趣味で木工を始めてみたいという方に、おすすめしたいサークル活動があります。岐阜県の木育施設〈ぎふ木遊館〉で月に1回程開かれている「スプーンクラブ」です。教室とは少し異なるという活動内容が気になり、先日、スプーンクラブに1日密着してきました。今回はその模様をお届けします。参加を検討する際の参考にしてみてください!
歪みがあっても
いいじゃない
ぎふ木遊館では、森や木に親しむさまざまな木育プログラムが毎月開催されています。その中でも、熱中する大人がじわじわ増えているというのが「スプーンクラブ」です。

名前のとおり、スプーンづくりを楽しむプログラムで、10時から17時までの1日でスプーン1本を仕上げます。特徴的なのは、“生木”の丸太や枝の状態から、刃物で削ってつくる点です。今の木工のセオリーからすると、異色の手法とも言えるでしょう。
というのも、本来はきっちりとした寸法に製材された、乾燥済みの木材を使って制作するのが木工の基本なのです。水分をたっぷり含んだ木材は、乾燥していく過程で縮み、曲がったり反ったりしてしまうため、乾かさずに加工すると完成後に歪みなどが出てしまいます。だからこそ、あらかじめ乾燥させた木材を使うのです。
一方で、「木の特性がわかっていれば、曲がってもいいという考え方もあります。歪みもすべて含めていいじゃないっていう捉え方ですね」と話すのは、スプーンクラブの講師であり、一般社団法人グリーンウッドワーク・ラボの代表でもある久保田芳弘さんです。
確かに、工業製品のような正確さを求めず、自分で使うためにつくるのであれば、多少の歪みは気にならないでしょう。それに、かつて日本でも、杓子などの生活道具は生木から削ってつくられていたとされています。そんなに風変わりなやり方というわけでもありません。
山から伐り出してきた木を、乾燥させずにそのままの状態で斧やナイフで削ってつくる「グリーンウッドワーク」を、スプーンクラブでは実践することができます。

実は筆者も森林文化アカデミーの学生時代に、このグリーンウッドワークを初めて体験したことがあります。生木をガシガシ削ったときに木の水分を浴びた感覚が今でも忘れられません。木材や樹木は身の回りにあふれているというのに、木々のみずみずしさを目の当たりにしたのはそれが初めてのことでした。
考えてみれば、生き物なので水分を含んでいるのは当然ですし、理科の授業で道管のことを習ったので、木の中に水が流れているというのは頭では分かっていました。ですが、それを肌で感じたことはなかったので、「本当だったんだ…!」と驚きの印象が強く残りました。
スプーンをつくるのはもちろんですが、“木の中の水を浴びる”という体験も、このスプーンクラブでぜひ味わってみてほしいです。
スプーンクラブ
1日の流れ
スプーンクラブの定員は6~10名程度です。この日の参加者は満員の6名でした。スプーンクラブが始まったころからほぼ毎回参加しているという常連の方や、久しぶりにグリーンウッドワークをやりたいとはるばる京都からやってきた遠征者、2回目だという初心者の方など、参加者の経験の度合いはバラバラです。
なんとなく全員がそろったところで、ゆるやかにスプーンクラブは動き出していきます。
🕙10:00 開始
※時間はだいたいの目安です

この日の材料となるサクラとモミジは、伐採していた人に分けてもらったという久保田さんの話から、木材の雑談が突如始まりました。普段は森林関連の研究をしている参加者がいたこともあり、木材の構造がどうなっているのか、木材トークが花開きます。
そんなこんなで、まずはそれぞれ好きな木を手に取り、斧で割って材料を長方形に整える作業に入っていきます。木工初心者にとっては、「いきなり斧…?!」とびっくりするかもしれません。
大丈夫です。使い方や手順は講師が教えてくれるので、あとは勇気を持って挑戦するだけです。ちなみに、道具類はすべて講師側で用意しているので、ほぼ手ぶらで参加できます。常連の方はというと、自分のペースでどんどん進めていました。


長方形の木片ができたら、型を使って、仕上げのスプーンの形を直接木材に書き込んでいきます。側面もしっかり書きましょう。


スプーンの形が書けたら、仕上がりをイメージしながら、余分な箇所を斧でどんどん削り落としていきます。大雑把に削りたいときは斧を振るイメージで、細かくやりたいときは包丁のように使うといいそうです。


徐々に難易度が上がり、参加者の集中力がぐっと高まっていくのを感じます。皆さん夢中で作業しているものの、斧でザクザク削っていく音で室内はにぎやかです。

🕛12:00 昼休憩
12時あたりで昼休憩に入ります。昼食は各自持参です。この日は皆さんでおしゃべりしながらのランチタイムでした。
🕐13:00 作業再開
昼休憩が終わった人から、ぼちぼち作業再開です。14時前後にはナイフでの仕上げに入れるよう、斧での削りを進め、限界まで厚みを減らしていきます。

🕑14:00 ナイフで仕上げ

ナイフの作業になると、一気に部屋の中が静かになりました。スピーカーから心地よい音楽が流れていることにようやく気づいたほどです。
それぞれ自分の世界に入っているのかと思いきや、突然雑談が始まりました。人の好きな食べ物を聞くのが好きだという久保田さん。それぞれの好物について語り合いながら、ナイフの作業を進めていきます。ちなみに、久保田さんは冷たいトマトパスタが好きなんだそうです。


ナイフで角をとり、表面をなめらかにし、さじ面も彫っていくことで、ぐっとスプーンの完成形に近づいていきます。スプーンクラブでは7時間かけてスプーン1本を制作しますが、慣れてくると1~2時間でつくれるようになるそうです。
🕔17:00 終わり
終了の10分ほど前に片付けの時間となり、それぞれ作業を切り上げます。時間内に完成した方もいれば、まだもう少し時間が必要かなという方もいました。仕上げきれなかった人は自宅で続きを楽しみます。
最後に、次回の開催日について確認があり、その場で次回の申し込みをしている方もいました。スプーンクラブが毎月の楽しみになっているのでしょう。
●スプーンクラブの活動予定
https://mokuyukan.pref.gifu.lg.jp/event/
意味を求めず
生きるということ
スプーンクラブを主宰する久保田さんは普段、父の堅(つよし)さんとともに<久保田家具工房>を養老町で営んでいます。“ペザントアート”と呼ばれる農民家具をつくり続けてきた父の影響を受け、久保田さんも20年以上木工に携わってきました。


20歳から木工の仕事を始めたものの、20代はあまりやる気がなく、「休みたいばっかりだった」「やりたいことがなくてぼんやり過ごしていた」と当時を振り返ります。変化が起きたのは30代に入ってからでした。休めないくらいに仕事にのめり込むようになります。20代のときにあまり仕事をしてこなかった反動かもしれないと久保田さんは言います。
「僕は意味を求めて生きていないので、深く考えて木工の世界に入ったわけではないんですよ。ただ、仕事として木工をやり続けるなら、やることに意味は必要かなとも思ったので、自分なりに考えて、それで見つけたのがグリーンウッドワークでした。父親がやらなかったジャンルですし」
2020年、岐阜県立森林文化アカデミーで開催された「グリーンウッドワーク指導者養成講座」に参加。
その前から、個人的に山の木を使って生木で器をつくっていましたが、仕事の幅を広げようと講座に参加したのでした。現在は一般社団法人グリーンウッドワーク・ラボの代表も務め、グリーンウッドワークを広める活動も行っています。その一つが、ぎふ木遊館のスプーンクラブなのです。
「『何をやってるかよくわからないけど、なんかあいつら面白そうだし楽しそう』みたいな空気感をグリーンウッドワークで出せればいいかなと思ってます。そこから自然と人が集まって、勝手に広まっていくんじゃないかな」
意味を求めず、なんとなく面白そうだからグリーンウッドワークをやってみる。理由はわからないけど、ひたすら木を削りたいからスプーンをつくる。
そんな日があってもいいのかもしれません。それを受け止めてくれるのがスプーンクラブです。
●Information
ぎふ木遊館
〒502-8503 岐阜市学園町2-33
TEL:058-215-1515
開館時間:10:00~11:30/13:00~14:30/15:00~16:30
※事前予約制。16時以降の入館はできません
休館日:水曜日
入場料:300円(高校生以下は無料)
https://mokuyukan.pref.gifu.lg.jp/
一般社団法人グリーンウッドワーク・ラボ
岐阜県養老郡養老町岩道470-34
MAIL:contact@gwwlab.com
https://gwwlab.com/
久保田家具工房
〒503-1321 岐阜県養老郡養老町岩道336-1
TEL:0584-34-0745
https://www.kubota-kagu.jp/
https://www.instagram.com/yoshihiro.ku/
