発を担当する田宮麗名さんとともに、ヒツジのスパイスを振り返りました。

●「スパイスdoo?」vol.1レポート
https://hibi-ki.co.jp/hibikitours045/
※企画の経緯はこちらをご覧ください

左から)浅野さん、狩野さん、鈴木さん、田宮さん。
左から)浅野さん、狩野さん、鈴木さん、田宮さん。

― 狩野さんから一緒に企画をしようと声をかけられたとき、他のメンバーは率直にどう感じましたか?

鈴木 今まで社内の横断的な取り組みはあまりなかったので、純粋に「楽しそう!」って思いました。狩野さんはメディアチームでの経験を持っていて、田宮さんは元先生で、浅野さんはデザイナーで、私はイベントの企画をしてきて、それぞれ持っている知識がちがうので、勉強にもなるし、「めっちゃ面白いものができるかも」って感じていました。

狩野 得意領域がバラバラだからこそ、話がまとまりづらい面もありますけどね(笑)。

鈴木 ですね(笑)。そういうところもクリエイティブだなあって思ってました。クオリティを追求する機会をもらえたことも嬉しかったですね。会社から期待されてる実感はあったので、これはチャンスなんじゃないかと思いました。

浅野 あとは、なんかずっとワクワクしてましたよね。

田宮 ワクワクしてました。それと、狩野さんはすごいクールなイメージだったんですけど、ミーティングを重ねる中で、子どもたちに体験させてあげたいって狩野さんが持ってくるテーマがすごい少年感にあふれていて、それこそ妖怪が好きとか。狩野さんってこういう感じの人なんだっていう発見もありました(笑)。目がキラキラしてましたよね。

一同 (頷く)

鈴木 それぐらい他の部署との絡みは少ないですよね。新鮮でした。

― 確かに、一緒に仕事をする機会は珍しいかもしれないですね。この4人が集まって、どういうふうにスパイスdoo?の形ができていったんですか?

狩野 最初は、平日の習い事としてスタートさせようみたいな話がありましたよね。

浅野 毎日ちがう内容で、どの日に参加してもいいみたいな、最強のものをつくろうっていう話もしてました。

狩野 ごちゃごちゃやってたら、社長の杏奈さんから「スパイスカレー(※)やってるね」って言われて(笑)。とりあえず何か一つ体験を形にさせるところからスタートしようっていう話になったんです。

※飛騨五木では、こだわって複雑になっている状態のことを“スパイスカレー”に例えることがある。

鈴木 まずはKPBでやったことのあるコンテンツをベースに考えていきました。羊毛を使った作品づくりもその一つです。羊毛の話をする中で、狩野さんが「KPBにヒツジいたらめっちゃいいじゃん」って言ってくれて。

狩野 そもそもヒツジを呼べるのか調べてみたら、近くにヒツジを飼ってる人がいるらしいことが分かりました。その人にすぐ連絡を取って、会いに行ったら、それが羊飼いの丸岡さんだったんです。丸岡さんの話がめちゃくちゃ面白くて、講座に対しても前向きだったので、そこから本格的に動き始めた感じですね。

丸岡さんの話は全部面白いから、こういう人と出会える場をつくることが大事なんじゃないかと純粋に思いましたし、自分が子どものときに出会えなかった大人を子どもたちに会わせたいっていう一心でした。そういった大人に話を聞きに行くと、むしろ自分が一番楽しんでましたし、大人である自分自身が何も知らないなっていうのを改めて感じました。

左から)狩野さんと丸岡さん。
左から)狩野さんと丸岡さん。

― プログラムとして形を整えていく上で、何が大変でしたか?

鈴木 狩野さんが講師の方としゃべったときの熱量をどういう形でプログラムにすれば一番温度を下げずに、アツアツの状態で届けられるのか。そこのデザインがめちゃめちゃ重要だなと思いましたし、すごい難しいなと思いました。

丸岡さんと話したことを私たちにしゃべってくれた、狩野さんのあの感じを、子どもたちにも提供したいっていう共通認識はありました。ただ、あの熱量を分かりやすい言葉にできないもどかしさもあって。今までビジュアルをつくるデザインしか知らなかったので、「これってなんの仕事だろう?」って考えたときに、「価値をつくる仕事だなあ」と感じました。

― 超クリエイティブですね。

鈴木 狩野さんじゃなきゃ、丸岡さんのあの熱量は引きだせなかったですし、「アツいなあ」と思って、モチベーション高く取り組んできました。

― それぞれが熱量高くやってきた感じなんですね。ところで、「スパイスdoo?」という名前はどうやって決まったんですか?

鈴木 とにかくいろいろな案を出して、それを大きい声で発してみて、一番ピンとくるやつにしようってやってましたよね。田宮さんがひたすら大きい声で叫んでました(笑)。

田宮 「スナックミー」みたいなキャッチーさのある名前というか、合言葉として出てくるものがいいかなって考えて、それで声に出してました(笑)。

狩野 名前の方向性としては、正解にまっすぐたどり着かない、ちょっと時間をかけて素材から向き合う、みたいなことは最初から一貫していました。寄り道とか、曲がり角とか。会議が紛糾して、どうしたもんかなって静まり返っているときに、可奈(鈴木)さんが「スパイスカレーでいいんじゃないですか」って言ってくれたんです。

鈴木 あのとき言われた「スパイスカレーつくってない?」っていう一言から(笑)。

田宮 よく言われるんですよね?それを名前に持ってくるのかあと思いましたけど(笑)、ある種トラウマのようになっている言葉をポジティブに使うのもいいなあと思いました。浅野さんがその言葉を聞いた瞬間に、パパパパパっとデザインをつくり始めたから、「ああ、もう決まりだな」って確信しました。

浅野 最初は「スパイスカレークラブ」って言っていたんですけど、さすがにそれは本当のスパイスカレーをつくるクラブすぎるって(笑)。それで、スパイスに「doo?」をつけて、「どう?やってみない?」っていうのと、「どうする?何したい?」っていう2つの意味を掛け合わせた名前に落ち着きました。

田宮 じっくり煮込むように、じっくり自分の感情を探していこうみたいな話と、スパイス=大人たちっていうのが、考えていくうちに落とし込めていった感じですよね。

スパイスdoo?のロゴ
浅野さんがつくったロゴ。

― なるほど。仕事では非効率とも捉えられる、こだわる時間や複雑な状態、つまり、飛騨五木でいうところの“スパイスカレーをつくる”ことも大切にしたいっていう気持ちを尊重したんですね。

鈴木 そうですね。ヒツジの毛刈りから作品づくりまでを体験するプログラムは、どう考えてもスパイスカレーすぎるとは思いました(笑)。我々は好きだけど、お客さんに響くかどうかをまったく考えていない。というか、お客さんに楽しんでもらえるか分からないけれど、「自分たちが面白いと感じるからやりたい」気持ちが先行していた企画だったので、これはスパイスカレーだろうと思っていました。

でも、狩野さんの「面白い大人に会わせたい」っていう思いは、この企画で絶対にブレない部分だと思ったので、「まさかなあ」と思いつつスパイスカレーを提案してみたら、いけそうな雰囲気だったのでびっくりでした(笑)。

田宮 なんか言いづらそうでしたよね(笑)。「あの、ダメもとで言うんですけど…」みたいな感じで。

狩野 「え、それいいじゃん…!」って空気になって、浅野さんがカタカタカタってデザインをつくり始めてましたよね(笑)。みんながその方向でまとまった感じでした。

尋常ならざる
ヒツジ愛

― ヒツジのプログラムの中身はどのように決めていったんですか?

狩野 講師の方々と話す中で、徐々に形ができあがっていきました。一番難しかったのが、プログラムの着地点です。こちらが指定した作品を仕上げる形にはしたくないと思っていて、自由さを残しつつ、持ち帰れる何かがつくれるようにはしたいと会議の中で話していました。それで最終的に、それぞれがつくりたい作品をつくり、完成してもしなくてもいいという形に落ち着きました。つくる過程に重きを置いた感じですね。

― プログラムの企画から実施まで半年くらいでしたよね。もうちょっと時間がかかると思ってました。

鈴木 ヒツジを梅雨前に毛刈りしないといけないリミットがあったので、大急ぎで準備しました。丸岡さんの対応スピードも早かったですし、狩野さんが丸岡さんに連絡するスピードも早かったですよね。連絡して、次の日ぐらいに会いに行ってませんでした?

そこから堀田さんと明美さんを紹介してもらうのもめちゃくちゃ早くて、まだ形になっていないプロジェクトにここまで共感して動いてくれるんだってことに驚きました。逆に、狩野さんの中で、丸岡さんに対してピンとくるものがあったんですか?

狩野 熱量はひしひしと感じました。尋常ならざる感じというか。やっぱり、愛じゃないですか。ヒツジに対する愛がとんでもなかったのは最初から感じてました。丸岡さんに初めてお会いしたとき、古びた服って言ったら語弊があるかもしれませんが、その着ている服がウールでできていて、しかも丸岡さん自身が飼っているヒツジの毛が使われていて、毎年補修して着てるんだみたいな話を聞いて。

特に印象的だったのは、「衣食住どれが一番大事だと思う?」みたいな問いかけをされたんですね。そんなこと考えたこともなかったんですけど、「ヒツジと人の歴史は深いし、人は衣類を身に纏うことから人生がスタートするから、衣が一番大事なんだよ」って教えていただいて、「この方こそスパイシーな大人だ~!」って思いました。そんな哲学的な言葉って、なかなか出てこないじゃないですか。

鈴木 私もスパイスdoo?のときに一緒に聞いてましたけど、丸岡さんの話はめちゃくちゃいいですよね。もはやあれはテクニックではなくて、思いがあるかどうかなんでしょうね。すごく惹きつけられました。

狩野 嘘をついていない感じがしますよね。最初にプロジェクト全体の説明をして、講師の依頼をしたときに、「じゃあ子ども扱いせずに、対等にお話しする感じでいいんですかね?」ってことを最初に言われて。びっくりしましたね。

一同 (頷く)

鈴木 まさにそういう語り方でしたよね。絶妙ですよね。子どもたちが丸岡さんの話を聞いている姿を見て、第1回目にふさわしい方だなと思いました。大人も聞いてて面白かったですよね。

●丸岡さんのポッドキャスト「羊と繋がるラジオ」
https://open.spotify.com/show/02tJWp3LzwwKDznqDYP9pE?si=9ab2ae0616674b4f

― 実際にプログラムが走り出してみて、運営上で迷いなどは何かありましたか?

鈴木 スパイスdoo?は、ゴール設定をしすぎない自由度の高さが特徴だと思うんですが、私たちは教育の専門家ではないですし、最終的に子どもたちにとって学びになるものが提供できるのかどうかは不安でした。そもそも、いい学びになったと思わせたいというのも大人のエゴなんじゃないかと思う一方で、最後はちゃんと着地しないと、ふんわりしすぎて体験プログラムとしてどうなのかという思いもありました。運営側も正解が分からない中で、内容を決めていくのが難しかったです。

狩野 ヒツジの課題もありましたよね。「国産の羊毛が使われてないから、もっと使いましょう」とか、「国産ウールの服を買いましょう」っていうのは簡単だと思うんですけど、そういう話でプログラムをまとめるのは違うだろうっていう話は会議でも出ました。私たちが一方的に価値観を押し付ける内容にならないように意識していました。

― ヒツジ回の一番最後に、運営スタッフと保護者の方々が輪になって話していたのが印象に残っています。なぜあの時間をつくろうと思ったんですか?

狩野 自分たちが手がけてきたプログラムを保護者の方がどう捉えているかって、アンケートだとある程度取り繕った言葉になるだろうし、直接聞くのとではまた違うんだろうなと思って、ああいった時間を設けました。

今回の講座の感想や、参加した理由を聞かせてもらったんですけど、私たちが長い時間をかけて考えてきたことが、ちゃんと伝わっていて、その上で参加してくれていたことが確認できて純粋に嬉しかったです。今回は5回連続の講座だったんですけど、最後まで全員参加してくれて、「なんで毎回ちゃんと来てくれたんですか?」みたいな話を親御さんとラフにお話しできて、私たちにとってもすごい学びになる時間でした。

浅野 今までイベントを行ったときは、子どもたちに感想を聞くことがほとんどで、よく考えたら親御さんの存在を置き去りにしていたかもしれないと気づかされました。「なんで参加させようと思ったのか」「どうやってスパイスdoo?の情報にたどりついたのか」など、今後の参考になりました。めっちゃ緊張しましたけどね(笑)。

― 保護者の方も生き生きとした表情で話されてましたよね。傍から見ててもいい時間だなと思いました。

狩野 東京に「VIVISTOP NITOBE」っていう自由につくったり試したりできる空間があるんですけど、そこの担当の方にスパイスdoo?の最終回をどう着地させるか相談したんです。そのときに、VIVISTOPさんでは、一方的にイベントをやってワークショップを提供する形ではなくて、一緒にイベントをつくっていく考えを大切にしていて、参加者も提供する側も一緒に学び合う場所としてイベントをつくっているという話を聞いたときに、私たちが今やってることもまさにそうだと思ったんですね。

「ヒツジに出会わせたい」とか言ってますけど、回を重ねるごとに私たちも学ぶことがたくさんありました。最終回で振り返る際も、親御さんと一緒に話しながら、次に生かしていくことができればいいなあと思って、一緒に話す時間をつくりました。初めてのスパイスdoo?は本当に分からないことばかりでしたし、子どもたちにあえて感想を聞いていないので何が楽しかったかも最後まで分からない。だからこそ、最後のあの時間はすごく大事だったのかなって思います。

煮込んだスパイスカレーは
どんな味になってゆく?

― 今後のスパイスdoo?はどうなっていくんでしょう?

狩野 地元の企業さんとも連携していけるといいなと考えています。私たちが知らないだけで面白い事業をしている会社さんはきっとあるはずなので。あとは、自分たちの身の回りにある社会課題を楽しい体験として提供することで、社会課題とされるものが「自分の暮らしとこういうふうにつながっているんだ」みたいに、自分事として捉えられるような機会をスパイスdoo?でつくっていきたいなと考えているところです。

田宮 私自身が子どもを育てていて感じるのは、子どもが何が好きか、何が向いてるかを見つけることは難しい、ということです。自分の経験したことしか子どもに教えられないですし、限られたリソースの中で育てるしかない。でも、スパイスdoo?みたいな取り組みがあると、自分の子どもが「そういう顔するんだ」と感じる瞬間がきっとあって、親御さんが初めて知る機会にもなるし、「あの子は私と違う」って感じられることも親子の関係性において助けになっていくんじゃないかなと感じますし、そうあってほしいなと期待しています。

浅野 ゆくゆくはKPB以外の遊び場でもスパイスdoo?を横展開していくのが長期的な目標です。そのためにも、まずはKPBで安定的に実施できるようにしていきたいですね。KPBのイベントに何かしら参加すれば、他では経験できないことが体験できるし、子どもが思ったこともないような気持ちになれるとか、“何でも屋さん”みたいな存在になれたら嬉しいです。

鈴木 スパイスdoo?を通じて、飛騨五木の遊び場を“スペシャルな遊び場”にしていきたいと思っています。一番イケてる遊び場になったらいいなって。見る角度によっては課題解決になっていて、子育て支援にもなっていて、地域連携にもなっていて。でも、それをわざわざ言わず、カジュアルにポップにデザインされている遊び場にしたいなって考えています。

需要があるから供給していくスタイルじゃなくて、先に供給していきます(笑)。「欲しい人はどうぞ」みたいな感じで。だからこそ、「あれ?反応が良くなかった」みたいなこともあると思うんですよ。それでも、数打って、供給し続けて、需要があるものを伸ばしていくスタイルがいいのかなと思っていて。ニーズとすら気づいていないことを先手先手で見つけていくのがいいかなと。そういうスタンスで行きたいです!

スパイスdoo?のvol.2として行った「分解のスパイス」。古材を使ったリノベーションなどを手がけるハヤマエイスケさんを講師に迎えて、身の回りのモノを分解し、モノの仕組みや物語を探った。
スパイスdoo?のvol.2として行った「分解のスパイス」。古材を使ったリノベーションなどを手がけるハヤマエイスケさんを講師に迎えて、身の回りのモノを分解し、モノの仕組みや物語を探った。

運営側が何より楽しんで企画しているのが「スパイスdoo?」の特徴かもしれません。自分たちが“面白い”と感じたものを、周りの人にもおすそわけしていくことで、誰かの人生にとって心ときめくような瞬間を少しでも増やしていく。いろんなタネを、地域にたくさん蒔いていく。いつか、それぞれのタイミング、思い思いの形で花開くときが訪れることを願って。

さて、次のスパイスdoo?では何に出会えるのでしょうか。


●次回のスパイスdoo?
木とあそぶと、どんな顔になる? – KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。