スポーツクラブや音楽、絵画の活動があるなら、木工のサークルがあってもいい。しかも、学校に。そう思ったきっかけは、高山市立清見小学校で行われている“森林教育”を見学したことでした。
森林教育を取り入れた
総合的な学習の時間
いきなりですが、「鮎と鵜のブローチ&キーホルダー」の記事はお読みいただけたでしょうか?
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この記事で取材したのが、木工作家の奥井さんです。生木を使った木工(グリーンウッドワーク)に親しむ人やその指導者を地元で育てていきたいと話していたのが印象に残り、いずれ取材しようという思いを込めて、記事の最後にその内容を綴りました。
取材を終えて2か月ほど経ったころ、そのチャンスはすぐに訪れます。奥井さんから、高山市内の小学校でグリーンウッドワークの授業をするというメッセージが届いたのです。授業をサポートする講師として奥井さんも参加すると聞きつけ、授業を見学させてもらうことになりました。まさか、こんなにはやく実現するとは思いもしませんでした。
見学先は高山市立清見小学校の6年生を対象にした、“総合的な学習の時間”。森林や木工文化が豊かな高山市清見町ならではの地域資源を題材に、ふるさと教育として地域の自然や産業を学ぶ位置付けとして、同校で“森林教育”の授業が行われています。
今年度の森林教育には年間20時間が充てられています。学校のすぐそばにある山林での間伐作業体験から始まり、木材の工場見学等を通じて伐採された木がどのように加工されていくかを知り、最後に自分たちの手でスツールづくりを行う内容です。

取材に訪れた日は、子どもたちが実際に間伐した木を使った木工体験の時間でした。1〜4時間目にかけて、約3時間半でスツールづくりに挑戦します。
約3時間で
スツールは完成するのか?
スツールづくりは、座面となる丸太を割るところから自分たちで行います。“マンリキ”と呼ばれる道具を丸太の断面にあて、木槌でたたいて割ります。子どもたちは初めての道具と作業に、おっかなびっくりの様子でしたが、次第に潔く木槌でたたく姿も見受けられました。
※刃物や工具を使用する作業は、講師や教員の指導・安全管理のもとで実施されています。


続いて、半分に割った丸太を、自分が座るのにちょうどいいサイズの長さにノコギリで切っていきます。教室に響く音が、ガラリと変わりました。


丸太を割って、切る工程を終えたら、次は削る作業です。“削り馬”と呼ばれる作業台にまたがり、“セン”と呼ばれる道具で樹皮を削り、ひっくり返して座面も滑らかになるように仕上げます。講師のお手本を目にして、「木の表面がキラキラしてる!きれい~!」と歓声が上がりました。削るたび、ヒノキの香りも教室中に広がります。

作業の様子を見守っていると、いつの間にか周りをフォローする子の姿が目に留まりました。話を聞くと、学校のクラブ活動の中に、“グリーンウッドワーククラブ”なるものがあるようで、そこで普段からグリーンウッドワークに慣れ親しんでいるということでした。なるほど、作業の進みが早いわけです。

座面を削る作業を終えたら、あとは脚を取り付けて完成です。講師が電動ドリルで穴をあけ、そこに脚を木槌でたたいてはめ込んでいきます。


講師陣の周到な用意とサポート、子どもたちの集中力により、3時間で全員がスツールをつくり上げることができました。


後日、他にどんな木製品があるか調べ学習を行い、間伐から木工までの全体を振り返って、森林教育の学習は終わりとなります。
半信半疑だった
グリーンウッドワーク
清見小学校における森林教育の全体の音頭を取っているのは、同校のすぐそばで木工を営むノクターレの塩谷英雄さんです。森林資源に恵まれ、木工文化が豊かな地域にもかかわらず、地元の子どもたちが森に入る機会が少なくなっている現状をさみしく思っていたと言います。そこで、行政と連携を取りながら、学校教育で森林について学ぶ授業の実現に向けて動き出したのでした。

地元の木工業者と森林組合によるサポート体制を構築し、2022年から、高山市の助成制度を活用しながら、試験的に授業がスタートしました。1期目は清見中学校の1年生を対象に実施し、2期目からは清見小学校の6年生も対象に加わり、3期目からは清見小学校に絞っての実施となりました。間伐作業体験から工場見学、木工体験という流れは1期目から続いています。
森林教育をきっかけに、自身も初めてグリーンウッドワークにふれたという塩谷さん。それまでは乾燥した木材を使うことが当たり前だったこともあり、当初はみずみずしい生木を使うグリーンウッドワークに対して「半信半疑だった」と当時を振り返ります。2期目までは、岐阜県立森林文化アカデミーの久津輪先生や学生、一般社団法人グリーンウッドワーク・ラボの久保田さんに協力を仰ぎながら、授業の中でグリーンウッドワークを行ってきました。
▶ 休日にスプーンづくりから始めるグリーンウッドワーク(久保田さん取材記事)
ヨーロッパを中心に広まったグリーンウッドワークですが、手工具を使って生木からつくる、という点では、往年の日本の民具も変わりはありません。清見町の資料館で民具を目にして、改めてそのことに気づいたと塩谷さんは話します。「グリーンウッドワークを地元でやる意味があるのかもしれない」と、思い始めたのでした。
塩谷さん自身がグリーンウッドワークを教えるようになったのは、昨年度(2024年)からです。指導者養成講座を受け、ますますグリーンウッドワークの世界に惹かれていきます。

「消費者の方からすると、木製品は買うものであって、自分でつくれるものだとは考えないと思うんですよ。だけど、グリーンウッドワークであれば、そんなに道具をそろえなくても、独学である程度のものは自分でつくれますし、それを生活の中で使うことができる。それっていいなって思うんですよね。そういう暮らし方があっても面白いんじゃないかなと。そうした暮らしに豊かさを感じる人はいる気がしています」
10年前から清見小学校で木工クラブを実施してきた塩谷さんですが、現在は”グリーンウッドワーククラブ”へと進化させて、森林教育とは別で、月2回のペースで実施していると言います。ラフにつくれるグリーンウッドワークだからこそ、45分という短い授業時間の中でも、木工の楽しさを伝えやすくなったと感じているようです。

清見小学校での森林教育は今後も継続予定ですが、講師確保や設備等の環境を考慮すると、他校にムーブメントを広げていく難しさがあるのも事実です。とはいえ、グリーンウッドワークの面白さを知ってほしいとの思いから、一般向けのワークショップも開催しています。こうして、木工の地・高山で、グリーンウッドワークの波が広がりつつあります。
▼飛騨高山スプーンクラブ(一般向けワークショップ)
https://www.nokutare.jp/green-woodwork/
針と糸で縫い物をするように、ナイフと端材で自分が使うスプーンや箸をラフにつくってみる。みんなでおしゃべりしながら木を削るのもよし、同じ空間にいながらそれぞれが夢中で作業するのもよし。そんな場がもっと、地域にあってもいいじゃない。そんなことを思った取材でした。
●Information
nokutare(ノクターレ)
〒506-0102 岐阜県高山市清見町三日町82番地
0577-68-2104
https://www.nokutare.jp/