hibi-ki Hiker’s club
# 19
みんな大好き八ヶ岳【後編】
苔むす針葉樹の森を歩く
2026.2.2

世界各地のトレイルを走破している元地理教師でハイカーの玉置哲広さんを案内人に迎え、森の世界旅行へ一緒に出かけてみましょう。今回は、前回の八ヶ岳ハイキングの続きです。

写真・文:玉置 哲広

森の中にあらわれる
ゴージャスなカーペット?

「♪ 森へ行きましょう娘さん~アッハーハ!」というポーランド民謡がありますが、今でも歌われているのでしょうか?

日本では森といえば杉の産業林で、おまけに傾斜が急な山地林のイメージで、「アッハーハ!」と踊り出す感じではないですね。北ヨーロッパあたりに行けば、歌のような森に出会えるのでしょう。でも、日本だって近いところに素敵な森があるのです。それが、北八ヶ岳です。

前回はアルペンムードあふれる南八ヶ岳の紹介でしたが、八ヶ岳連峰も「北八ツ」と呼ばれる北半部に入ると、グッとシブい雰囲気に変わります。針葉樹林の中に緑の苔でおおわれた岩や枯れ木、土壌が広がり、そんな中を歩くと、時折木々の間に青い水をたたえた池があらわれる、なかなかステキな世界が展開します。

苔の道。
苔の道。

派手で華やかな南八ツに対して、起伏がおだやかで歩きやすく、落ち着いた大人の雰囲気の山域として、森林逍遥派の人たちにとても愛されています。雪に覆われる冬も、山小屋が営業していて、静かな白い世界を求める人たちに歩かれている山域なのです。

北八ヶ岳へのポピュラーな入口、「麦草峠」へは車で標高2000m付近までアクセスできますので、最初に紹介するのは、ここからの森歩きです。峠の駐車場からなだらかに下っていくと、森の中に青い湖が現れます。ちょっと北欧チックな気分になれる風景。ここは「白駒池」といって、古い火山活動で生まれたそうです。

白駒池。
白駒池。

針葉樹の原生林に囲まれたシチュエーションは、北八ヶ岳の象徴的な場所と言えるかもしれません。(観光駐車場もありますが有料)湖畔には二つの山小屋があり、そのひとつの名は「青苔荘」。青く苔むした林床に囲まれたこの地の特徴をあらわしています。とくにここはその美しさで知られていて、500種類近い苔があるのだとか!

苔の森
苔の森。

専門家ではないので、苔はつい「コケ」とひとまとめに認識してしまうのですが、都会での不浄なイメージとは真逆で、フカフカのゴージャスなカーペットのよう。顔を近づけてつぶさに見ていくと、確かに色んな形のものがあります。コビトのフィギュアなどを置いて撮影すれば、不思議なメルヘンの世界に迷い込んだような一枚になりそうです。

イメージ撮影。人形はヤマネ。
イメージ撮影。人形はヤマネ。

さて、白駒の池を一周するだけでもいいですが、近くには「ニュウ」という珍奇な名前の山や小ピーク「高見石」などがあって、それらを巡ると充実したハイキングができます。どちらに登っても山頂が森の上に飛び出した岩になっているので、白駒の池が森の中にぽっかりと抜けているのが見えて、気分が上がります。そして麦草峠に戻れば、麦草ヒュッテではガラスで育てた各種の苔を紹介していて、「こけ丸君」というキャラクターもいます。

高見石頂上から見た白駒の池
高見石頂上から見た白駒の池。

シマシマに
ゴロゴロの山

次は、同じ麦草峠を起点として北上するコースの紹介です。ここでは、全国でも他にあまり見ない森林現象に出会えます。

ルートに入って二つ目のピークの名前が「縞枯(しまがれ)山」。文字通り、木がシマシマに枯れているのでその名がついた山です。登っていくと、誰でも、おお!この事だなとわかります。山の斜面に幾筋も白い枯れ木地帯が、走っているのです。

縞枯れ現象
縞枯れ現象。

なぜそうなるのか?昔は謎と言われてましたが、最近では、森林の世代交代現象として説明されています。このあたり一帯をおおうシラビソの木が、風の影響などで順番に枯れては日が当たって、新しい木が育つみたいなことらしいです。

さて、縞枯山を下りたら、ほどなく北八ヶ岳ロープウェーの山頂駅に到着です。この間のルートは、学校の移動教室などでもよく歩かれ、縦走しない迂回ルートもあるので、ロープウェーか麦草峠のどちらかを起点にしてラウンドコースもとれます。真冬は、麦草峠は閉鎖ですが、ロープウェーは年中無休。晴天率も高いので、山スキー、クロカン、スノーシューなどを使って、白い世界で遊ぶ人も多いです。

また、ここから、「北横岳」に登るコースも変化に富んで楽しめます。火山性岩石ゴロゴロの「坪庭」を通って、八ヶ岳で最後に噴火したという北横岳に立つと、南八ッからの連峰全体を見渡せますし、火口跡や池を眺めて火山を実感できます。

北横岳から見える八ヶ岳連峰
北横岳から見える八ヶ岳連峰

最後に、北にある「大河原峠」からのルートを紹介します。ここからわずか20分の登りで、広々として開放感のあるピーク、「双子山」に立つことができます。目の前の大きな「蓼科山」や遠方の山々を望めます。

双子山山頂付近。卓越風による風衝樹形。
双子山山頂付近。卓越風による風衝樹形。

そこを下った先には、二つの池からなる「双子池」が森の中に現れます。さらに、北八ッらしい森を抜けると、「亀甲池」という別の池もあり、最後は笹原に出て大河原峠に戻ります。

双子池
双子池。

また、この峠は、多くの人が蓼科山への拠点としている所。北八ヶ岳の最北にドンとそびえる蓼科山は、連峰からは独立した火山という感じです。プリン型のカラメル部分は岩ゴロゴロ平原になっていて、独特の景観です。

プリン型の蓼科山
プリン型の蓼科山。
蓼科山頂のゴロゴロ平原。北八ヶ岳は、こんな岩原の上に苔や樹林が広がっている感じ。
蓼科山頂のゴロゴロ平原。北八ヶ岳は、こんな岩原の上に苔や樹林が広がっている感じ。

ところで、「森へ行きましょう」と言っても、昨今は「森のくまさん」が不安要素ではありますね。八ヶ岳山域では、他地域と比べると熊の目撃例は多くないと言われることもありますが、それは針葉樹林が多く、エサとなるものが比較的少ないことも一因とされているようです。。代わりに、鹿がいっぱいです。ということは、シカを狙って熊が…。行動時間や装備、最新の情報に注意しながら歩きたいところですね。

※標高が高く天候が急変することもあるため、装備や最新の登山情報を確認したうえで計画的に行動してください。

玉置 哲広 (たまき・てつひろ)
広島県出身でカープファン。大学時代に登山を始め、板橋勤労者山岳会に所属して、広く内外の山に登っている。高校の地理教師をしていた。モノ好きで蒐集癖があり、様々な文化に首を突っ込むが、ヘタの横好き。愛読書は地図帳と山の歌本。