木の床は柔らかくて温かみを感じる、木の空間にいると安らいで心地よい、といったことは多くの方が当たり前のように実感していることでしょう。そんな木のチカラは、科学的にはどこまで解明されているものなのでしょうか?子ども部屋、リビング/ダイニング、寝室の3つのシーンを見据えて、子どもも大人も健やかにしてくれる木のチカラについて調べてみました。
子どもが健やかに育つ
木に囲まれた家は子どもたちにとってより快適に過ごせる空間だと言えます。以下の3つの項目をもとに、その理由を見ていきましょう。
①集中しやすい
上のグラフは、3~5歳児の保育室を対象に、木の部屋と木のない部屋を比較したアンケート調査の結果です。木の部屋の方が子どもたちの「イライラ」や「気が散る」などの集中力の低下、「頭痛」や「不快感」などの症状が見られにくいという結果が出ています。
この調査では、木質化された部屋で子どもたちが寝転がったり、床に座ったりすることが多いという報告が保育者から多く挙げられていたのも特徴的です。理由として考えられるのが、木は冷たさを感じにくいという点です。空気の層が内部にある木は熱を通しにくいため、触れたときに身体の熱が奪われにくくなります。特に無垢の木のフローリングであれば、冷やっと感じることが少なく、身体的なストレスにつながることもありません。この心地よさが子どもたちの集中力と関係していると考えられます。
子どもたちが集中して遊んでいてくれれば、大人にとっては食事の準備や洗濯などの家事に集中して取り組めることにつながります。
② 転んでケガをしにくい
好奇心旺盛な子どもは活発に動く一方で、大人からすれば転んでケガをしないか心配な面もあるでしょう。そこで重要になるのが床です。
中学校の体育館の床を対象に、生徒のケガの発生率と床のかたさの関係を調べた研究では、床に適度なかたさがあればケガが起こりにくいことがわかっています。つまり、柔らかすぎず、かたすぎない床が好ましいということです。
木材は細胞の塊です。そのため、木材の内部は空気を含んだ穴だらけの構造になっています。この構造が衝撃を受け止めるクッションの役割をしてくれるため、転倒などのケガに対して安全性が高いと言われています。家事などで目を離しているあいだに子どもたちが家の中を走り回っていたとしても、転んでケガをする心配が少ないと分かっていれば、安心して過ごすことができます。
その反面、衝撃を受け止めたときに木材は傷がつきやすいと心配されることもありますが、濡れたタオルとアイロンを使って凹みを少し戻すことができますし、やすりがけしてオイルを塗るなどの簡易的なメンテナンスで長く使い続けることができます。そうした手入れの積み重ねによって、木材そのものも味わい深い色味やツヤに変化していきます。
③ 風邪を引きにくい
風邪の予防法はさまざまですが、木の空間と風邪の予防につながりがあることはご存知でしょうか?
ヒノキの精油が香る部屋で被験者が3日間過ごした実験では、滞在後にナチュラルキラー細胞(免疫細胞)が活性化した可能性が示されました。ヒノキの精油には免疫力を高め、風邪などの予防効果があるとされています。
また、老人ホームでの調査によると、木材を多く使っている施設ではインフルエンザにかかる入居者が少ないという結果も出ています。こうした結果からも、木の空間で過ごすだけでも木のチカラによって家族みんなの免疫力を高め、健やかに過ごすことができることが分かります。
過ごしやすさのワケ
リビングやダイニングにおける過ごし方は人によってさまざまです。そんな空間だからこそ活きる木のチカラがあります。それぞれの項目を順に詳しく見てみましょう。
① リラックス効果
木のリラックス効果に関する研究では、木の香りがストレスを抑制していることがわかりつつあるようです。
大学生16名を対象に、スギの内装材がある部屋とない部屋で30分の計算問題に答えてもらい、ストレスを受けると数値が高くなる唾液中のアミラーゼを計測したところ、スギの内装材がない部屋では上昇したのに対し、スギ内装材がある部屋では低下傾向にあることが分かりました。このことから、スギをはじめとする木材の香りがストレスを軽減させ、リラックス効果をもたらすと考えられています。
仕事などで疲れて帰宅したとしても、木の空間であれば森林浴をしているかのようにリラックスでき、疲れも癒されるでしょう。
② 作業効率アップ
木の空間はもちろんですが、木の家具があるだけでも作業効率を高める効果があることがわかっています。
あるオフィスを対象に、木のテーブル板とプラスチック製のテーブル板のそれぞれでアイデアを出す実験を行ったところ、上のグラフのとおり、木のテーブル板を使用したときの方がアイデアの回答数が多かったという結果が出ています。
在宅勤務をしている場合は家でも集中して仕事に取り組めたり、リビングやダイニングで勉強をする場合は効率的に学習を進めたりすることができるでしょう。
③ 消臭
消臭についてもさまざまな研究が進められています。悪臭成分であるアンモニアに木材をさらした試験では、アンモニアの濃度が急激に低下することが示されました。これはつまり、木自体が消臭剤の役割を果たしてくれるということです。食べ物の香りが残りやすいダイニングやキッチンでも、木の空間であれば比較的早い消臭が期待できそうです。
木の家はよく眠れる?
巷にあふれる健康法は、身体を動かしたり、食事の内容を改善したりと生活習慣に働きかける方法が多くあります。ですが、私たちが普段暮らしている建物や空間も、健康と密接に関わっているものです。中でも睡眠と関係する「寝室」は重要な場所と言えます。木と睡眠に関連するデータを以下で見ていきましょう。
①睡眠の質アップ
上のグラフは、部屋に使われている木の割合が0%・45%・100%のそれぞれの部屋において、被験者の睡眠状態の違いを比べた実験結果です。「深睡眠」は深い眠りと言われる「ノンレム睡眠」4段階のうち3〜4の段階を指しています。グラフから分かるとおり、木がない部屋よりも木がある部屋のほうが深睡眠時間が長くなっています。
② 快適な湿度
「木材は生きている(呼吸している)」と聞いたことはあるでしょうか。これは空間内の湿度を調節する木材の働きを指しているのですが、この働きに関する研究データも出てきています。
内装が木の部屋とビニルクロスの部屋による睡眠時の湿度を比べた実験では、木の部屋の方が湿度変化が少ないことが分かりました。人が寝ているときは呼吸や発汗で部屋の湿度が上がりますが、木材の吸湿作用によって湿度を安定的に保つことができます。
寝室の場合は布団に水分がこもりやすいですが、調湿作用のある木の空間であればカビの発生などを抑えることができます。さらりとした布団で快適に眠ることができるでしょう。
③ダニを防ぐ!
このグラフは、集合住宅のリビングを畳・カーペットから木の床に改装後、ダニの数がどれだけ変化したかを示しています。どの月も改装後はダニの数が半分近く減少したという研究結果が得られました。この理由として、木の香りがダニの行動を抑制したと森林総合研究所により報告されています。
木そのものにダニを防ぐ効果があれば、布団のダニ対策にもつながります。ダニによるアレルギーなどの心配も少なくなり、より快適に眠ることができるようになります。
さまざまな研究データを見てきましたが、木材には多様な特性があることが分かったでしょうか。過酷な自然環境の中を生き抜く樹木は、それゆえ複雑な構造を持っています。複雑なつくりだからこそ、多彩な性質を持った素材になります。これは工業製品にはない特徴であり、私たちが木材に温かみや心地よさを感じるもとになっています。