ひビキのヒび
# 19
北海道とホタテのこと
2022.1.24

制作の裏側や取材時の裏話など、編集部の日常をあれこれと綴っていく「ひビキのヒび」。先日、社内チャットを騒然とさせた“ある投稿”について、新入社員・松山さんに筆を執ってもらいました。今宵は皆さんもホタテが食べたくなるはずです。

写真・文・イラスト/松山 由実

北海道からやってきた
新入社員

今年の春、響hibi-kiを運営する〈飛騨五木株式会社〉に仲間入りした松山です。普段は屋内型の遊び場「森のわくわくの庭」のスタッフとして施設運営を担当しています。

出身は奈良県。小さい頃から田んぼでメダカを取ったり、竹藪で遊んだり、家の周りのちょっとした自然で遊ぶことが大好きでした。

実家の前の田んぼ。幼い頃はこのあたりでよく遊んだ。

高校生だったある日、教室で授業を受けていて、ふと外をみると晴天の空。「箱の中で勉強するのはいやだなー」という想いが芽生えて、フィールドワークがたくさんできる場所を求め、広い北の大地・北海道の大学へ進学しました。

大学では、「森林科学」という森や木のこと全般を扱う学科を専攻し、森や木に魅了され、友だちと図鑑を片手に森へ通う日々を過ごしました。

森林内での実習中の一コマ。木に生えたキノコを発見!

大学1年生の4月、ピンとくるサークルがなかなかなく新入生歓迎会の流れに乗り遅れ困っていた時、環境や自然に関わる活動をたくさんしていた「NPO法人ezorock」という団体に出会います。NPO法人ezorockは「RISING SUN ROCK FESTIVAL」のごみの環境対策から生まれた、創立20年の団体です。ごみの環境対策活動以外にも、未利用材を活用した薪割プロジェクトやシェアサイクル事業など様々なプロジェクトチームがあり、学生や社会人が一緒に活動を行っています(語れば長くなるので割愛)

北海道はみんなが一度は憧れる地かと思いますが、実は北海道は全国よりも10年早く人口減少が進んでいる“課題先進地域”と言われており、人口減少により、あらゆる産業の担い手不足や交通網の維持困難など、様々な問題に直面しています。

ezorockのプロジェクトチームの1つに「179RELATIONS」というチームがあり、北海道の地域課題に対して、地域に若者を送りまちの取り組みに参加するなど、都会の若者や地域の人と人とを繋ぐ入口をつくる活動を実施しています。

地元の人にまちを案内してもらい、まちでできることを一緒にブレスト中。

その179RELATIONSの活動で、私が大学2年生の時に、北海道でもさらに北の、知床半島の付け根にある「標津町」(しべつちょう)を訪れました。そのプログラムは標津町の青年団体「しべつ未来塾」の皆さんにまちを案内してもらい、札幌や他地域から来た若者が一緒に標津町の資源を生かして新たにできることを考える2泊3日のプログラムでした。

自分と全く縁もゆかりもなかった地域でしたが、標津町の人たちにまちを案内してもらい、私にとっては見るものすべてがとても新鮮で、自分の知らない常識や暮らしにたくさん触れて、標津町に魅了された3日間でした。

標津から届いた
ホタテの話

それから、何度か足を運ぶようになり、標津の方々にとても仲良くしていただくようになり、最近も、標津町で獲れた “ホタテ” を送っていただきました!

そのホタテがとてもおいしく、感銘を受け、「どうやったらこんなおいしいホタテが育つのだろう?」「そもそもホタテってどうやって獲るの?」とギモンがたくさん湧いてきて、ホタテが自分のもとに届くまでどんな道を歩んできたのか調べてみることにしました。そして、調べるうちにわかったことをまとめたくなり、イラストを書いて、社内チャットに共有してしまいました。それがこちらです。

ホタテが我々の食卓に届くまで〜標津町のおいしいホタテが届くまでのお話です。

●STEP1:ホタテの赤ちゃんの誕生
ホタテの赤ちゃんは5~6月に誕生し、約35日間海を浮遊生活します。ホタテの誕生と海水温は密接に関係しており、宗谷暖流の影響により、海水温が上昇した海から順にホタテは誕生します。

●STEP2:採苗器に付着
海中を漂っていたホタテの幼生は、約35日間海を浮遊したのち、海底の岩などに付着します。そのタイミングで「採苗器」(さいびょうき)という網をセットして、網にホタテを付着させます。標津町ではより大きな稚貝を育てるため、産卵時期の早い稚内市・斜里町の海へ採苗器を持っていき、ホタテを付着させた後、再び標津の海へ採苗器を戻します。
(大きな稚貝を育てる理由:海へ放流したのちに、ヒトデやカニなどの外敵に食べれれる確率がホタテのサイズによりミリ単位で変わってくるため、より大きい稚貝が望まれる)

引き上げられた採苗器。

●STEP3:稚貝の選別
採苗器をセットしてホタテが少し大きくなると、採苗器を一度引き上げ、網から外して成長の大きい稚貝を選別し、ムール貝やカニ、ヒトデなど他の付着物を取り除きます。

●STEP4:中間育成かごに引っ越し
選別をしたホタテの稚貝は次に、中間育成かごと言われるかごに入れられて、再び海へ。

●STEP5:1歳になったホタテの分かれ道
1歳になり大きくなったホタテは、再び海から引き上げられます。引き上げられたホタテは、中間育成かごから卒業して、標津の海へと放流されます(大きくなるにつれて中間育成かごでは狭く、餌の取り合いになってしまうため)。また他地域では、この時にすべてを海へ放流するのではなく、さらに違う地域へと出荷する場合もあります。

●STEP6:2~4年後、ホタテの捕獲!
標津の海で大きくなったホタテは、2~4年後に漁獲されます。ホタテ漁で使用されるのは、「八尺」(はっしゃく)という漁具。船から海底に下ろして、海底にいるホタテを捕獲します。ホタテには年に2回の旬があり、7月は貝柱が大きくておいしいホタテが、2~3月には産卵を控えた卵のおいしいホタテが楽しめます。

●STEP7:ホタテの選別
捕獲したホタテは船の上で空貝や外敵であるヒトデの選別を行います。

●STEP8:出荷
漁と選別を終えた船は、漁港に戻って計量を行い、ホタテを出荷します。そして私たちのもとにホタテが届きます。

ホタテの国内生産は99%が北海道。中でもオホーツク海に面する地域で多く漁獲されているそうです。調べてみて初めて、ホタテはこんなに手間がかかって採れるんだと知りました。

標津町はおいしいホタテを町民に年2回、鮭を年に1回、無料配布するという太っ腹な習慣があります。町民はみんなホタテの殻剥きの道具を持っていて、とても上手に殻を剥くことができます!

標津町の方に送ってもらったホタテを貝柱と内臓・貝ひもに分けたもの。

標津の海では、ホタテ以外にも鮭を筆頭に様々な海産物が獲れ、この豊かな海の背景には、知床の豊かな森があり、森からの栄養が海に出ていくことで魚が集まるいい漁場になっていると言われています。また鮭が遡上することで、海からの栄養が森へと帰るという循環が生まれ、豊かな土壌が形成されており、森と海は密接な関係で成り立っています。

豊かな森・海、いろいろな人たちに手をかけられて獲れたホタテ。標津の自然や人に想いを馳せながら食べるホタテは格別においしく感じました。

もらったホタテは刺身にしておいしくいただきました。

標津のホタテと標津のことをいろんな人に知ってもらえたら嬉しいな~と思ったとある休日でした。標津町のホタテをたべたくなった方は標津漁業協同組合のオンラインショップから購入できます。ぜひ一度ご賞味ください。

●標津漁業協同組合オンラインショップ
https://sake-ikura.jp/

【参考情報】
北海道漁業協同組合連合会HP
青森県水産総合研究センター増養殖研究所HP

松山 由実 (まつやま・ゆみ)
奈良県生まれ。広いところでフィールドワークがしたいと思い立ち、北海道の大学へ。森や木の世界に魅了され、響hibi-kiの運営会社サイトに流れ着く。普段は屋内型遊び場「森のわくわくの庭」の施設運営を担当。休日は公園や森で本を読むことにはまっている。