絵本は自然や森の入り口になる──。そんなことを実感したのは、岐阜県の木育施設〈ぎふ木遊館〉で毎月開催されている「絵本ひろば」に参加したことがきっかけでした。そこでは、子どもたちだけでなく大人も夢中になって絵本に親しんでいます。今回は絵本ひろばの様子と、講師・柴山佳江さんのインタビューをお届けします。
絵本を通じて
季節の移ろいを楽しむ
ぎふ木遊館で月に一度開催されている「絵本ひろば」は、毎回満員になるほどの人気イベントです。今年の春からは、日本の繊細な季節の変化を表現する“七十二候”に合わせて、毎回約200冊の絵本が並びます。

絵本ひろばでは、毎月のおすすめ絵本の読み聞かせ、昔話の紙芝居、季節のおりがみ遊び、紙人形によるパネルシアターなど、約30分にわたって絵本の世界を楽しみます。お話し会の前後には、ひろばに置かれた絵本を自由に読んだり、柴山さんに絵本の相談をしたりと、思い思いに過ごすことができます。

一見すると子ども向けのイベントに思えるかもしれませんが、柴山さんは親御さんにこそ楽しんでもらうことを目的にしていると言います。どういうことでしょうか?
「お母さんが楽しければ、おうちでも自然と絵本の読み聞かせをするようになります。お母さんが笑ったり楽しんだりしていれば、子どもにも『絵本って楽しいものなんだ』と自然に伝わるんです」
何を読むかよりも、保護者が絵本を読む“行為”そのものが大切なのだと話します。忙しい中でも、お母さんお父さんが自分のために絵本を読んでくれるという時間こそが、子どもにとってはかけがえのない宝物なのです。
「生後半年くらいのお子さんがいるお母さんから、『絵本を読んでみても、子どもが絵本を見ないんです』ってさっき相談を受けたんですね。0歳さんなら絵本を理解させようだとか、興味を持たないことを心配したりしなくていいの。赤ちゃんはお母さんが読んでくれる声とか、楽しそうにしてる姿を一緒に楽しんでるわけだから、何読んだっていいのよ。お母さんが楽しくなる本を読んであげることが大事」

“絵本は楽しい”という感覚を何よりも大切にしてほしいからこそ、絵本ひろばのお話し会では、「泣いている子も、寝ている子も、歩き回っている子がいてもいいよ」というスタンスで運営しています。この居心地の良さが人気につながっているのかもしれません。
「嫌になったり飽きたら別のひろばに行ってもいいんですよ(笑)。また聞きたくなったら戻ってこればいいし。そこでがんじがらめにすると絵本って面白くないものってなるから。絵本って楽しいなって感じてくれれば自然に絵本が好きになると思う。だから、じっと行儀よく聞いていなきゃいけないとか思わなくていいんです」
おもちゃと同じように
絵本で遊んでほしい
ひろばに並べられた絵本を手に取って読んでみると、短い言葉の中から深いメッセージを勝手に受け取って、励まされたような気持ちになってきました。
「大人が絵本を“深い”と感じるのは、人生経験があるからなんですよ。絵本は、読む年齢やその時の気持ちによって、感じ方がまったく変わるんです」

たとえ文字が読めなくても、絵を見るだけでも楽しめるのが絵本の魅力の一つでしょう。絵を見て、それ以上の物語を自分でイマジネーションする。そういった経験があると、きっと想像力豊かな大人になっていくのかもしれません。
ただ、「絵本は読書だとか、教育的効果があるとか考えなくていいんですよ。おもちゃと一緒です。親子をつなぐコミュニケーションツール。だから、絵本はおもちゃと同じ遊び方でいい」と柴山さんは念を押します。
「たまに、『子どもが絵本を読んでも同じところばっかり読むんですよ。いちごのところしか見なくて~』っていうような相談があるんですね。でも、それって当たり前だと思うんです。『うちの子、いちごが好きなんや』っていう子どもの趣味嗜好を知るチャンスだと思えばいい。たとえば、自分が好きなアーティストのアルバムを買って、その中にお気に入りの曲が1つはあるでしょ?その曲が9曲目だとして、毎回1曲目から聴いてる?飛ばして好きな曲ばっかり何回も聴いてるでしょ。それと同じことですよね」
なるほど。これが絵本のコミュニケーションツールたる所以かと納得させられます。絵本は読み手だけでなく、読み手の反応を見つめる人の視点も重要なんだと気付かされました。
怖い先生の大泣き
柴山さんの自宅には、1000冊以上の絵本があると言います。本人曰く、「ヴィレッジヴァンガードみたいにそこら中に本が置いてある」のだそうです。絵本ひろばでは柴山さんの蔵書と、図書館の本からセレクトされています。
実は柴山さん、かつて図書館の司書として働いていた経験があります。本に囲まれてきた人生といっても過言ではないでしょう。「絵本が好き」という柴山さんに、そのきっかけを与えたのは小学校5年生のときの担任の先生でした。

「すごく厳しくて怖い年配の男の先生だったんですけど、何かクラスでいいことがあると帰りの会で絵本を読んでくれたんです。あるとき『三コ』っていう絵本を読んでくれて、その恐ろしい先生が読みながらわんわん泣き出したんですよ。『こんな人を泣かすなんて、絵本ってすごい…!』って思いました。あのときのビジュアルが強烈で、今でも覚えてます。絵本に感動したっていうか、泣いてる先生に感動しましたね」
柴山さんが絵本の読み聞かせの活動を始めたのは10年以上前のこと。PTAの役員をしていたときに、教頭先生から頼まれたことが始まりでした。多忙な先生に代わって、自身の子どもの学校で絵本の読み聞かせを行うようになり、そのためのチームもつくります。すると、別の学校からも依頼されるようになり、活動の幅が広がっていったのでした。
現在は、ぎふ木遊館で木育体験をサポートするスタッフとして働きながら、館内で絵本ひろばを開いたり、同館以外の場所でも読み聞かせの活動を続けています。セレクトする絵本は、時期や場所によって毎回様変わりします。森林や木に親しみを感じてほしいと、さまざまな木育体験を展開しているぎふ木遊館では、特に自然を題材にした絵本が多く並びます。

「絵本で見た生きものや植物を実際に見に行ってほしいですね。だから、絵本ひろばでは季節に沿った絵本を持ってくるようにしてるんです。散歩しているときに『あ、こないだ絵本で見たやつじゃん!』ってなると、絵本の内容が現実とリンクするんですよね。その逆のパターンもいいですよ。日常でちょうちょが飛んでるのを見かけたあとに、絵本で蝶のことを読んで『今ってちょうちょの時期なんだ』って学べたりするわけです」
かく言う柴山さんも、絵本が入口となって自然や森の世界に興味を持ち始めました。絵本で読み知ったものを、実際に確かめに行きたくなるのだと言います。
「福音館が毎月発行している『かがくのとも』はおすすめですよ。子ども向けなんだけど、私の頭にはちょうどいい情報量。桜ってこういうふうに咲くんだとか、こういう順番で咲くんやとか。それで自然を好きになりましたね」

ぎふ木育の普及を担う“ぎふ木育指導員”(※)の認定を受ける際には、「私は絵本で木育を広めます!」と宣言したという柴山さん。絵本の力で木育への入り口のハードルを下げたいという思いがありました。
※ぎふ木育指導員の認定について – 岐阜県公式ホームページ(森林活用推進課)
「木育とか言っちゃうと難しいじゃない。食育はとっつきやすいけど、『木育って言われても何か分からない』ってよく言われるし。だけど、今座ってる床は木材でできてるよね。ちょっと外を歩けば庭木がいくらでもある。木育だって身近に題材はたくさんあるんですよ。昆虫だって題材になるし、山川海、全部つながってるわけだから、どれを扱っても木育になります。絵本には木育の題材がたくさんあるから、自然に目を向けるきっかけを絵本でつくろうって。絵本を読んだあと、外で実物に出会ったときの感動ってすごいと思うよ。そういう体験をしてもらいたいですね」
ぎふ木遊館の絵本ひろばは、入館の予約と入館料のみで、誰でも自由に参加できます。ひたすら絵本を読むのもよし。読み聞かせだけ楽しむのもよし。何より、柴山さんと話すだけでも心がほぐれるようなひとときを過ごせると思います。
来月の絵本ひろばは、5月12日(月)の10:00~11:30もしくは13:00~14:30の開催です。ちょっとでも興味が出てきた方はぜひ、ぎふ木遊館に集合でよろしくお願いします!
●Information
ぎふ木遊館
〒502-8503 岐阜市学園町2-33
TEL:058-215-1515
開館時間:10:00~11:30/13:00~14:30/15:00~16:30
※事前予約制。16時以降の入館はできません
休館日:水曜日
入場料:300円(高校生以下は無料)
HP:https://mokuyukan.pref.gifu.lg.jp/
