hibi-ki的 がんばらなくていい移住 # 4
Special Issue 5
起業したり、テレワークしたり、
温泉入ったり
2021.8.23
群馬県最北部、首都圏の水源である利根川の源流地にあたるみなかみ町。谷川岳や大水上山などの約2,000m級の山々に囲まれた地に、人口約1万8,000人が暮らしています。温泉やアウトドアスポーツの拠点が充実した観光地であり、ユネスコエコパーク・SDGs未来都市に選定されるなど多彩な面を持った地域です。近年、ライトな形で林業に携わる移住者が増えているというその現況を探るべく、3日間におよぶ濃密な取材を敢行しました。

みなかみ町の移住施策の中で特徴的なのが、“起業支援”と“テレワーク”を推進している点です。町内にはテレワーク施設があり、起業支援の拠点を兼ねています。最近ではワーケーション向けの施設もオープン予定と、ますます推進力が増していきそうな雰囲気です。実際、施設や支援はどれくらい提供され、利用されているものなのか、それぞれの立場から話を伺いました。

写真:西山 勲、取材先/文:田中 菜月

移住者目線の
おせっかい?

(左から)
一般社団法人FLAP 代表
鈴木 雄一さん

みなかみ町観光商工課
移住・交流推進係 主任
中山 文弥(かざみ)さん

みなかみ町における移住・起業支援について話を聞いたのは、中山さんと鈴木さんによる行政×民間コンビです。移住定住や起業に関する相談は主にこの2人が中心となって動いています。相談希望者の都合に合わせてオンライン相談会を設けるなど、柔軟な対応が好評を得ているようです。

●オンライン相談会等の詳細はこちら
https://www.minakami.work/

県下初となったオンライン相談会は昨年からはじまり、1年で66組85名の相談に応え、現地でのアテンドなども交えた結果、昨年度は18組50名がみなかみ町に移住してきたと言います。

中山さん「移住と言っても人によってライフスタイルが全然違うので、林業や農業、観光など地域にある資源をそれぞれ組み合わせて活用してもらえるように、僕らはできる限りいろいろなものを提供するようにしています。だから積極的に相談者さんのお話を聞いて、その方に合いそうな町の情報をどんどん提案してますね」

そのうちの1人が、自伐型林業チーム「木木木林」の記事でも登場する長壁さんです。移住のことはもちろん、起業の面でも中山さん鈴木さんのサポートがありました。

町のテレワーク・起業拠点〈テレワークセンターMINAKAMI〉内にあるFLAPの事務所。ここで日々、中山さんと鈴木さんのミーティングが重ねられている。

中山さん「長壁さんは『アロマオイルをつくりたい』『地元の木材や枝葉を仕入れたい』という話だったので、それに対して何が必要かを鈴木さんと2人で考えて、若い林業チーム・木木木林を紹介することにしました。そうすることで彼が動きやすくなりますし、他にも同業の人を紹介してあげたり、外で蒸留ができる家を探したり、自分たちの持っているネットワークから人や情報を引っ張ってきて、つなげるということをやっています。その後の関係性も重要なので、紹介する人をしっかり見極める必要もあります」

長壁夫妻の自宅兼アロマオイルの工房。庭先にあるのは、オイルを抽出するための蒸留器。
周辺の住民との親和性も考慮して住居を紹介したという中山さん。長壁さん曰く、実際に近所関係は良好なようで、アロマオイルの原料になりそうな枝葉を分けてもらうこともあるそう。

中山さん鈴木さんの取り組みは、起業のための知識やノウハウを提供するというよりも、地域内の人的なリソースを共有することに軸足をおいています。移住者にとって最初の壁になるであろう“コミュニティづくり”をはじめの段階から提供することで、移住者も溶け込みやすくなっているようです。FLAPを通じた起業数は、初年度の2019年が3件、2020年は12件前後でした。起業の内容はWEBライター、飲食店、マッサージ、移動販売、登山ガイドなど多岐に渡ります。

今回のみなかみ町の取材では、中山さんが各所との調整を担当。めちゃくちゃフットワークが軽い中山さんに編集部は幾度となく助けられた。

実は中山さんも茨城県から移住してきた当事者。約7年前、結婚を機にパートナーの実家があるみなかみ町で暮らしはじめました。

「最初の2年はこの町の生活が楽しいと感じることができなかったです。人のつながりがなくて嫌だったんですけど、移住して2年目、妊娠・出産を機に妻の実家で一緒に暮らすようになって、そこから地域との関係性ができてくるんですよね。それから居心地が良くなってきました」

この経験が今の活動に活かされていることがよくわかります。同じく約5年前に大阪から移住してきた鈴木さんも、「移住者の目線で好き勝手おせっかいしてる感じですね」と、自身の経験の延長上に今の取り組みがあることが伺えました。

移住してきた人たちとFacebookでグループをつくり、オンラインでもコミュニケーションが取れるようにしているという。「タケノコありますよ~」「ご家庭で余ってる掛け布団ありませんか」「そろそろ雪かき道具そろえておいてくださいね~」といった暮らしの情報などが飛び交う。

職場と家庭が近い
テレワーク施設

中山さん鈴木さんを取材する前の朝9時。みなかみ町のテレワーク拠点であるテレワークセンターMINAKAMIを訪れると、入り口の前をほうきで掃いている男性の姿が見えました。ここ最近施設を一番利用しているという清水裕介さんです。

「ここの利用者は多いときで4人くらいですけど、だいたい僕かもう一人いるくらいですね。僕が主みたいになってます(笑)。だからか、つい掃き掃除とかはじめちゃうんですよ」

そう話す清水さんは、昨年12月に東京から家族4人で引っ越してきたばかりです。「広々としたところで子育てがしたい。自然に近いところで生活がしたい」という思いが、移住のきっかけでした。キャンプやスキーで訪れていた隣の片品村を中心に、その周辺で移住先を探す中で、新幹線の停車駅があって東京へのアクセスもいいみなかみ町が有力候補になりました。そして最終的には“人”で決めたと清水さんは話します。

テレワークセンターはかつて幼稚園だった建物を再利用している。

「鈴木さん中山さんと出会って、彼らの熱量や具体的な施策が非常に魅力的・先進的だなと思ったんですね。町として持続可能な世界を目指していく方向性や、自然エネルギーを使って自活していくようなビジョンを持っている点にもすごく共感しまして。それを実践しているのもいいなと思いました」

IT企業においてコンサルティング業務に従事する清水さん。実は自伐型林業チーム・木木木林のメンバーでもある。

当初は東京まで新幹線通勤を想定していたという清水さんですが、コロナの影響で現在はほぼテレワーク勤務だと言います。そうした状況下で、このテレワークセンターをメインオフィスとして活用しています。

テレワークセンター内のコワーキングルーム。みなかみ町写真提供

「オフィスとしての基本機能が家よりも格段にいいです。イス、テーブル、冷暖房、ネットワーク、プリンター、給湯器、オンライン会議専用の部屋もあって、環境が整ってますね。家で仕事をするとつい家事とかしちゃうんですけど、ここなら仕事に集中できるのでありがたいです」

ちなみに、ワークスペースの利用料は月1万円で使い放題です。「もうちょっと安いといいなあ(笑)」と清水さんがぽつり。月額プラン以外にも、スポット利用で3時間500円、1日1,000円と設定されています。

この日は清水さん以外に、エンジニアだという女性もコワーキングスペースを利用していた。

設備などの施設環境以外にも、行政の人と知り合えたり、別の会社の人と同じ空間で働くことで新しい発見があったり、ときには化学反応的なことが起きることもあるなど、思わぬメリットがあったと言います。併設されている学童には小学校1年生の息子さんが通い、妻の優佳さんもパートとして働いているそうです。

長男の遥生くんと次男の陽太くん。

「職場なんですけど、家庭と非常に近い。コンパクトにまとまってるけど、機能がちゃんと分けられているところがいいですし、働きやすいですね。東京に住んでいたときは、住む場所、働く場所、子どもが行く場所で分断されていました。私も父親がどんなところで働いているのか、1日どんなふうに過ごしているか知らなかったんですけど、それが見えるっていうのは子どもにとっても価値があると思います」

テレワークセンターから見える谷川岳。

自分自身にとっても、町にとっても、このテレワーク施設はまだまだ可能性を秘めているという清水さん。

「このテレワーク施設は人と人がつながる起点だと思います。実際、僕みたいなサラリーマンやエンジニア、サテライトオフィスを使っている企業、行政、学童の子どもと先生たちがいます。これだけの人が集まっている空間は珍しいと思うので、情報共有や交流できる機会が増えると面白いなって思います」

●テレワークセンターMINAKAMI公式HP
https://tw-g.org/

あなたはミスチル?ハイスタ?
それとも、くるり?

みなかみ町は旧水上町・旧月夜野町・旧新治村が合併して2005年に発足しました。この3つの地域はそれぞれ色が違うと中山さんが教えてくれました。

「移住してくる人と話してみると、「あ、この人はこの地域っぽいな」っていうのがわかりますよ。水上町が“ハイスタ(Hi-STANDARD)”、月夜野町が“ミスチル”、新治村が“くるり”というのが僕の勝手なイメージですね(笑)。アウトドア好きは水上、新幹線勤務するような人は月夜野、まったり農業やりたい系の人は新治って感じです」

地域ごとにカラーは異なるものの、全体的には「閉鎖的じゃない」と中山さん鈴木さんをはじめ、今回取材した方が口々に言っているのが印象的でした。観光の町であるということや、かつては宿場町として人が出入りする要所だった影響が大きいようです。

中山さんと鈴木さんが移住支援の活動を重ねる中で、町の人が応援してくれている熱も感じるようになったと言います。「移住希望者のアテンドで町のそば屋に行くと、サービスで天ぷらとそばを大盛にしてくれるんですよ。僕らはアテンドの度にそれを食べてるので結構太りました。美味しいものがいっぱいあるので、移住してきた人は太るかもしれません(笑)」

すっかりみなかみ町に馴染んだ鈴木さんと中山さんは、今、そしてこれから、どんな暮らしを送っていきたいのか、最後に聞いてみました。

鈴木さん「一人ひとりが人生を楽しんだら町って良くなるのかなって気がするので、僕自身スキーをしたり川で遊んだりして、ここでの生活を楽しみ続けたいです。そうやって他にも楽しんでくれる人が増えるといいなって思います」

中山さん「僕はインドアなんで家でYouTube見てるだけです。最近は畑をはじめたり、子どもと出かけたりすることもありますけどね。この町は温泉がいっぱいあるので、休日になると一番風呂に入るためにオープンとともに温泉へ行くことが多いです。そのあとにおいしいピザとかそばとか食べて、帰宅したら昼寝するっていうね。これ最高ですよ!」

鈴木さん「全然インドア派じゃないじゃん(笑)」

インドア派もつい外に出たくなっちゃう、そんな魅力あふれる地域なのかもしれません。
エンジョイ、みなかみライフ!

●Information
一般社団法人FLAP
群馬県利根郡みなかみ町月夜野3273-2 テレワークセンターMINAKAMI内
HP https://www.minakami.work/

1
みなかみ町ってどんなところ?
2
クラブ活動的林業のすすめ
3
WOOD JOB!な田舎暮らし
4
林業もこなすアウトドアガイド
6
移住者と地元住民のご近所関係
7
編集部の取材レポート
8
移住したらこんな特典が!
田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。
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