ヒビキツアーズ
# 9
高知県仁淀川町
林業体験ツアーレポvol.3
2020.11.27

家にいてもどこで何をしていても情報が集められ、人と会話することができる現在。その一方で、自ら足を運ぶことでしか得られない情報があります。この連載では、hibi-ki編集部が実際に参加した森や地域の体験ツアーレポートやイベントの開催情報をお届けします。初回は、編集部が高知県仁淀川町(によどがわ)の森に集合してきました。vol.3は参加者インタビューを中心にレポートします。

●vol.1の記事はこちら
https://hibi-ki.co.jp/hibikitours006/
●vol.2の記事はこちら
https://hibi-ki.co.jp/hibikitours007/

写真:敷地 沙織/文:高岸 昌平

天気すら分からない仕事は嫌
四十路からのチャレンジ

仁淀川町林業視察・体験ツアーの参加者から2名をピックアップして、ツアーに参加するまでの経緯や感想を伺いました。それぞれ違う背景を持った皆さんが、高知県の山奥へやって来たのはなぜなのでしょうか。

今泉悠二さん(40)。神奈川県より参加。

—— なぜ、このツアーに参加したんですか?

森の仕事ガイダンス(※)で奥田さん(ツアーの担当者)に声をかけられたのがきっかけです。なんだこのおっちゃんはと思って(笑)。仁淀川町って全然知らなかったけど、調べてみたら良さそうだなと思って参加しました。

※森林の仕事ガイダンスとは、林野庁主催の林業に就業するための説明会
https://www.ringyou.net/guidance_nationwide/

—— そもそも林業に気持ちが向き始めたのはなぜですか?

前の仕事では自動車のソフトウェア開発を18年間やっていました。自分が好きでやっていたんだけど、だんだん仕事に疲れてきたことと、違う仕事をやりたいなと思ったんです。

趣味で自然の中に入るのが好きです。登山したり、バードウォッチングに行ったり。あとは公園の中で木を見て、鳥が飛んでいるのを見るのがすごく好きで、そんな環境の中で仕事ができたらいいなと思いました。

前職の時はオフィスの中に一日中いるので、その日が雨だったのか晴れだったのか、寒かったのか暑かったのか、分からないような感じでしたね。それは嫌だなと思って。もっと自然の空気を吸える中で仕事したいなと思って、じゃあそれってどんな仕事なんだろうと考えたんですよね。

それこそ登山ガイドとかね。農家は自分の思う自然とは違うんですよ。庭師も悪くないんだけどどこか違うなとも思いました。

—— 自然と関わるという軸で仕事を模索した中で林業を見つけたんですか?

きつそうだなと思ったけど、(仁淀川町は)研修制度を設けているところとか、体験ツアーを色々頑張っているところがいいですよね。自分は40歳なんでそんな未経験者を受け入れてくれる業界ってそうそうないんですよ。そういった部分もあって、自分が林業やっても受け入れてもらえるんだったら、チャレンジしてみたいなと思って活動しています。

—— 現在のお住まいは、神奈川県でしたよね。

神奈川県の郊外です。電車も通っているし、ちょっと行けば山もあって林業もやっている。就職するなら地元の周辺で林業できればというのが一つの本音です。でもやっぱりこういうところに来るとね、田舎はいいなと思いますよね~(笑)。人もあったかいし、伝統文化が残っているし。生まれ育った神奈川は便利なんだけど、その反面田舎ならではの面白みがない。思い切って田舎に来るのもいいなと思いますよ。ハードルが高いので簡単ではないですが……。

—— 仕事も退職されていると聞きました。

去年(2019年)の末に仕事を辞めました。仕事辞めないといろいろ見えないなと思って。なかなかね、毎日忙しいと周りのものが見えない。ましてこんなところに来て、現場見るとかできないし。終わってから考えればいいやと思って辞めました。

林業自体は、林業終業支援講習(※)を受けたので何となくはわかっていましたね。今回は仁淀川町って単純にどんなところなのかなと思って見に来ました。見ず知らずの人を温かく受け入れてくれるところってどんな場所なんだろうと思って。来てみたらとても良いところでした。今後はまだわからないけど、地元を中心に林業の道を探っていく予定です。

※林業就業支援講習とは、チェーンソーや刈払機の講習などが受けられる厚生労働省主催の講習会。期間は1日間、5日間、20日間の3形態から選べる。

もっとやりたいです!
“自然が好き”を貫いて見つけた林業

正城理子さん(21)。奈良県より参加。

—— 今日が2日目、メインの日でした。どうでしたか?

現場を見て、機械とか操作して、もっとやりたいなという思いが湧きました。林業をやりたいという気持ちが増しました。

—— チェーンソーと大型機械の作業、どちらがいいとかありますか?

林業自体への興味が増しましたね。やれるならどちらもやってみたいです!

—— 出身は兵庫県ですよね。

そうです。兵庫の真ん中くらいのところで、田舎の中の田舎みたいなところです。大学の4年間はずっと奈良にいました。田舎に久しぶりに来たから懐かしいなと感じました。山と川に囲まれていて自分の田舎にそっくりや!っていう感じです(笑)。

—— 林業をやりたいと思ったきっかけは何かあったんですか?

小さいときに、将来やりたいことを考えたことがあって。それで、漠然と歴史と自然に携わりたいなーと思っていたんです。大学は歴史を学びたいと思って進学しましたが、いざ就活となった時に、歴史って活かせないんですよね。せめて、考古学を専攻していたら発掘の仕事や学芸員の仕事がありますけど、民俗学では仕事がない。

だから、何がやりたいかなというふうに考え直して。やっぱり自然が好きやなって思いました。それで、どんな仕事があるんかなと思って探していたときに、このツアーのガイダンスがあって話を聞きました。それで行ってみようと今回参加しました。

—— 新卒で林業ということですが、同期や周りの方の反応はどうでしたか?

びっくりしてました(笑)。先生に今後の進路を聞かれたときが一番驚かれましたね。親は「え!木こりやるん?」って言ってました(笑)。

父も母も教会に勤めていて、親は「教会で仕事するんやで」って言われていたみたいです。そのせいで自分のやりたいことがやれなかったということがあって、自分の子どもにはやりたいことをやってほしいと言ってくれました。だからすんなりいきましたよ。でも、両親は安全面を心配しているようで、心から賛成してもらえるようにがんばりたいと思います。

—— 今後は仁淀川町で林業研修を受けるそうですね。抱負を聞かせてください。

林業は厳しい仕事だと思うんです。だから思うようにいかないことも多いと思います。でも、諦めずに女性であることを長所にできるように技術を身につけて、自分の一生の仕事にできるようにしたいです。

同じ釜の飯を食い
つながる関係

高知での2泊3日のツアーも終わり、最後に記憶として残ったことは参加者同士での交流でした。普段生活していても、森林や林業について熱く自由に話せる場所は限定されます。移住や転職について自分の考えや経緯を話すこともありません。このツアーでは背景のまったく異なる15名が集まりましたが、そうしたよく知らない人同士だから話せることがあります。

お風呂に入ったり、朝に散歩したり、滝を見つけたり、山で迷う人がいたり、皆で仁淀川町の時間を過ごすことで生まれる、ゆるやかな連帯感のようなものがありました。それぞれが自然や林業、森林に関心を持って集まっているから共感できるし、楽しいひとときを共有できます。薪ストーブの火が消えるまで話す夜もありました。

2日目の夜は、町の林業関係者の方も交えた交流会が開かれました。実際に移住している先輩から生活の様子や仕事の具合を聞いたり、林業家の方々から林業・森のことを教えてもらったり、貴重な時間でした。参加者や町の人それぞれに“迷い”と“選択”と“現在”があるリアルな話は、こうしたツアーに参加してこそ得られる情報なのだと思います。今回のツアー後には仁淀川町で林業研修制度を受ける決断をした参加者もいるように、新たな道へ進み出すきっかけとなるツアーでした。

高知県仁淀川町の林業視察・体験ツアーのように、ガッツリ林業を体感できる企画は探せば全国各地にありそうです。林業以外にも里山体験だったり、純粋に森林散策を楽しむものだったり、ジャンルも色々あるでしょう。しかし、一人で情報を見つけ出すのは思いのほか大変です。森に行ってみたい人がもっと気軽に情報を手に入れられるようになったらいいなあ、なんて考えています。だからこそ、このヒビキツアーズでは、森林系イベント情報や体験レポなどが行き交う掲示板のような存在を目指していきます。皆さんもぜひ情報をお寄せください!

●Information
仁淀川町 産業建設課
高知県吾川郡仁淀川町大崎200番地
0889-35-1083
仁淀川町林業研修制度について
https://www.town.niyodogawa.lg.jp/iju/life_dtl.php?hdnKey=1597
仁淀川町移住情報ポータルサイト
https://www.town.niyodogawa.lg.jp/iju/

高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。