森や木に関わる仕事に関心のある人と、飛騨地域の事業者をつなぐ「森のバトン」。今回で3回目を迎えた同イベントの体験レポートをお届けします。
この先もバトンを
つないでいくために
「森のバトン」(主催:高山市)は岐阜県高山市内の林業や製材、建築、家具制作など、木のものづくりの現場をめぐる一泊二日のインターンシップ見学ツアーです。今年は5月1日(木)・2日(金)に開催されました。実際に現場で働く方の声を直接聞くことができ、ものづくりの現場の空気を肌で感じられるだけでなく、希望者は後日インターンシップとして仕事体験もできる内容となっています。
<今回の訪問先>
・奥飛騨開発(林業)
・木と暮らしの制作所(家具)
・カネモク(製材)
・木馬舎(家具)
・飛騨産業(家具)
・井上工務店(建築)
・コンパス(設計)
森のバトンを企画運営するのは、高山市で地域産材広葉樹の家具制作をする「株式会社木と暮らしの制作所」の松原さんと、飛騨地域で広葉樹の森の活用や価値循環に挑む「株式会社飛騨の森でクマは踊る」の井上さんです。

「自分たちが10年後も変わらず飛騨の木を使い家具を作っていられるだろうか」という当事者の切実な思いから始まった取り組みであることを知り、勝手にバトンを受け取った筆者は響hibi-kiでも取材できないかとツアーに同行させてもらったのでした。
今回のツアー参加者は東海・北陸・関東エリアから集った学生を中心に、「森と関わる仕事にはどのようなものがあるのか知りたい」「川上から川下の一連の流れについて理解を深めたい」など“木材流通”に関心を持つ方が参加されていました。
さて、ここからは流れに沿って当日の様子を振り返っていきます。
“広葉樹”の木材流通を
体感する1日目
🕐13:00 高山駅集合
まずは、マイクロバスに乗り合わせて最初の見学先に向かいます。市街地からぐんぐんと山に近づき、20分ほどで山の中に入ったかと思うと、バスは細い山道をかけ上がり、美しい渓流が脇を流れる地点へとたどり着きました。バスを降りて見学場所まで歩いていきます。
🕜13:30 奥飛騨開発(林業)

最初に訪れたのは、奥飛騨開発の伐採跡地です。山の中の切り拓かれた空間を目にすると、その場所で伐採された木々がどこかで家具や建物になっているのだろうかとイメージが湧いてきます。足元に目を向けると、落ちた種から芽生えた稚樹もたくさん観察することができました。こうした稚樹が徐々に成長していくことで、数十年、数百年後には鬱蒼とした森林になっているのでしょうか。そんなことを想像します。

跡地の前後の道中では、「この木、なんの木?」と樹木観察も楽しみました。例えば、ウルシ。この木の樹液が木工品の塗装に使われてきた歴史や、国産漆の生産はごくわずかになっている現状など、実際に生えている木々と暮らしや文化とのつながりを知る時間となりました。

伐採跡地からさらに移動して、奥飛騨開発の代表・柏木博行さんに同社の土場を案内してもらいました。一般的な林業というと、スギやヒノキなどの針葉樹をメインに扱いますが、同社が取り扱うのは広葉樹。飛騨地域に限らず、全国的にも貴重なその取り組みについて、山での広葉樹の伐採から用途ごとの売り先の違いなど、広葉樹林業の実際について教えていただきました。

🕒15:00 木と暮らしの制作所(家具)

続いて、奥飛騨開発と同じ敷地内にある木と暮らしの制作所では、木材倉庫やショールームを見学しました。案内してくれたのは代表の阿部貢三さんです。地元の広葉樹を使っていること、実は業界ではそれが当たり前ではないこと、家具として活用することで素材の価値が上がること、市場価値のない木材でも使い方の工夫やデザイン性を加えることで価値を生み出せることなどなど、家具制作の視点から日本の広葉樹の現状について話を聞かせてもらいました。


🕓16:00 カネモク(製材)

こちらでは広葉樹の製材・乾燥を見学しました。木材市場などで丸太を仕入れて、製材・乾燥させ、板材を木工房などに納品するまでの流れを教わります。買い手は家具工房や木工作家さんなどさまざまだそうですが、それぞれに合った素材に出会えるようにと板ごとに販売しているといったお話しを伺い、森本さんの木への愛を感じたのでした。


🕠17:30 ふりかえり・レクチャー

1日目のふりかえりとして、株式会社やまかわ製材舎の代表・及川幹さんから木材流通の全体について教わります。広葉樹と針葉樹それぞれの木材流通の違い、広葉樹材の流通の課題、そしてこの先の木材の可能性についてじっくりと話を聞きました。人や立場によって森林や木材の見え方が変わること、正解が一つではないことが許容されるのが森林産業なのだといった話は響hibi-kiとしても共鳴する点があり、取材を忘れて聞き入ってしまいました。

🕡18:30 交流会

1日目の締めくくりは交流会です。ツアー中は解説を聞いたり、移動でバタついたりしていたので、交流会は参加者同士でじっくり話せる貴重な時間だったように思います。お互いのバックボーンについて話し合ったり、これからどうしていきたいか、熱い話を語り合ういい時間でした。

家具と建築の
違いにふれる2日目
🕣08:30 木馬舎(家具)

2日目のトップバッターは木馬舎の代表で、デザイナーの駒屋将さんです。ライン生産ではなく、チーム制で家具をつくっている同社の特徴を、実際の現場を見ながら解説していただきました。職人として生きたい人たちを受け止めていける会社にしていきたいこと、インテリアは自分の文化が形として表れるものだからこそ、自分の好きなものをコラージュして楽しんでほしいといった話は、ツアーに参加してこそ聞ける内容です。会社によって家具づくりに対する考え方や取り組み方は千差万別なんだろうなと感じました。


🕤09:30 飛騨産業(家具)

続いて、飛騨地域最大の家具メーカーである飛騨産業を訪ねました。巨大な工場の中に入り、家具が完成するまでの工程を順を追って丁寧に案内してもらいました。製造工程がシステム化されている一方で、家具づくりに関する技能士の資格保有者が多くいるなど、手仕事としての技術の研鑽にも力を入れているようです。今後はさらに国産材の活用を進めていくことなど、これからの展開についてもお話しを聞かせてもらいました。
🕥10:45 井上工務店(建築)

今回は響hibi-kiのグループ会社である井上工務店も見学先の一つとして参加しています。当日は現場監督の井上涼太さんからグループ全体の取り組みを聞いたあと、工場内を見学し、山林での伐採から製材、建築まで一貫して地域の木材を活用していることを話してもらいました。端材は木質バイオマスボイラーの燃料に使うなど、1本の木を無駄なく使い切る取り組みを垣間見てもらえたのかなと思います。
🕦11:45 コンパス(設計)

最後に、株式会社コンパスの代表で一級建築士である浅野翼さんが空間デザインを担ったホテル「東急ステイ 飛騨高山 結の湯」を訪れ、各階じっくり解説してもらいながら見学。浅野さんたちがフィールドワークを通じて集めた地元の工芸にふれられるギャラリーは圧巻でした。旅に来た人により深く飛騨を体験して家に帰ってもらえたらという思いから、各階にギャラリーをつくることになったのだそうです。ツアーで見てきた木のものづくり以外にも、多彩な地域文化が飛騨にあることを知ることができました。


🕧12:45 ふりかえり・相談会
見学後は、市役所でふりかえりとインターンに関する相談会を行ってツアーは終了です。
ふりかえりで参加者の感想を聞いていると「地元でどんな木が使われてきたのかもっと知りたいし、木工するときに産地や樹種など意味を持たせて木材を選びたい」「自分が生まれ育った場所とは全然環境が違って、地域による産業の違いを感じた。高山に住んでみたいと思った」など、それぞれに気付きや今後のヒントを得られているようでした。
その反面で、ますます謎が深まった人もきっといるでしょう。もちろん一泊二日だけですべては分かりません。むしろ新たな問いが生まれてくるのが、森林や木材の世界の奥深さを物語っていると思いますし、それこそが面白いのだと私は思います。参加した方々も、それぞれの疑問や違和感を深掘りしていってほしいなと願うばかりです。
🕜13:30 森のバトン終了


さて、次の森のバトンは何が体験できるのでしょうか。きっと今年よりもパワーアップした内容になっていることでしょう。来年開催される際は響hibi-kiのSNSでもお知らせしますので、参加してみたい!と言う方はチェックしておいてくださいね!
●Information
株式会社木と暮らしの制作所
〒509-4119 岐阜県高山市国府町広瀬町500番地
0577-77-9773
https://kitokurashi.com/
株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)
〒509-4235 岐阜県飛騨市古川町弐之町6-17
0577-57-7686
https://hidakuma.com/
