ひビキのヒび
# 29
「ぎふ林業甲子園2023」
大接戦の競技レポート
2023.10.23

岐阜県内の農林高校生たちが森や製材工場を舞台に競技型就業体験イベント「ぎふ林業甲子園」が、岐阜県東白川村で9月16日(土)に開催されました。森の中で行われた小さな甲子園ではありますが、おそらく全国で初めて開かれたであろう競技と、小規模にもかかわらず大白熱した甲子園の模様をお届けします!

写真:編集部/文:田中 菜月

製材工場に響きわたる
選手宣誓

ぎふ林業甲子園の参加校は加茂農林高校・岐阜農林高校・飛騨高山高校の3校です。参加生徒数は8名と少人数ですが、本人自らの希望で参加しているため開会式から熱気と緊張感に包まれながら甲子園が開幕しました。

イベントの主催は林業の担い手支援などを行う〈森のジョブステーションぎふ〉、企画・運営は私たち響hibi-ki編集部、そして会場提供・講師を務めたのが東白川村に本社がある〈株式会社山共〉と〈株式会社山共フォレスト〉の皆さんです。関係各所協力のもと、そして天気にも恵まれた中での開催となりました。

開会式で選手宣誓を行う飛騨高山高校2年の田中大晴(ともはる)くん。

製材工場での開会式後、競技に移る前に緊張をほぐすためのアイスブレイクを行いました。「下の名前の画数が一番多い人を探せ!!」「農林高校のOB・OGを探せ!」といったお題が各校に与えられ、それに対して高校生たちが他校の生徒や運営・講師スタッフにヒアリングして回るといった内容になっています。この日、どんな人たちが関わっているのか、アイスブレイクを通じて少しだけ知れる時間となりました。

アイスブレイクでのひとコマ。

さて、ここからはいよいよ競技の時間です!競技は大きく二つに分かれていて、午前に行う「選木競技」と午後の「製材競技」があります。まずは選木競技を行うため、製材工場から少し離れた森へ移動します。各校引率の先生の車に乗っての大移動です。

育てる木と間伐する木
選ぶならどれ?

選木とは、林業の現場で行われている作業の一つです。競技形式で選木を実体験しながらその奥深さにふれられる内容になっています。競技の会場となる林内には、テープで区切った競技エリアが学校ごとに設けられています。生徒たちはそれぞれのエリアに分かれて、担当講師であるプロの木こりから競技内容について説明を受けます。

響hibi-kiのデザイナー・伊藤実穂さんが制作したワークブックをベースに競技が進む。

今回の選木テーマは二つあります。一つは「20年後、自分の家を建てるときに柱材として使うために育てたい木」、もう一つは「柱材の木を育てるために、今の時点で間伐する木」をエリア内から選ぶというものです。理想の柱材のサイズは断面が10.5㎝角の正方形、長さ3mとし、柱材として育てる木の本数は3本選び、間伐する木の数は各自で決めます。エリアごとに正解の木はすでに講師側で決められていて、生徒たちの選んだ木の正答率が高い順に応じて得点が入ります。

与えられた時間は約40分。木の見た目を確認したり、サイズを測ったり、さまざまな視点でエリア内を観察して木を選ぶ生徒たちの眼差しは真剣です。事前学習として競技の内容や学習ポイントは予め伝えていたため、しっかり対策を練ってきたかで差が出てきます。選木の様子を外から見ていると、じっくり考えて悩みながら決める高校もあれば、手早くパパっと選ぶ高校もあり、各校カラーが異なります。

木を見上げて曲がりがないかなど確かめている飛騨高山高校の生徒たち。
直径を測って、今から20年後にどれくらいの太さになるか予想する岐阜農林高校チーム。

タイムアップ後、担当講師から正解の発表です。結果は正解率が9割以上の高校もあれば、3割以下の高校もあり、事前学習の差がやはり影響しているようでした。ただ答えを教えてもらうだけでなく、生徒たちが選んだ木に対しての講評や、普段はどんなふうに選木しているのかといった話をプロの木こりたちから直接教えてもらう場面もありました。

林業では漠然と木を伐っているだけではなく、そのときの森林の状態や伐採後の周りへの影響、求められている木材、はたまた社会状況などいろいろなことを考えながら木を選んで伐採しています。それと同時に効率性を求められるときは瞬時に判断して伐り進めていくこともあります。そうしたことを少しでも感じ取ってくれていたらいいなあと思いながら、講評の様子を眺めていました。

プロの木こりから、自分たちが選木した内容について評価してもらっている加茂農林高校チーム。講師の田口克大さんも実は加茂農林高校のOB。

選木はこれで終わりですが、最後にもう一つ、伐倒を見学する木の樹高を当てる競技も行いました。伐倒前の立っている状態で高さを考えてもらったのですが、どの高校も20m前後で近い予想になりました。さて、実際はいくつなのでしょうか?立っている状態でも樹高を測る方法はありますが、今回はプロによる伐倒を見学したあと、倒れた木を計測します。

伐倒する木は、2人の生徒の間に立っている一番手前の木。

実際の作業では2分に1本くらいのスピードで伐倒していくそうですが、今回は学習の一環ということで、作業で使う道具や伐倒の手順を一つひとつ解説してもらいながらの見学でした。高校生たちは初めて生で見る道具や伐倒に興味津々の様子です。スマホでパシャパシャ撮っていたので、興味を持ってくれているのがよく分かりました。

伐倒方向をどのように確かめているのか解説中。

そして、いよいよ伐倒のとき。林内にチェンソーの音が響きわたります。ミシミシッという木が倒れるときの独特の音が聴こえると、木がゆっくりと倒れていきました。伐倒後は自然と拍手が湧き起ります。さあ、あとは伐倒木の高さを測るだけです。

各校の予想は、
加茂農林高校 20.11m
岐阜農林高校 21.5m
飛騨高山高校 19.7m

でしたが、果たして結果は…?

伐倒した木の高さを実際に計測中。

実際の樹高は20.45mでした。ということで、一番高い得点をゲットしたのは加茂農林高校でした!

午前の部終了時点での順位は、
1位 加茂農林高校 35点
2位 飛騨高山高校 23点
3位 岐阜農林高校 22点
です。午後の部ではどんな波乱が起きるのでしょうか。

選木競技を担当してくれた山共フォレストの皆さんと伐倒木とともに記念撮影。

ランチ交流会と
木材市場プチツアー

選木会場から東白川村森林組合へ移動して、ここで昼食の時間です。生徒も先生も運営スタッフもシャッフルして三つのグループに分かれ、おしゃべりしながらのランチタイム。進路のことや普段の学校生活のことなど、ざっくばらんに交流しました。一番盛り上がっていたのは、加茂農林高校のOGで響hibi-kiチームのスタッフとして参加してくれていた長谷部咲乃さんと、岐阜農林高校の長尾桜子さん。“農林高校の女子あるある”はこの組み合わせだからこその会話ですね。

昼食会場の外には、丸太がたくさん積み上がった土場がありました。東白川村森林組合では月に一度木材市場が開かれているため、市場で売られる丸太がゴロゴロと並べられています。当初の予定にはなかったのですが、山共の代表であり、製材のプロ・田口房国さんがせっかくだからと高校生たちに声をかけて、即興で丸太の目利き講座がはじまりました。

株式会社山共の代表・田口房国さんが丸太の目利きポイントについてレクチャー。

丸太のどこをどう見て、仕入れる材を選んでいるのか、プロの視点を直接聞けるめったにない機会です。反りや曲がりがないこと、芯が断面の中心にあることなど、丸太の見方を教わりました。タイミングが合えば実際の木材市場も見学できると面白いのですが、それはまたどこかで形にできたらいいなあと勝手に妄想がふくらみます。

そうこうしているうちに、午後の部の開始時間が近づいてきました。開会式を行った製材工場に再び移動して、製材競技のスタートです。

頭と体力を使う
製材の技術

製材競技では、実際の仕事で行われている木材の棚卸や材料をきれいに積み上げる作業などを体験型競技として用意しました。全体で5つの競技を高校ごとにローテーションする形で行います。

製材競技①:板材早積み競争

手前の人が手にしている短くて細い木は桟木(さんぎ)と呼ばれるもの。桟木を置いて木材同士の間を空けることで、風通しが良くなって木材が乾燥しやすくなる。

丸太を製材したあとの角材は乾燥や仕上げ加工を経て、建築資材として工務店などに販売する商品になります。そのため、製材屋では毎月の棚卸が必要なのはもちろん、サイズごとに整然と在庫管理しておくことで注文後の出荷対応などもスムーズに進めることができます。

そのためにも、製材では木材をきれいに積み上げる作業が大切です。この競技ではそうした要素を取り入れて、すでに積まれている板材をもう一度積み直す速さを競いました。タイムが速いチームから順位が決まり、桟木が不揃いに積まれていると減点となります。

チームプレーが要となるこの競技。作業をどのように割り振って、どういった手順で進めるのか頭を使い、あとは体を使ってひたすら集中して積み上げます。最初はコミュニケーションが必要ですが、流れが決まってくると残りは黙々と作業するのみです。ピンと張りつめた空気感に痺れました。

製材競技②:棚卸し早調べ競争

続いては、用意された木材のサイズや数量をカウントし、その正確さとスピードを競う棚卸し早調べ競技です。先ほどの競技と同じく、こちらもチームプレーが肝心です。実際の棚卸しではサイズや数量を間違えてしまうと大変なことになってしまいます。スピードが大切ですが、冷静さも求められる競技です。

製材競技③:重さ予想競争【個人競技】

チーム全員が一人ずつ、1本の木材の重さを予想します。予想した重さと、実際の重さが近い順番に順位が決まり、上位3名の所属する高校にそれぞれ得点が入ります。事前に練習してきたという加茂農林高校は想定していた木材のサイズと違ったため頭を抱えていましたが、練習の成果はいかに?

製材競技④:価格予想競争【個人競技】

予想を書き込むシート

重さ予想と合わせて、木材の販売価格(製材屋が工務店に売るときの価格)を予想します。予想した価格と実際の価格が近い順番に順位が決まります。得点は重さ予想と同様です。丸太1本(直径30㎝、長さ4m)で3,000~4,000円くらいというヒントはありましたが、製材のコストなどをどこまで考慮できるかがポイントになります。

製材競技⑤:木材クイズ

最後は木材に関する知識を問う木材クイズです。離れた状態で丸太の樹齢を当てるクイズや、木材の樹種を当てるものなど全5問出題しました。クイズの正解数に応じて得点が加算されていきます。

これら五つの競技にがっつり取り組んでもらい、1時間ほど経ったところで競技終了です。即席の角材ベンチに集合して、山共の房国さんから結果発表してもらいます。板材早積み・棚卸し早調べの順位や、重さと価格の正解、そして木材クイズの答えが発表されるごとに生徒たちは一喜一憂の様子でした。

製材競技を経て、最終結果はどうなったのでしょうか?
と、その前に製材機で丸太を挽くところを見学しました。製材を見るのは初めての子がほとんどということで、午前中に体験したように、選木・伐倒後の丸太が工場へ運ばれて木材に加工されていく流通過程を体感することができたのかなと思います。

製材競技を担当してくれた山共の皆さんと製材機の前で記念撮影。

最後に再び森へ移動して、山共さんの別事業である森林レンタルサービス〈forenta〉の現地をみんなで見学します!

初代優勝校は…?

forentaは年間契約で森林をレンタルできるサービスです。一定のルールを守れば、自分のレンタルエリアで自由に過ごすことができるため、野営キャンプやブッシュクラフトを楽しみたい人たちから人気を集めています。今回は特別に実際のレンタルエリアの中に入らせてもらい、利用者の方がどのように空間を活用しているのか見学させてもらいました。林業のように木を伐って売るだけではなく、森林空間そのものを活かした仕事もあるということを実感してもらいました。

forentaのエリア内を歩くうち、気付けば日が傾く時間になってきました。ここでついに最終結果の発表と表彰式に移ります。

最終結果は、
加茂農林高校 59点
岐阜農林高校 57点
飛騨高山高校 53点
と、大接戦の末、加茂農林高校の優勝となりました!加茂農林高校の皆さん、おめでとうございます!!

優勝トロフィーは編集部手づくり!(土台は山共さんのヒノキ、楯部分は以前の吉野取材時に購入した杉杢の銘木)

参加してくれた生徒の皆さんの本心はわかりませんが、帰り際の笑顔を見ていると少しはいい思い出になったのかなと感じるとともに、私たちも運営していてめちゃくちゃ楽しいイベントでした。将来林業や製材業に関わらないとしても、森林や木材、そしてそこで働く人たちに親しみを感じてくれるようになってくれればいいなあと思っています。

もともとこの林業甲子園を始めたのは、岐阜県内の農林高校で林業ボードゲームを使った出前授業を行ったのがきっかけの一つです。ボードゲームで遊びながら林業について学ぶのもいいけれど、やっぱり実際に体験しないと森林や林業の真髄は伝わらないだろうと思い、現場体験のイベントもやってみることになりました。
▼林業ボードゲームの経緯はこちら
https://hibi-ki.co.jp/hibikinohibi024/

昨年は2校だけ集まったので競技の形はとらず、今年ようやく思い描いていた競技形式での開催が実現しました。岐阜県内には農林高校が五つあるので、来年は5校で開催できるといいなあと考えています。今後どんな形で継続・展開していけるか未知数ですが、普通科高校が参戦したり、東海エリアの地方大会を開いたり、最終的には全国から参加校を募って開催できたら面白いだろうなあと想像はどんどんふくらんでいます。

とはいえ、事業として継続するには手間がかかるものです。継続・拡張していくためのアイデアを一緒に考えたい、支援したいという方がいらっしゃれば、ぜひお声がけいただけるとうれしいです!イベントの企画・運営などもお気軽にご相談ください。

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。