山を、森を、ひたすら歩き続けたい。ただの山道じゃない、自然と融和できるような、そんな“トレイル”が世界各地にはあります。土地の成り立ちも、気候条件も、人の生活文化も異なれば、そこに立ち表れる自然の姿は多様です。世界各地のトレイルを走破している元地理教師でハイカーの玉置哲広さんを案内人に迎え、森の世界旅行へ一緒に出かけてみましょう。今回は北大西洋に浮かぶ北欧の島国、アイスランドのトレイルです。
一度は訪れてみたい
大地が生まれる場所
「ジオ」という言葉や、各地で「ジオパークに指定された」といったニュースを近年よく耳にします。“ブラタモリ”など自然を地球科学的に紹介する番組も人気ですね。それから「プレート」もよく聞きます。地震や津波、火山災害がしょっちゅう起こる日本では、その度に「プレート」による要因解説が行われます。そんな言葉、私が少年の頃は聞いたことはなかったのですが、近頃は小学生でもプレート理論を語っているので驚きます。
さて、日本はプレートが複雑にぶつかりあう場所なので、海溝だのトラフだのプレートが沈み込む場所が近海の海中にあるわけですが、逆に、プレートが生まれ出る場所はというと、日本から遠い大洋のど真ん中、「海嶺(かいれい)」という海底山脈にあります。その名のとおり、海の底にあるのでふつうは見ることができません。ところが、そこがなぜか陸地となってあらわれ、プレート誕生シーンを直接見ることができる場所があります。それが、北辺の島国アイスランドなのです。プレートが生まれ出た大地の割れ目だけでなく、巨大滝や間欠泉、割れ目噴火の火山列、世界最大の露天風呂ブルーラグーン等々、「ジオ」的興味津々な場所がてんこ盛りです。これはぜひ歩こうと思いました。
ビール片手に温泉?
絶景に囲まれた秘境の地
調べてみると、「ロイガヴェーグルトレイル」という比較的ポピュラーなトレイルがあり、4〜5泊ほどで歩けるので、数年前の夏にそこを目指しました。
はるばる飛んで首都レイキャビクに着くと、さすが北極圏に隣接する国です。7月なのに晩秋のような涼しさで、すぐにジャケットを引っ張り出さねばなりません。まずは、一日かけて地図やトレイルのガイド本入手、バスの時間やルートなどの情報集めと、食糧の買い出しに一日使い、それから山に向かいます。『地球の歩き方』にはトレイルについての言及がなく、『ロンリープラネット』(世界的な旅行ガイドブック)も入手できず、ネットの情報のみでしたから、具体的な資料は現地調達なのです。余った時間で海辺を歩くと、初秋の北海道のような寂れたムードで、遠くにきちゃったんだなあと感じ入りました。
出発地は「ランドマンナロイガル」という妙に長い名前のテント基地です。そこに向かうバスの車窓から、すでに一面の溶岩原(平野状の溶岩流の広がり)やら、樹木のない苔色の山々やら、異世界的風景が広がっていました。このテント場周辺も、鬼押し出し(浅間山噴火時に流れ出た溶岩で形成された不思議な地形)のような溶岩流が迫り、砂礫の山が取り囲む独特の場所です。何日かステイして周囲の山を歩く人も多いそうでテントがいっぱいありました。早速3時間ほど、足慣らしとして、ひと山登りに行きましたが、それだけで広大な溶岩原、赤茶けた山肌、そして遠方に氷河を抱く山々が広がり、「氷と火の国」を実感させられる光景を堪能できました。
それから、このテント場には温泉池が沸いていて、とても賑わっています。もちろん水着着用です。ドイツ語が飛び交っていて、尋ねると「ここはドイツでは有名で、大人気なんだ」そうです。どうりで、皆ビール片手に上機嫌です。露店の温泉池に向かうには、ちょっとした湿原の木道を歩いて行くのですが、時折そこをビキニのお姉さんが歩いていて、ミスマッチながらもうれしい光景でありましたね。
翌朝、ロイガヴェーグルトレイルへ出発です。日本の夏山ではどんなに遅くても朝6時にはスタートするのに、夜が明るいために夜更かししたせいか、朝8時発になりました。ところが、テント場はまだ静まり返っていて、戸惑いました。前夜は遅くまで周囲は盛り上がっていたのに。どうやら、白夜の国なので、欧米人はスロースタートのようなのです。だけど、私は早起き行動の勤勉なジャパニーズなのでした。
朝の光の中、溶岩原に続くトレイルをゆるやかに登ると、黒い溶岩と対照的に緑鮮やかな湿原が現れました。そこには藍色の湖もあり、快晴の青空に輝いています。
さらに進むと、カラフルな色の山肌が迫ってきます。「いやはや、何と色彩豊かな所だろう」と感心しました。
そして、振り返ると登ってきた溶岩源とその先の氾濫原、雪の山々と雄大な眺めが一望のもとです。
そうかと思うと、その先はガラッと様相が変わり、平らな砂丘状の高原が広がり、所々から煙が立ち上る中を歩く展開となりました。さしずめ日本なら“地獄谷ウォーク”という感じです。でも、その途中に入っている小さな谷筋は、ショッキング抹茶色というか蛍光黄緑というか鮮やかな色に輝いていて、初めて見る風景です。
日本と全く違う色彩を楽しみながら最初のテント場に到着すると、小屋の兄さんに「今日は君が2着だ」と言われ、私のテントだけがポツンと張られました。それほど、早立ちだったようです。
時間があるので、近くのスノーケイブを見に行きました。そこは、氷河の下に熱水が湧き出て、雪の洞穴ができているところです。雪のフィールドを歩きながら、「色んな色彩があったけど、シメは白だなあ。さすがアイスのランドだあ」と思いました。(次回へつづく)
●トレイルルート
距離:約12km
●ロイガヴェーグルトレイルへのアクセス例
ケプラヴィーク国際空港
↓ バス
BSIバスターミナル
↓ バス
ランドマンナロイガル(トレイルの始点)
▼後編はこちら
「色彩の大地を旅する アイスランド【後編】」